カンパニーと冬組公演
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「冬組公演のテーマは天使かぁ!」
「そ。今までだって手を抜いてきたつもりは無いけど、今回はGOD座とタイマン張る訳だから最初からフルで行く。もちろん手伝ってくれるでしょ?綾奈」
「当然。MANKAIカンパニーに勝ってほしいのは私も一緒だよ瑠璃川くん。アイツ等の鼻を明かしてやろう」
「ノッた。じゃー早速なんだけど…、」
第4話
脚本が出来たから、といづみに言われて仕事終わりに寮にやってくれば青い顔をした皆木くんに遭遇してめちゃくちゃ驚いた。ゾンビみたいな顔色だった。
なんでも、脚本も担う彼はスイッチが入ると食事も忘れて執筆作業に入ってしまうらしい。そして出来上がった脚本をメンバーに渡した瞬間に意識を失う…と。信じられない話だけど過去三回の公演すべてがそんな感じだったらしい。いつか体こわすぞこの子。
ご飯は食べた?、と聞くと「これからっす…」という返事。どうやら出来てから少し寝ていたらしい。寝て休んだのにこの顔色か、とゾッとしたけど食べていないならしかたない。なにか作ってあげるよ、と2人で談話室に向かった。
「あれ、綾奈じゃん。カレー星人から連絡きたの?」
「あ、瑠璃川くんこんばんは!そうそう、脚本出来たからって。まだ読んではないんだけどね」
「フーン。あ、GOD座が出してきたテーマは"天使"だってさ」
談話室に入ってとりあえず皆木くんには軽食を作る間に休んでもらおうと温めたタオルを渡した。これが目にいいんだよね。
のせた瞬間に身体の力が抜けるように「ハァ~…」と息を漏らした皆木くんに思わず笑ってしまった。わかるぞ、その気持ち。
軽食は明日の食事に支障をきたさないであろう食材を選抜して使わせてもらおう、と考えているといつも可愛い彼の声。そちらへ目を向ければやっぱり今日もどこを見ても可愛い瑠璃川くんの姿。なんとなく自分が瑠璃川くんに向ける視線はオバさん化してるなぁ、と内心冷や汗をかきながら口を開く。
私の裁縫の腕はどうやら瑠璃川くんお眼鏡に叶っているようで、今回も衣装作りの手伝いをすることになった。羽の表現をどうするかだとか、そういう部分も相談してくれるのはとても嬉しい。ただそのクオリティを求めるなら私たち2人じゃ厳しいかもよ、と現実的な考えを告げれば、犬がいるから大丈夫、との返事。犬…?、と思わず首を傾げたがそこは心配するなと言われたので頷いておいた。その歳で犬扱いする相手がいるなんて瑠璃川くんは将来有望(?)だなぁ。
また後で瑠璃川くんの部屋に行くね、と別れてお腹を空かせた皆木くんのところへ戻る。うとうとしている彼はまだ寝足りなさそうだけど、ここでそれを許したら朝まで起きなさそうなので心を鬼にする。少しでも食べておかないと。育ち盛りなんだし。
「皆木くん、簡単で悪いんだけど炒飯作ったよ。起きれる?」
「…いい匂い。あざっす」
「秋組の脚本も素敵だったけど、執筆のやり方はちょっと気になるなぁ」
「思いついた時にガーッとっていうのがコツなんで…。レポートとかもいつもそんな感じっす」
「その考えは一理あるんだけど…いかんせん食べなくなるのはなぁ」
炒飯美味いっす、と誤魔化すように苦笑しながら箸を進める皆木くんを見ながら何かいい案はないかなぁと思案する。多分、書く手を止めるっていうのが嫌なんだと思うから手を使わないで摂れる食事…いや、ねーわそんなん。これは今後の課題だな。ちょっと臣くんにもまた相談してみよう。
もぐもぐと咀嚼する皆木くんに、脚本が出来たということを聞いて今日ここにきたことを伝え、お疲れ様、と労わる。照れ臭そうに、まだ微調整はあるんすけどね、と笑う彼に私もこれから脚本を読むのが楽しみだ。
まだ秋組の公演しかみていないけど、聞いた話によれば春組も夏組も明るい話の喜劇がメインみたいだし、明るい天使のお話っていうのもとても気になる。と思っていたら今回はどうやら悲劇らしい。GOD座との差をつけるためなのだとか。
うーん、たしかにGOD座はいつも煌びやかだからなぁ。予算分けて欲しいよね。ま、今回勝てば売り上げをMANKAIカンパニーに渡すと豪語してるらしいし、勝ちゃいいんだこっちは。…とはいえ負けたら劇団は解散っていうのは重すぎる気もするけど。やらしいなぁ。
毎回当て書きしているとのことだけど、冬組のメンバーの天使をテーマにした悲劇…。…うん。これは期待が出来そうだ。中々にいい人材が揃ってるもんね冬組も。あっちの得意なテーマなのかもしれないけど、そうとも限らないぞこれは。
ぎゃふんと言わせてやりたいなぁ、とちょっと悪い顔をしていると、ふと炒飯を食べる皆木くんに目が止まる。少し寝たとはいえやっぱり目の下にはクマがある。大好きな親友にもあったようにうっすらではあるけど。
そっか、そうだよね。きっとそのクマは脚本を書く手がノッたからって理由だけじゃない。
「皆木くん、難しいかもしれないけど、あまりプレッシャーに感じないようにね」
「、!えっなんでっすか?」
「…いくら演者が凄くても、何よりも重要なのは脚本だもん。それは書いてる皆木くんが1番分かってることでしょう」
「…まぁ、演技だけではどうにもならないものもあるのは分かってるっすけど…」
「うん。だから、お疲れ様。私はまだ読んでないけど、きっとみんなには好評だったんでしょう?微調整だけって言ってたもんね。…でもカンパニーにとって最重要と言っても過言でない舞台の脚本だし、きっとそういう不安もあったよね」
「綾奈さんはすごいっすね…。ありがとうございます。実際結構切羽詰まってたとこもあるんで…」
「そっか、頑張ったんだね」
よしよし、と思わずその茶髪を撫でる。撫でられ慣れていないのか、彼は「うわぁ!?」と顔を赤くして飛び退いてしまった。うーん、残念。あれ、これセクハラなのかな。
ごめんごめん、と笑えば彼は慌てたように謝罪してきた。
「す、すんません!嫌ってんじゃなくて…その、そういうのいつもする立場だったもんで」
「あ、もしかして長男?」
「いや三男なんすけど、下に7人弟がいるんスよ」
「わ!大家族!10人兄弟はすごいね~!そりゃ面倒見もよくなるわ」
可愛いんスけどね、と笑う皆木くんは本当にお兄ちゃんの顔で。たしかに彼の下にまだ7人いると考えると、まだまだ幼い子も多いだろうから面倒見るのも大変だ。甘えるのも出来なくなっちゃうだろうな。いってもまだ若いのに。典型的な俺がしっかりしなきゃタイプだろうしなぁ、と考えて自分の年齢を思い出す。信じたくないけど私もう成人して何年も経ってるじゃん、と。
「じゃあさ、皆木くん。私は君のお姉さんってことでどう?」
「ぶっ…!な、ハァ!?」
「私これでも成人してから何年も経つわけでして。意外と頼れると思うよ。弱音吐く場所、欲しくない?」
「…なんつーセールスしてんすか綾奈さん…」
「ふふ!いいじゃんいいじゃん!男同士だから言えないこととか、監督だから言えないこととか、多分色々あるだろうけど、私だったらどれにも属さないし!でも一応カンパニーの事情とかは知ってるし!」
「…いいんすか。そんな面倒なこと」
自信なさげに、申し訳なさそうにそう聞いてくる彼の頭をもう一度くしゃりと撫でる。今度は、避けられない。
それが受け入れてくれた証のようで、嬉しくて私は「もちろん」と笑った。
「それに、もう一つ特典があるよ!」
「ハハッ!特典って…!…なんすかっ?」
年相応の笑い方をする彼にホッとして、私は口を開く。まぁ、それは彼に限らずこのカンパニーの人達みんなにも言えることではあるけど。
「絶対、私は君の味方をするってことだよ」
20190307