カンパニーと冬組公演
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「タ、タイマンACT…」
第3話
高遠さんと月岡さんの部屋を出て談話室に向かうと、そこにはボヤッとしてソファに座るいづみの姿。まーた何か考えこんでんな、と小さくため息をついてドサリと彼女の隣に座る。そこでようやく私の存在に気付いた彼女は悩みを押し込めて笑った。…うーん、こうやって笑顔ですぐ隠しちゃう癖は本当に治らないなぁこの子は。
「もう用事は済んだの?」
「うん。ちょっと話してただけだから」
「そっか。綾奈がカンパニーに馴染んでくれるのは嬉しいな~」
「みんないい人だもんね。…でも、この劇団は君がいてこそなんだからね。今なら綾奈ちゃん独り占めできるけどどうする?」
「、!…ははっ…。なんか本当…綾奈には隠せないね」
独り占めさせてください、と私の肩にぽすりと体重をかけた彼女は、胸の内の悩みをポツリポツリと話し出した。
GOD座はMANKAIカンパニーの総監督が"立花"いづみであるからか、なにかと目の敵にしているらしい。まぁ、スパイとして送り込んだ七尾くんやGOD座のトップを務めていた高遠さんがいることも少なからず理由ではあるんだろうけど。
でも、タイマンACTなんて。本当にこのカンパニーを潰しにかかっている。
冬組対GOD座ということになるらしいけど、必然的にMANKAIカンパニー全体を冬組だけに背負わせることになってしまう。でもそうさせる気はないから、といづみは冬組に…リーダーである月岡さんに勝負を受けないという選択肢も提案しているのだそう。それは間違いではないと思うけど、いづみだって相当参ってる。カンパニーが解散させられたら…それこそ路頭に迷う人まで出てきてしまう。人の人生を背負っているのだ。こんなに、細い小さな背中で。
「お父さんがいてくれたら、もっとうまくやったんだろうなぁ…」
「いづみ…」
「…あ、オフレコね。綾奈の前だとつい弱音吐いちゃうや」
弱々しく笑う彼女は多分あまり夜も寝られていないのだろう。目の下にうっすらとクマが浮かんでいる。お父さんのことにもあまり触れてこなかった彼女が自らその名を出すくらいには弱っているのだ。
「…いづみ。もちろん君のお父さんはすごい人だと思う」
「…うん」
「でも、それと同じぐらい私はいづみのこともすごい子だって思ってるよ」
「…私が?」
心底不思議そうに私を見上げる彼女の髪を撫でる。その頭を私の肩に寄せてそのまま撫で続ける。母親が子供をあやす様にゆっくりと。
「この劇団を作ったのはいづみのお父さん達かもしれない。でも、今のこの劇団はいづみが作ってきたじゃん。過去と現在をつないできた。そして春夏秋冬のメンバーをつないできた。それってそう簡単に出来ることじゃないんだよ」
「…そんなの、きっと綾奈にだって出来たよ」
「なにいってんの。私だったら最初の古市さんがここを取り壊そうとしてる時点で終わり。私じゃ古市さんを止めるなんて無理だよ。いづみが立花いづみであるから、古市さんはいづみに妥協案を出したんだよ」
分かるでしょ?、と言えばいづみは眉を下げた。反論してこないところを見るに理解してくれたらしい。そういういづみの賢いところが好きだ。
それでも不安が拭えないのか、彼女は私に「綾奈だったら今の状況どうする?」と尋ねてきた。真剣なその瞳はどんな小さなことでも良いからこの先のヒントが欲しいようだ。それに対して私は静かに口を開く。私の答えは簡単だ。
「カンパニーのみんなを信じて待つ、かな」
「信じて、待つ…」
「うん」
だってみんなこのカンパニーをどうにか守ろうと悩んでる。そしてそれを託された月岡さんも。そしてその彼は高遠さんとの蟠りを解きに行った。そしてそれは大きな一歩。一丸になったカンパニーは、きっと思ってる以上に強いものになる。
だから私は待ってるよ、とニコリと笑えばいづみも涙ぐみながら「うんっ…」と頷いた。
そしてその晩、家に帰った私はいづみからタイマンACTを受けることになった旨を聞いた。その声は嬉しそうで、そしてやる気に満ちていた。きっと恐らく、後ろで騒いでるメンバーも同じ気持ちなんだろう。
賑やかだね、と笑えば「今、組対抗のババ抜き大会が始まってて…」という苦笑気味のいづみの返事。なんだそれめちゃくちゃ楽しそう。私を誘おうって声も嬉しいことに上がったらしいんだけど、そこはいづみが反対したらしい。まぁ、もういい時間だからね。行きたかったけど明日も仕事だし、誘われなくてよかったかな。誘われてたら無理してでも行こうとしただろうし。
いづみも無理しないところで休みなよ、と言えば急にガチャガチャし出す音に思わず携帯から耳を離した。なんだ?
「あ!綾奈ー?オレだよ~」
「その声…斑鳩くん?」
「あたり~!カントクさんに電話変わってもらっちゃった~」
「そっかぁ。あ、斑鳩くん風邪はひいてない?」
ガチャガチャとした音の正体は斑鳩くんがいづみから携帯を奪っ…借りたからだったらしい。全然元気だよ~、と朗らかに笑う彼には悪意がないからきっといづみも怒るに怒れなくて苦笑してるんだろうな。
そろそろ厚着はしてね、と言う言葉に元気よく返事をしてくれて彼は、あのね、とさらに声を弾ませた。
「カントクさんね、昨日とかちょっとしょんぼりしてたんだー。だからオレとっておきのさんかくを見つけてカントクさんにあげようと思ってたんだけど、たすくとつむぎが仲直りしないからあげる前に無くなっちゃってたの」
「…あーなるほど。それで公園に居たんだね」
「うん。それで今日もいいの見つけられなくてガッカリして帰ってきたんだけど、でもなんか今日カントクさん元気になってた!」
それって綾奈のおかげ?、と尋ねてくる斑鳩くんにどう答えたものかと悩んだけれど、要はいづみは吹っ切れたということだ。それに斑鳩くんみたいに心配してくれる人がいた。多分、カンパニーには聡い子が多いから気付いていた子もたくさんいただろう。私が思っているよりもずっとずっと、いづみは大切にされている。
思わず手を当てた胸のそこはポカポカとあたたかく、私を幸せな気持ちにさせてくれた。私の大切な大好きな親友がこうして大切にされているという事実がなによりも嬉しいのだ。
「私じゃないよ。斑鳩くんみたいに、カンパニーのみんながいづみを気にかけてくれるからいづみは頑張れるんだよ。ありがとう」
「ほんとー?そうならオレ、嬉しい!」
「これからもいづみのこと、よろしくね」
「うん!オレみんなのこと大好きだから、だからよろしくする!」
じゃあまたね~!、と切られた電話を置き、MANKAI寮とは打って変わって静かな我が家が寂しくて、でもどこか心は温かい気分のまま、私はベッドに横になった。
20190126
