カンパニーと冬組公演
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「あー!綾奈だー!昨日と違う!!!」
「?」
第2話
冬組の稽古が始まったらしく、差し入れを持ってMANKAI劇場に向かう道すがらに斑鳩くんに声をかけられた。あえて言わせてもらうがきちんと仕事はしてます。お前いつも劇場行ってんなっていうツッコミは控えてください。
斑鳩くんがいたのは天鵞絨町の少し大きい公園だった。なにしてるの?、と声をかければ、さんかく探し!、と元気な返答。…今更だけど今日はド平日なんだけど斑鳩くんって学校とか仕事とかってどうしてるんだろう…。人それぞれ事情があるから聞くのは野暮か…?フリーターなのかな…。
「そっか。でも最近はだいぶ冷え込んできてるから上着着たほうがいいんじゃないかな?」
「ん~~~でも動いてるとすぐ暑くなっちゃうから、いらない!」
「…そ、そっかぁ。風邪だけはひかないように気をつけてね…」
ありがとー、と笑う彼が風邪をひいて弱る姿は想像出来ないが、それでも役者は身体が資本だし気をつけてもらいたいところだ。
それにしても出会い頭の『昨日と違う』発言はどういう意味だ?、と頭にハテナを浮かべながら問えば、たすくとつむぎが仲直りしないから昨日のさんかくが消えるの!、とぷんすことご立腹な様子。まったくもって理解出来ないけど、これから劇場に行く訳だしその二人に聞けば何か分かるかな。
じゃあね~、と再びさんかく探しに旅立ってしまった斑鳩くんを見送り、大分寒くなってきたなぁと腕をさすりながら劇場に向かった。
「綾奈さん、この後ちょっといいか」
「?はい、もちろん」
MANKAI劇場について支配人の松川さんに冬組は絶賛稽古中だと教えてもらい、稽古場に向かう。休憩の頃合いを見て入ろう、とドアの窓から様子を見ていれば演技に関してもなんともまぁ個性豊かなようだ。高遠さんは勿論、経験者の月岡さんもいい感じだし、有栖川さんも元々演技がかった話し方をされるから言うほど違和感はない。雪代さんは小さな仕草とか、視線の動かし方が上手い。人をよく見てる証拠だ。でも一番びっくりしたのは御影さんだ。あんなに眠そうというか寝てる彼が演技の時には驚くべき実力を発揮する。未知数すぎ。
しばらく見ていると休憩に入ったようで各々が自由にし始めたのでノックをして顔を出してみた。パチリと視線のあったいづみはそれは嬉しそうに私を招きいれてくれた。可愛いなぁ。
「綾奈!来てくれたんだね!入って入って。今ちょうど休憩中だから」
「うん、お邪魔するね。今日はミニ寿司買ってきたんだ~。お昼まだですよね?良かったら少し食べませんか?」
「かわいいね。少し頂こうかな」
「…綾奈っていつも差し入れオシャレだよね…」
「仕事の休憩中に美味しそうなものばっかり検索してるんだよね」
お寿司は好評で、有栖川さんは「詩興が湧いたぞ!」と何やら高らかに披露していた。残念ながら私に彼のセンスを理解することは出来なかったけど。
大人な雰囲気があり、わりといい組になりそうな冬組を眺めていると「あの、」と少し緊張した面持ちの月岡さんと高遠さんに声をかけられた。
稽古後に時間が欲しい、と。
断る理由もないので二つ返事で了承して、二人にもお寿司を勧める。ソワソワした様子は気がかりだけど、ありがとう、とお寿司を口にした二人が小さく笑ったので私は満足だ。
「それで、どうしたんですか?」
「その…信じてもらえないかもしれないけど、全部本当のことなんです」
「…なんだかのっぴきならない事があったみたいですね」
稽古後。そそくさと稽古場を後にしようとする二人に続いて私も後にした。珍しい組み合わせにいづみは少し不思議そうにしてたけど心配はしてないようで、またあとでね!と笑顔で送ってくれた。
同室であるという二人の部屋へ入り、月岡さんが珈琲をいれてくれている間も高遠さんは眉間に皺を寄せてめちゃくちゃ考え込んでいた。うーん、これは相当な悩みだな…。いづみじゃなくて私に話すってことは劇団関連じゃないってことなのだろうか。
珈琲を手に戻って来た月岡さんにお礼を言って、それで、と早速口火を切った。信じられないような話をするということだろうか?私の可哀想な頭ではまったく想像がつかないや。
「大丈夫。信じますよ!お二人のような方がそんなに思い詰めるほどの事なんですから。私で良ければ聞かせてください」
「っ!ありがとう…」
「…実際のことを話すが、正直俺自身がまだ信じられないからな。気は遣わなくていい」
「分かりました」
そして話を聞いていけば確かにこれは俄かには信じがたい。このご時世、誰がタイムリープを信じると?演技の上手いお二人だから思わずフィクションかとも思ってしまう。
このカンパニーには七不思議とやらがあるらしく、その内の一つが"無間人形"という仲違いした二人を仲直りさせるまで無間地獄に陥らせてしまうという、優しいのか怖いのか分からない説があるのだとか。で、まさかとは思ったけどその被害に遭った当人達が目の前にいるというのだ。
「唯一この異変に気付いた三角くんに、そのぬいぐるみの前で仲直りしろって言われたんだけど…」
「…あの、今更なんですがお二人は今ちょっと気まずい感じなんですかね…?」
「…」
「…あーなるほど…。すみません。えっと、そのぬいぐるみの前で何か試したりとかは?」
「…肩を組んだりとか、笑いあったり、だな。それらしく見えるものはやってみたがダメだった」
「そうですか…」
まぁそりゃダメだろうな、と二人を見て思った。今の二人はお互いに苛立ってるとか嫌ってるとかそういうのじゃなくて、どうやらすれ違ってるように見える。もちろん理由は分からないけど、そんな無限ループにしてしまうような力がある人形なら上部なんてきっとお見通しだろう。本当の意味で仲直りしないと意味がないんだ。
とはいえ、私は普通に今日を迎えた訳なのでループしている実感はないし、相談されたもののなにもいい案が浮かばない。
どうしようか、と顎に手をあてて、うーん、と唸ってみると月岡さんが「勝手だけど、」と口を開いた。
「昨日までは高原さんはいなかったから、今日会えた高原さんになら何か解決策が思い浮かぶかなって思ったんだ。無理言ってごめんね」
「いえ、そんな。うーん…まぁでも無限ループは置いといて、要は仲直りすればいいんですよね」
「…」
「…大人になると素直に自分のことを話すって中々出来なくなっちゃいますよね。私もそういう経験あります。ましてや喧嘩相手なら尚更ですよね。…でもお二人なら大丈夫です。こうしてこのカンパニーで…劇場で再会出来たんですし!お芝居が二人を引き合わせてくれたんですよ、きっと」
「、!」
「高原さん…」
「"私達"って、意外と別の手段持ってると思いませんか?」
「…そうだな。俺達はそれしかないよな。…ありがとう」
「いえいえ。行ってらっしゃいです」
「あぁ。行くぞ、紬」
「えっ?どういうこと?ちょ、烝!」
高原さんっごめんね…!、とバタバタと高遠さんを追いかけて部屋を出る月岡さんをヒラヒラと手を振って見送った。
なんとなくだけど、あの二人はもう大丈夫だろう。話していたらそう思った。素直になれなくても、それは"自分"だからであって、代弁してくれる"誰か"がいればそれでいい。
だって私達は、役者なのだから。
「…珈琲飲んだらこの部屋から退散しよう」
出るタイミング逃したけど、さすがにここにこのままは気まずいや。ハハ、と苦笑をこぼしてまだ温かい珈琲を啜った。
20181213
