カンパニーと冬組公演
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「…綾奈さんマジこえー…」
「えー?失礼しちゃうなぁ」
第9話
みんなの立つステージに向かった私は、一応首元から関係者証をさげていたので簡単に舞台袖に入ることができた。ステージ上でやるのはさすがにちょっとお客さんに申し訳ないからね。
本日はありがとうございました、と観客に御礼を告げ、拍手に送られながらMANKAIカンパニー一同、そしてGOD座の彼等は舞台袖に戻ってきた。
主宰の神木坂レニ。お顔はもちろん知っていたがこうして対面するのは初めてだ。あれ?綾奈?、と不思議そうな声をあげるいづみに小さく笑い返して神木坂レニ氏に向き直る。不機嫌を隠そうともしない彼は何だと言うように私を視界に入れた。
「初めまして。MANKAIカンパニーの雑用をさせていただいております、高原綾奈と申します」
「、!高原綾奈…」
「はい。…ご存知ですよね?お調べになられたようで」
「…なんのことだか分からないね」
「そうですか」
彼はしらばっくれるつもりのようだがMANKAIカンパニーの冬組含め、そして私のことも調べていたのは分かってる。サングラスの男は彼が雇ったサクラだった。
東さんに聞いた事から冬組のみんなは過去の触れられたくない部分を調べあげられたらしい。そこを突いて内部から崩壊させようとした。…と、私は睨んでいる。ただ誤算だったのは私の過去が調べても何も出てこなかった事だろう。だから私だけ見に覚えのない噂を流された。どれもネットで見ました、なんてサングラスの男は証言していたことから私は持つ力すべてを使ってサーチした。私はネットの波に潜ることが大得意だった。隠語を使われても分かる。舐めないでいただきたい。
「私、先日見に覚えのない噂が流れてると教えていただいたんですけど、GOD座の方はそういった心配はございませんか?」
「…どういう意味かね」
「いえ、もしお困りでしたらお手伝い出来るかなと。私そういうのを特定するのが得意でして。私の噂の出元も判明したんですよね」
「!おまえ、まさか…!」
「名誉毀損ですからね。これを警察に届ければただでは済まないと思いますよ」
ギリッ、と苦虫を噛み潰したような恐ろしい顔で睨み付けてくる神木坂さんにニッコリと笑顔を返す。
「あ。今回のMANKAIカンパニーへの売上を渡すっていうのって、もちろん総売上ですよね?」
*
「…綾奈さんマジこえー…」
「えー?失礼しちゃうなぁ、万里くん。人肌脱いだっていうのに」
「だが、純売上ではなく総売上を取れたのは強い。お前の手腕には驚かされたな」
「ふふ。考えがあるっていったじゃないですか」
MANKAI寮に戻る道すがら、隣を歩く万里くんが少し青ざめさせながら口を開いた。神木坂さんとのやり取りを思い出しているのだろう。古市さんも同感なのか頷きながら、でもお褒めの言葉をいただいた。
もはや脅しだけどね、なんて内心思いながらも気分は晴れやかだった。やられたらやり返さないとね。
それに売上、とざっくりとしか言っていないというのはずっと気になっていたのだ。あれだけ派手な演出をするGOD座の経費を差し引いての純売上だけをもらうなんてもったいない。だから経費諸々を差し引く前の総売上を渡すようにと条件を出したのだ。こっちは解散をかけていたのだから、むしろ譲ってやった方だと思う。
「だって、このカンパニーが無くなって欲しくないって思うのは私もだから。借金も完済なんですよね?」
「あぁ。さっきのことといい、CD販売のことといい、お前はかなり貢献してくれた」
「あー確かに。なんか礼しねぇとなんじゃね?左京さん」
「そうだな」
「えー!じゃあ私も今夜の打ち上げにお呼ばれしたいな!」
「いや、それは当然、」
「タダ酒!臣くんの美味しいご飯!いづみに交渉してきます!」
「…アレ本気なんかねぇ。頼まれなくったって打ち上げ参加させるつもりだったっつの」
「…礼については監督さんにも意見を聞く。タダで働かせっぱなしだからな」
そっすね、という万里くんのため息も、古市さんの何か考え込んだ表情にも気付かず、私はいづみの背中に抱き着き打ち上げ参加の許可を得た。
つい抱き着いたから、いづみの隣を歩いていた真澄くんにめちゃくちゃ恨めしそうに見られた。でもなにも言ってこないあたりが彼の優しさだ。これが男でもあれば速攻で引き剥がしにかかっただろうに。
そのまま隣を確保していづみの腕を組んで歩く。大きな悩みが無くなった彼女の表情は晴れやかだ。
「ね、いづみ」
「ん?どうしたの綾奈」
「みんなのこと、信じてよかったね」
「…!、うん…。ありがとう綾奈」
「私に出来ることならやるから、いづみも彼等と一緒にこれからも頑張ってね」
目に涙を浮かべながら強い眼差しで大きく頷いた彼女は、なにかを決意したように私の腕に絡める腕に少し力を込めた。
GOD座のタイマンACTを受けるかどうかで悩んだ時のいづみはもういない。彼女も団員も、これからお互いが信頼し合って前に進んでいけるはずだ。 そして私もそんな彼等を陰ながら応援していきたいと強く思う。
「綾奈さん、ちょっとは元気になったか?」
「え?」
「ほら、この前。椋と帰ってきた日、ちょっと元気なかっただろ。バイクに乗ってる間もいつもより言葉少なだったし」
「…なにも聞かずにいてくれてありがとうね、臣くん」
「ハハ。俺が勝手に心配してただけだからな」
打ち上げの料理の準備を手伝っていると少し遠慮がちに開かれた臣くんの口。彼は向坂くんに余計なことを言ってしまったと落ち込んでいた私の事をずっと気にかけていてくれたらしい。確かに、あの日の帰り道は言葉は少なかったかもしれない。臣くんの広い背中に安心を覚えて、なにも考えずに腰に手を回していたのを覚えている。
「…うん、おかげさまで。解決…はしてないけどちょっとだけ自分の中でまとめる事はできたよ」
「そうか。…綾奈さんは俺の人生最大の後悔も聞かせててアレなんだが…綾奈さんも、後悔しないようにな」
「…そうだね。今この瞬間だって当たり前じゃない」
「俺は悩むことが悪いことだとは思わない。ただ、臆病になりすぎるのは違うよな」
優しく微笑みかけてくれる臣くんの包容力を肌で感じつつ、そうだね、と私も笑った。東さんだけじゃない。ここにも、私をみてくれる人がいた。それだけで心がこんなにもあたたかくなる。
大きなピザを何枚も拵える臣くん。その背中に小さく、ありがとう、と呟いて私は大量の唐揚げやフライドポテトを揚げていった。談話室から聞こえてくる賑やかな声をBGMにして。
20190318
