カンパニーと冬組公演
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「ちょっとだけ、聞いてくれるかな」
「え?」
第8話
ついに今日はGOD座とのタイマンACTの日。昨日の前楽は正直あまり良いとは言えないものだったといづみから聞いていたけど、今日こうして冬組メンバーの顔を見て大丈夫だと思った。初日も良かったけど、その頃よりも一層、組の雰囲気が良くなっているのがわかる。
先攻だったGOD座の舞台は今までと同じ、派手なものだった。演出としては面白いけど、せっかくの演技が演出に負けてしまうのは脚本はいいだけに勿体ないなと思う。どうしてもショーを観ている感が否めない。でもお客さんの反応は上々。こちらも気合をいれなければ。
「お待たせしました、月岡さん。メイクしていきますね」
「うん、よろしくね」
高遠さん御影さん有栖川さん、そして東さんのヘアメイクが終わって最後は月岡さんだ。彼は主役だ。私の出来る限りの腕で引き立ててみせる。
ファンデーションを塗り、アイメイクに取り掛かった時、ふと月岡さんは、やりながら聞いてほしいんだけど、と口を開いた。真剣な声色に驚いたが手は止めずに返事をする。
「初めて会った時に高原さんの芝居に影響されたって言ったの覚えてる?」
「え、あ、はい。もちろん。嬉しかったので」
「今の俺の芝居があるのは高原さんのお陰なんだ。僅かな仕草でも役の心境を表現する高原さんが本当にかっこよくて、俺もそうなりたいって思った」
「…」
「でも、俺は昨日の前楽でそれを見失って、なりたい自分を偽った。…その結果は散々だった」
馬鹿だよね、と言う月岡さんは目は閉じているけど彼の心情は声色でとても伝わってくる。そういう声だけでの表現もたくさん練習をして磨いてきたものなんだろう。
でも昨晩、高遠さんやみんなに言われて大切なものを思い出したと語る彼は穏やかだ。
「君はずっと俺の目標だ。…ありがとう」
「…いいえ。私こそありがとうございます。私も、月岡さんのお芝居とても好きです。優しい月岡さんだからこそ出来る繊細なお芝居です」
「っ…高原さん」
「皆木くんが貴方にミカエルを充てたのは大正解です。ミカエルは…主役は、月岡さんにしか出来ません」
まだここで咲き続けましょう、そう笑うと彼はゆっくりと目を開けて、それこそ花が開くかのように微笑んだ。
「あ、綾奈。おかえり」
「ただいま。瑠璃川くんの最高の衣装に見合うヘアメイクをしてきたつもりだよ」
「当然。負けるなんて許さないし。それにつくづく思ってたけど、綾奈ってセンスいいよね。今度買い物付き合ってよ」
「私でよければもちろん!」
他の奴らは時間が長いだのうだうだ煩いんだよね、とため息を吐く瑠璃川くんの隣の席に座って苦笑を返す。瑠璃川くんの奥の席に座っていた皇くんが、服屋で1時間も付き合わされるほうの身にもなれ!、なんて怒ってる。なんだかんだよく言い合いはしてるけどこの二人は仲が良い。多分共通の敵が現れて結託したら負ける気がしない。それは今、この瞬間も。
MANKAIカンパニー共通の敵…GOD座。
カンパニー存続をかけた舞台の、幕が上がる。
*
ワァッ!!!!、という歓声と割れるような拍手でハッと我に帰った。冬組の千秋楽は大成功だ。初日とは比べものにならないぐらい本当に、本当に素晴らしい舞台だった。
「すごかったねー冬組!俺めちゃくちゃ感動しちゃった!綾奈チャ…、綾奈チャン!?どしたの!?」
「えっ?なに三好くん?」
「あわわわわ…!綾奈さん、ハンカチどうぞ!」
「向坂くんハンカチって…、え!」
「なに。そんな泣くぐらい感動したわけ?」
「び、びっくりした…」
瑠璃川くんとは逆隣に座っていた三好くんの驚いた声と、向坂くんから差し出されたハンカチに、まさかと思って頬に手をやれば濡れる指先。少し呆れ気味に笑う瑠璃川くんに、まさかだったよ…、と私も苦笑をこぼす。
舞台に感動したのは本当だ。それこそ涙ぐむシーンもあった。それでも自分でも、気付かないうちに泣くなんて恥ずかしすぎる。でも多分、ラストのミカエルの仕草に、月岡さんの表情に、自身がお芝居をやっていた時のことを思い出させられたからだ。
芝居をやっているとたまに、なんとも言えない感覚に陥る時がある。うまく言えないけど役が乗り移るというか、ずっとその人生を送ってきたかのような感覚。その瞬間は紛れも無い本物を体現できるのだ。多分、ラストの祈るような表情をした月岡さんはそれだ。それがわかってしまった。
私はその瞬間が最高に好きだった。
あぁ、なんか本当に私は…
「羨ましいんだな…」
未だに拍手の鳴り止まない会場でポツリと呟いた声は誰に聞かれることなく、溶けた。
「もうすぐ集計結果が出るな…」
「そうだね。でも、なんだか不安はないな」
「ま、やるだけのことはやったしね。本人達もそうなんじゃない?」
真剣な面持ちで舞台を見つめる夏組のメンバーに私は同感だった。だからあとは祈るだけ。
そして結果発表の為、みんなはステージに向かった。私も来い、と言われたが断った。お手伝いはしてるけど、私はカンパニーの一員じゃないから。
そして発表されるGOD座の票数。…467。この会場にどれだけの人がいるかはっきり分からないけど、選べなくて投票していない人もきっといるだろう。そうなるとMANKAIカンパニーの票は未知数だ。
信じてる。もちろん信じてるけど。
祈る手にグッと力がこもる。どうか、どうか、
"MANKAIカンパニー…469票"
その瞬間、バッと顔を上げる。ステージに立つみんなは一瞬信じられないようで呆けていた。でも、勝った。MANKAIカンパニーが勝った!
ワアアア!と盛り上がるみんなに、私は一人胸の前で祈っていた手を更にぎゅっと握りしめた。
「よかった…みんながお芝居を続けられる」
自分の中でその言葉を反芻し、喜びを静かに噛みしめる。でもこうゆっくりもしていられない。私もカンパニーの為に出来ることをやらないと。
ガタッと座席から立ち上がり、私はみんなとGOD座の立つステージへ向かった。
20190313
