第1章:己の役割
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「あら?ゾロ、綾奈は?」
第2話
武器をもらいにいった綾奈とゾロをのんびり待っていたナミ達は、目ぼしいものがなかったのか、少し不満気な表情を浮かべたゾロに首を傾げた。戻ってきたのはゾロとムーバー。綾奈の姿が見当たらないのだ。
「あ?武器庫にもいなかったぞ」
「私と別れた後ゾロくんのところへ行ったかと思ったんだが…どこかですれ違ってしまったようだね」
「なに?そんなに迷う道のりなの?」
「いや?迷子とはバカなやつだな」
「アンタだけは言うな!!!」
迷子常習犯のゾロに全力のツッコミをいれたところで、ナミは探しに行こうかと腰をあげる。ただでさえ知らない船だし、見る限り広い。この場所が船の中心なら待っていれば綾奈ならたどり着けるのかもしれないが…純粋に心配だ。
「ムーバーさん、私も探しに行くわ」
「あぁいや…御心配なさらず。この船の操舵室には監視モニターがあるからそこで確認してくるよ。映らない範囲はないからね。安心するといい」
「…そう?じゃあお願いするわ」
「…ごゆっくり」
そう言ってムーバーは操舵室があるのであろう方へ向かった。待つしかないというのは落ち着かないが、監視モニターがあるなら大丈夫だろうとナミは再度デッキチェアに腰を下ろした。
*
「…ん、…あれ…?」
ふと暗い場所で目を覚ました。真っ暗で何も見えないそこはモーター音がするから、ムーバーの船の中であるのは間違いなさそうだ。
私どうしたんだっけ…、とボンヤリとする頭で考える。ムーバーに木刀をもらって、ゾロと合流しようとしてそれから…、それから?
それ以降の記憶がない。つまりその間に何かがあってここに放置されていた。チッ…怪しいとは思ったけど本当にムーバーは黒だったのか、と内心舌打ちをする。記憶がないということは直前にクスリかなにかを吸わされたのだろうか。化学者のようだし、ありえない話ではない。
けれどそうなると腑に落ちないのは腰にある木刀だ。意識を奪っておいて木刀は取り上げられていない。普通に考えればこの木刀に曰くが付いていると考えるのが通だけど…。
あぁわからん、とにかく動こう。と、体を起こす。特に縛られてもいない。ますます疑問だ。
キョロ、と暗い場所になんとか目を慣れさせていると少しずつ慣れてきた。暗い。けれど狭い場所ではなさそうだ。どこからか水が循環するような…ゴポゴポという音も聞こえる。その音に導かれるようにゆっくりと足を動かす。変に、心臓が早鐘を打ち出す。まるでそれは、見てはいけないと言うかのように。
「、なに、これ」
ぞわり、悪寒が走った。
「あ!綾奈やっと戻ってきた!なによ迷ってたの?さっきムーバーさんが監視カメラで…、な、どうしたのよ…!?酷い顔色じゃない!」
「……たい、…」
「え?なに?」
「…いたく、ない…ここ…から…」
「、!!」
なんだどうした、と心配するみんなの声が酷く遠く聞こえる。震えが止まらない。私が見たものは、ほんとに、?
ようやく戻ってきた私に聞きたいことはたくさんあるであろうみんなは異常な私の様子を見て、黙ってサニー号に戻ろうと決めてくれた。その言葉に安堵して、ナミに支えられるがまま歩みを進める。ガクガクと力の入らない足のせいで思うようにいかない。早く、こんなところから、
「おや?もう行ってしまわれるのですか…?」
「、!!!」
「残念だ。君たちとはまだまだ話したいことがたくさんあったのだが、ね」
「っ、」
正面からゆっくり歩いてきたムーバーの声に異常なほどに体が反応する。残念だ、と言いながら私に視線をよこすこの男に、本来なら私は問い質さなければならないのに。今、そんな余裕はなかった。私の様子を察してくれたナミが「少し急用が出来たのよ」と軽い様子で告げた。それに関してムーバーも特に言及することなく、あっさりとサニー号の場所へと案内した。
(サニー号…早く、乗ってしまいたい)
案内されて目に入ったサニー号も特になにかされたような後はなく、ますますムーバーの思惑が分からなくなった。けれど今は早くサニー号に乗り込みたかった。
じゃあな〜!、とムーバーに声をかけて続々とサニー号に乗り込んでいく彼等を目で追いかけながら私も震える足でゆっくりと船に向かう。
「綾奈さん」
「っ!!、なんっ…」
「……木刀のこともありますし、何か気になることがあったら仰ってくださいね…。君でしたら…歓迎しますよ…」
「、!!おき、もちだけでいい、です」
ポン、と肩を叩かれて笑みを浮かべながら握手を求める彼に私もなんとか震える手で応えた。そしてバッと手を解き、感覚のない手をギュッと握りしめて私は力を振り絞り走って船に乗り込んだ。
ハァハァとあがる息の中、カサリと手の中にあった何も書いていない白い小さな紙をぐしゃりと握りしめた。
「…綾奈落ち着いた?話せる?」
「ナミ…」
「なにがあったのよ。アンタだけ帰ってこないと思ったらあんなに青褪めて戻ってくるなんて。驚いたわ」
「…ごめん。…なにがって訳じゃないんだ。ただ、嫌な感じが、して…」
ようやくマーユ島が見えなくなり、大きな息を吐き出した私にナミが温かい紅茶を手に近寄ってきた。自分の目でマーユ島が遠ざかるのを確認しないと安心出来なくて、船尾でジッとしていた姿はさぞかし不審だっただろう。私に紅茶を手渡しながら横に腰を下ろしたナミの表情は純粋に私を心配してくれているようだった。
けれど、いえなかった。なにを言えばいいのか分からない。あの光景は本当に現実だったのだろうか。嫌な夢を見ていたのではないのだろうか。
もう大丈夫だから、と笑みを向ける私に納得のいかない様子だったけど、大きくため息をついて「わかったわよ」とそれ以上は聞かないでいてくれた。ごめんね。もう少し、自分の中でも整理をしたい。自分の中で飲み込めたらその時は、話せると、いいな。
「しっかりしてるかと思ったら案外、目が離せないわねアンタ」
「あはは…気をつけるよ」
「別にいいわよ。勝手に見てるから」
それじゃ私は大きなお風呂を堪能してくるわ、とナミはニカっと笑って船尾を後にする。その後ろ姿に小さく、ありがとうと囁いた。
「おーい綾奈!なにしてんだ!?」
「…ルフィ。ようやく私の存在思い出してくれた?」
「ん?なんだ?おまえずっといたじゃねぇか」
「うーん、そこなんだよねぇ」
ナミと別れてしばらく、そのままぼんやりしていると声を掛けてきたのはルフィ。サニー号の中の探検は一通り終わったらしい。そりゃ新しい船だし、意識がそっちに行っちゃうのもわかるんだけど、それにしても君は私を放置しすぎだ。ナチュラルに無視するのはやめてくれ、なんて思えるぐらいには私の気持ちも落ち着いていた。
「ルフィ。私やっぱり次の島で降りるよ」
「おい!それは却下だって言っただろ!おまえも話きかねぇやつだな〜」
「ルフィには言われたくないんだよな〜」
「綾奈はこの船に乗るんだ!決めたんだよおれは!!」
「…さっきみたいに冒険の邪魔をするかもしれない人間をそばに置きたい?」
「んん?」
「…いや、まずはお礼だよね。すぐにあの島を出てくれてありがとう。もっと冒険したかっただろうに…ごめんなさい」
君の冒険を邪魔した、そう頭を下げる。ファンとしては、出来れば1番やりたくないことだった。けれど、優しい彼等は身分の証明すら出来ない私を快く受け入れてくれただけじゃなく、思いやってくれる。とても情けない。
「だから仲間にはしないでほしい」、そう告げる私にルフィは一瞬黙り込み、そして口を開いた。
「嫌だ」と。
「…あの、ルフィ?君は冒険がしたいから海に出たんじゃないの?私はその邪魔をするんだよ?」
「邪魔とかそんなこと思ってねェ!綾奈も一緒に海に出たらおもしれェと思ったから仲間にしたんだ!」
「…戦えないのに?」
「別にいーよ、そんなの。おれが守ればいいからな」
「…私、そんなにルフィに気に入られるようなこともしてないはずなんだけどなぁ」
「わかんねェ!けど、そばにいねェと守れねェからな。だからごちゃごちゃ言ってねぇでこの船に乗ってろ!」
「もう…っほんと、唯我独尊というか…」
ここにいろ、例えその言葉が私がこの世界にきた『特典』だとしてもこんなに嬉しいことはない。拒否しているけど、彼等のそばで彼等の行く末をみたいのは本心だから。
けれど、マーユ島でのこともある。正式にいれてもらうには…あまりにも私は秘密が多すぎる。
「…じゃあ、お試し期間をくれないかな」
「お試しィ〜?んなもんいらねぇだろ!」
「ルフィにとっても悪い話じゃないんだよ。とりあえず…次の島に着いて出航するまで。その間に私が本当にこの船に必要か見極めてよ」
「おまえも頑固だな〜!」
「やっぱりルフィには言われたくないな〜」
とりあえずその方向で、と結論を出せばルフィはう〜ん、と頭をフル回転させて、そして頷いた。自分の考えは結局変わらないだろうから、と。そんな真っ直ぐな彼の姿が眩しくて、私は目を細めて微笑んだ。
たしかに、彼等は私を見捨てることはないだろう。優しい人達だから。だから、これは私の問題だ。どれだけ自分がこの船に相応しくないかをきちんと把握する。未練がましく、この船に残らないように、自分を諦めさせる為の期間。
「これからウソップと釣りするんだ!綾奈も行こう!」と、私の手を引いて素敵な世界へ連れ出してくれる彼の背中に、何故だか少し涙が出た。
「フフッ。夜ご飯楽しみだね」
あれからルフィとウソップがワーワーと楽しそうにたくさんの魚を釣るのを眺めて笑って、最後に釣ったサメが夕飯になると決まったところでゾロが見つけた海に浮かぶ酒樽に出会った。そこで私は思い出した。やべ…次の島で降りるって言葉、さすがに撤回したい。
お酒が入っていると思っていた酒樽は私の記憶通り、ある人物に居場所を伝えるような発光弾が上がった。私は先に起こることが分かってるだけに、出来るだけ被害を少なくするように動かないと。出来ることをやろう、と腰の白虹を撫でた。
そしてナミの予報通り大嵐に見舞われたサニー号は急いで舵を取るのだった。
「魔の…三角地帯、か」
「綾奈は幽霊の類は平気なの?」
「ん?いや〜好きではないし普通に怖いね…」
「平気そうに見えるけれど…」
「準備だ!悪霊退散グッズで身をかためなければ!」
「ウソップおれにもかしてくれそれー!」
「ウソップ私もー!」
「あら…。ウフフ」
大嵐を抜け、やっと落ち着いた時には周りは霧に囲まれていた。魔の三角地帯。ここで出会うのが幽霊でないことは分かっていてもこの雰囲気は恐ろしい。怖いものは怖いのだ。ウソップの悪霊退散グッズを貸してくれと元気よく名乗りあげた私に、ロビンは楽しそうに笑った。うーん美人。
そろそろかな、と考えていると現れたゴーストシップ。愉快な音楽家に会えるという期待に胸が膨らみ、私は自らゴーストシップ探索隊に名乗り出たのだった。ウソップに「おまえ正気か!?」と疑われたけどたくさん悪霊退散グッズを持たせてくれたので不問にします。ありがとう、ウソップ。
「なんだよ綾奈ー!おまえやっぱり冒険好きなんじゃねェか!」
「ここには素敵な出会いがある気がするからね〜」
「ちょ、ちょっと綾奈!こんなところにある出会いなんていらないわよ!?確実にお化けじゃない!」
「楽しげな綾奈ちゃん可愛いナ〜!」
ルフィの暴走を止める要因として、私の他にナミとサンジが派遣された。普通に考えたらこんな状況恐ろしすぎる。ゴーストシップに歌うガイコツ。うん、絶対関わりたくない。それでも私がその場所へ嬉々として向かえるのはその正体を知っているからで。これまで生きてきて実感したことはなかったけれど、情報って武器になるんだな、としみじみ思った。
「こんにちは、ガイコツさん」
私の挨拶に「パンツ見せてもらっていいですか?」と常套句(?)を返してくれたガイコツ…つまりブルックに、私はニッコリと笑顔だけ返した。セクハラへのツッコミはナミがしっかりしてくれました。私にまでセクハラしてくれるとはちょっと感動してしまった。
「そんなことよりおまえ、おれの仲間になれ!」
「えぇ、いいですよ」
ここから物語のスタートだ。
20200120
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