再開と秋組公演
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人生という舞台では、誰もが主演である―――――。
「いづみ…?」
「え…」
第1話
「びっくりした~…。綺麗な人に声かけられたと思ったらそれが綾奈なんて…」
「いやいや!私もびっくりしたよ。似てるなとは思ったけどまさか会うとは思わなかったし」
「劇団以来だもんね。3.4年は経つのか。なんだかんだ忙しくて連絡とってなかったし」
「もうそんなに経つのか…早いな~」
街中で偶然見かけた中学からの旧友と立ち話もなんだから、と近くのカフェに入った。変わらない彼女の姿に嬉しく思いながら頼んだ珈琲を口にする。砂糖もミルクもいらない、酸味のない飲みやすい味だ。数年前には分からなかった感覚。私たちはそれほど時を重ねていたらしい。
「…本当、綺麗になったね綾奈」
「あはは、ありがとね。いづみも元気そうで良かった。安心した」
「えっ、あー…ごめんね。あの頃はちょっと自分に手がいっぱいで…」
「ううん。…お家、大変って聞いたけど」
「…うん、まぁ」
状況としてはそんなに改善はしてないんだけどね、と彼女は少し寂し気に笑った。
彼女、立花いづみは演劇関係の仕事をしていた父親が行方不明という複雑な環境にいる。いづみがお父さんが大好きで尊敬していたことを知っているからこそ、行方不明だと聞いた時どんな言葉をかければいいか分からなくて自然と距離を置くようになった。どんな言葉をかけてもきっと、彼女は笑うだろうから。私はその姿を見たくなかったのだ。…なんて、言い訳にしかならないけど。
でも、彼女のことを忘れた訳ではなかった。ふとした瞬間、例えばニュースで行方不明事件を見た時とか、演劇関連の話題を耳にした時に決まって演劇馬鹿である彼女のことを思い出した。
今、彼女は笑っているだろうか、と。
「お父さんは未だに行方不明だけど、今はそのつながりがあるところで働いててね」
「…へぇ」
「私、今とても充実してる」
照れくさそうに、そして心からの笑顔に私は数年うごめいていた感情がスッと落ち着いていくのが分かった。今日、彼女に会えて本当に良かった。
そうみたいだね、と返せば、ありがとね、なんて検討違いの言葉。それはこっちの台詞なんだよ、いづみ。
あの頃の蟠りが消えれば、私たちは一瞬であの頃の私たちに戻る。今あの子はあそこで働いているんだよーとか、あの子は結婚したんだよーとかそんな他愛のないこと。私達はそういう簡単なことが出来なかったんだ。
「綾奈は?今どうしてるの?」
「あ、うん。私は、」
「あれ?監督?」
「ん?あれ、綴くん!今日はここのバイトだったんだね」
「そうっス。監督は?打ち合わせッスか?」
「ううん。友達に会ったからお茶してたんだ」
「あ、そうなんスか。すんません、邪魔した」
第三者の声が聞こえて顔をあげれば大学生くらいの男の人。どうやらいづみの知り合いみたいだけど、なんでカントク呼び?
不思議に二人を見ていた私の視線に気づいていづみは、紹介するね、と彼を指した。
「彼は皆木綴くん。うちの劇団員なの」
「どもッス」
「あ、ご丁寧にどうも…」
「で、彼女は高原綾奈さん。中学時代からの友人なんだ」
「へー!」
「あ、あの話切っちゃって悪いんだけど、」
「ん?」
「今、劇団員って…?」
あ、立たせたままでごめんね、と良かったら座って話そうと皆木くんにも声をかけて、どうやら休憩に入ったところだったらしいので、お言葉に甘えて、と彼はいづみの隣に座った。礼儀正しい子だ。
「なんやかんやあってね。お父さんの劇団を存続させる為に私が主宰兼総監督としてやっていくことになったの。今のところなんとか2公演は成功させてきたんだ」
「お父さんの劇団を…」
「まぁ、確かに監督の年齢で主宰ってびっくりするよな」
「主宰っていっても形だけの部分が大きいんだけどね…」
「でも実際、監督のおかげでここまで来れてる訳だし。すごい事ッスよ」
よーし今日は嬉しいから夕飯カレーにしちゃうね!いや2日前もカレーだったし!、と仲良さげに話す二人を見ながら昔の彼女の寂しい背中を思い出す。彼女の寂しい背中は父親のことがある前からたくさん見てきた。
色々、あったからね。
「…いづみが」
「?」
「演劇にまた関わってくれててすごい、嬉しい」
「綾奈…」
「…?めっちゃ心配されてますけどなんかあったんスか…?」
「あー…っと」
「あ、えっとなんていうかね!やっぱり演劇が好きなんだなって!それが分かってよかった!」
皆木くんはいづみの劇団員時代のこととか話してないのかな、と思って慌てて訂正する。言ってなさそうだな。いづみはいつも一人で抱え込んで、そして一人で泣いて、そして笑うから。
再開してからまだ数時間なのに私は後悔ばかりだ。どうして私はあの時のいづみのそばに居続けられなかったのか。こんなにも、優しい子の傍に。
にこりと笑顔を向けると、彼女の眼にはどんどん水分が溜まっていった。…ちょ、え。水分?
「綾奈好き~~~っ!」
「えっ」
「か、監督?」
「…忙しくて連絡できなかったっていったけど、そうじゃないの」
「、っ」
「本当はずっとずっと会いたかった…っ。あの時だって綾奈が私にどう対応すればいいのか考えあぐねてたのも分かってた。その時の私はその優しさに甘えて…っ!でもそんな自分が許せなくって、ずっと綾奈から逃げてたの…」
腕に顔を伏せて涙声ながらに懺悔をするいづみ。表情は見えないけど、どんな表情をしてるかなんて簡単に想像がつく。彼女の隣に座る皆木くんがオロオロと私と彼女を見渡している。
「情けなくて恥ずかしくって…顔向け出来ないってずっと…っ私、」
「いづみ」
そっといづみの手に触れて顔をあげさせる。
私に綺麗になった、と言ったけど、いづみ。君もすごく綺麗になったよ。優しくてまっすぐで、そして強い。
そうやって面と向かって謝罪も、簡単なことだけど意外とできないことだから。
「私は、こうやって会えただけで嬉しいから。だから、私こそありがとう」
「…これからも、連絡してもいい?」
「もちろん。劇団のこととかも、もし何か手伝えることがあるなら協力するから」
「っありがとう…っ!」
「だからもう泣き止んで!ケーキでも食べる?ごめんね、皆木くん」
「えっ!いや俺は全然」
チーズケーキ食べようかな!、と笑った彼女に安心して、皆木くんは、持ってくるッスわ、と席を立った。休憩中なのに申し訳ない。
彼が運んできてくれた絶妙においしいチーズケーキを頬張りながら3人でまた世間話をして、穏やかな時間は過ぎていった。
20170723
「いづみ…?」
「え…」
第1話
「びっくりした~…。綺麗な人に声かけられたと思ったらそれが綾奈なんて…」
「いやいや!私もびっくりしたよ。似てるなとは思ったけどまさか会うとは思わなかったし」
「劇団以来だもんね。3.4年は経つのか。なんだかんだ忙しくて連絡とってなかったし」
「もうそんなに経つのか…早いな~」
街中で偶然見かけた中学からの旧友と立ち話もなんだから、と近くのカフェに入った。変わらない彼女の姿に嬉しく思いながら頼んだ珈琲を口にする。砂糖もミルクもいらない、酸味のない飲みやすい味だ。数年前には分からなかった感覚。私たちはそれほど時を重ねていたらしい。
「…本当、綺麗になったね綾奈」
「あはは、ありがとね。いづみも元気そうで良かった。安心した」
「えっ、あー…ごめんね。あの頃はちょっと自分に手がいっぱいで…」
「ううん。…お家、大変って聞いたけど」
「…うん、まぁ」
状況としてはそんなに改善はしてないんだけどね、と彼女は少し寂し気に笑った。
彼女、立花いづみは演劇関係の仕事をしていた父親が行方不明という複雑な環境にいる。いづみがお父さんが大好きで尊敬していたことを知っているからこそ、行方不明だと聞いた時どんな言葉をかければいいか分からなくて自然と距離を置くようになった。どんな言葉をかけてもきっと、彼女は笑うだろうから。私はその姿を見たくなかったのだ。…なんて、言い訳にしかならないけど。
でも、彼女のことを忘れた訳ではなかった。ふとした瞬間、例えばニュースで行方不明事件を見た時とか、演劇関連の話題を耳にした時に決まって演劇馬鹿である彼女のことを思い出した。
今、彼女は笑っているだろうか、と。
「お父さんは未だに行方不明だけど、今はそのつながりがあるところで働いててね」
「…へぇ」
「私、今とても充実してる」
照れくさそうに、そして心からの笑顔に私は数年うごめいていた感情がスッと落ち着いていくのが分かった。今日、彼女に会えて本当に良かった。
そうみたいだね、と返せば、ありがとね、なんて検討違いの言葉。それはこっちの台詞なんだよ、いづみ。
あの頃の蟠りが消えれば、私たちは一瞬であの頃の私たちに戻る。今あの子はあそこで働いているんだよーとか、あの子は結婚したんだよーとかそんな他愛のないこと。私達はそういう簡単なことが出来なかったんだ。
「綾奈は?今どうしてるの?」
「あ、うん。私は、」
「あれ?監督?」
「ん?あれ、綴くん!今日はここのバイトだったんだね」
「そうっス。監督は?打ち合わせッスか?」
「ううん。友達に会ったからお茶してたんだ」
「あ、そうなんスか。すんません、邪魔した」
第三者の声が聞こえて顔をあげれば大学生くらいの男の人。どうやらいづみの知り合いみたいだけど、なんでカントク呼び?
不思議に二人を見ていた私の視線に気づいていづみは、紹介するね、と彼を指した。
「彼は皆木綴くん。うちの劇団員なの」
「どもッス」
「あ、ご丁寧にどうも…」
「で、彼女は高原綾奈さん。中学時代からの友人なんだ」
「へー!」
「あ、あの話切っちゃって悪いんだけど、」
「ん?」
「今、劇団員って…?」
あ、立たせたままでごめんね、と良かったら座って話そうと皆木くんにも声をかけて、どうやら休憩に入ったところだったらしいので、お言葉に甘えて、と彼はいづみの隣に座った。礼儀正しい子だ。
「なんやかんやあってね。お父さんの劇団を存続させる為に私が主宰兼総監督としてやっていくことになったの。今のところなんとか2公演は成功させてきたんだ」
「お父さんの劇団を…」
「まぁ、確かに監督の年齢で主宰ってびっくりするよな」
「主宰っていっても形だけの部分が大きいんだけどね…」
「でも実際、監督のおかげでここまで来れてる訳だし。すごい事ッスよ」
よーし今日は嬉しいから夕飯カレーにしちゃうね!いや2日前もカレーだったし!、と仲良さげに話す二人を見ながら昔の彼女の寂しい背中を思い出す。彼女の寂しい背中は父親のことがある前からたくさん見てきた。
色々、あったからね。
「…いづみが」
「?」
「演劇にまた関わってくれててすごい、嬉しい」
「綾奈…」
「…?めっちゃ心配されてますけどなんかあったんスか…?」
「あー…っと」
「あ、えっとなんていうかね!やっぱり演劇が好きなんだなって!それが分かってよかった!」
皆木くんはいづみの劇団員時代のこととか話してないのかな、と思って慌てて訂正する。言ってなさそうだな。いづみはいつも一人で抱え込んで、そして一人で泣いて、そして笑うから。
再開してからまだ数時間なのに私は後悔ばかりだ。どうして私はあの時のいづみのそばに居続けられなかったのか。こんなにも、優しい子の傍に。
にこりと笑顔を向けると、彼女の眼にはどんどん水分が溜まっていった。…ちょ、え。水分?
「綾奈好き~~~っ!」
「えっ」
「か、監督?」
「…忙しくて連絡できなかったっていったけど、そうじゃないの」
「、っ」
「本当はずっとずっと会いたかった…っ。あの時だって綾奈が私にどう対応すればいいのか考えあぐねてたのも分かってた。その時の私はその優しさに甘えて…っ!でもそんな自分が許せなくって、ずっと綾奈から逃げてたの…」
腕に顔を伏せて涙声ながらに懺悔をするいづみ。表情は見えないけど、どんな表情をしてるかなんて簡単に想像がつく。彼女の隣に座る皆木くんがオロオロと私と彼女を見渡している。
「情けなくて恥ずかしくって…顔向け出来ないってずっと…っ私、」
「いづみ」
そっといづみの手に触れて顔をあげさせる。
私に綺麗になった、と言ったけど、いづみ。君もすごく綺麗になったよ。優しくてまっすぐで、そして強い。
そうやって面と向かって謝罪も、簡単なことだけど意外とできないことだから。
「私は、こうやって会えただけで嬉しいから。だから、私こそありがとう」
「…これからも、連絡してもいい?」
「もちろん。劇団のこととかも、もし何か手伝えることがあるなら協力するから」
「っありがとう…っ!」
「だからもう泣き止んで!ケーキでも食べる?ごめんね、皆木くん」
「えっ!いや俺は全然」
チーズケーキ食べようかな!、と笑った彼女に安心して、皆木くんは、持ってくるッスわ、と席を立った。休憩中なのに申し訳ない。
彼が運んできてくれた絶妙においしいチーズケーキを頬張りながら3人でまた世間話をして、穏やかな時間は過ぎていった。
20170723
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