序章
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「意外と生きていけるもんなんだなぁ」
第3話
賑やかな宴から一夜明けて、朝食までご馳走になった私は少しの間のんびりとした時間を過ごしていた。するとルフィが新しい船の話を聞いたり、みんなも買い物なんかに出たりするとのことだったので同じタイミングでお暇することに。
中々に惜しんでくれたけど「まだ滞在するからいつでも来いよ」と嬉しいお言葉を頂いて私は麦わらの一味と別れた。確か船はフランキーやアイスバーグさん達が夜通し造ってくれてることもあって明日あたりに完成するんじゃなかっただろうか。
タイミングが合わなかったら会えないかもなぁ、なんて考えながら街を歩く。下町とは違ってこの辺りはアクア・ラグナの影響をほとんど受けてなさそうだった。片付けの手伝いでも、と思ったんだけど困ったなぁ。裏町に行ってみようか。今やフランキー一家とも昨日の宴で顔見知りになっているし、チンピラに絡まれることもないだろう。
下町にやってくるとそこではまだまだガレーラの社員さんや街の人達が慌ただしく作業をしていた。女の私でも出来ることはないかと近くにいた女性に声をかければ嬉しそうに仕事があると言ってくれた。そしてお礼もすると。ボランティアだと言えないことが心苦しくもあるが、私も無一文の身の為ありがたくその申し出を受け入れることにした。内容的には瓦礫の中から街の人の持ち物なんかを見つけることで、確かにこれは人手がいくらあっても足りないなと思った。任せてください、と胸を叩き、早速作業に取り掛かった。
「お!綾奈じゃねェか!おまえも復旧作業手伝ってくれてんのか!」
「あ、こんにちは。微力なんですけどね。あ、そういえばガレーラの会社のロゴがさっき落ちてましたよ」
「なにっ!本当か!」
「はい。あっちに分けて置いてるので状態とか見て持って帰ってください。いらなければ廃材として処分するみたいです」
「おう!ありがとな!」
しばらく没頭して作業をしていたので、ガレーラの人に声をかけられたことで私も少し休憩を取ることにした。私を雇ってくれた女性が差し入れてくれたおにぎりがすごく美味しい。水の都だし、そもそもの水が美味しいからご飯も美味しいんだろうな。これ食べたらまた頑張ろう、とおにぎりを水で流し込んだ。
そしてあっという間に夕方。お疲れさん!、と肩を叩かれるまでずっと下を向いていたからか、急に顔を上げたことで少し目眩がした。あぁでも働いたって感じがする。
お疲れ様でした、と笑い返すと感謝の言葉と一緒に渡された封筒。どうやらこれが報酬らしい。それを有り難く受け取り、頭を下げてその場を後にした。
お金の数え方は円と一緒だけど使い方わかるかなぁ、と若干不安になりながらも大事にポケットにしまう。なにせ1日中瓦礫を触っていたから泥だらけだし汗だくだ。お風呂に入りたい。
どこかの宿を借りればシャワーぐらいは付いてるだろうと踏んで、宿に行く道で適当に着替えを購入した。洗濯はさすがに間に合わないだろうからね。
恐る恐る支払いに向かったが、使い方もどうやら円と変わりないようでホッとした。でもそうなるとあの女性はかなりの金額を報酬として渡してくれたことになる。どことなく私がお金に困っていることを悟ってくれたのかもしれない。有難い。大事に使わせてもらおう、と私は安宿を取りシャワーでその日の疲れを洗い流して眠りについた。
「おっ!綾奈!いいところに!」
「ルフィ。みんなも。お揃いでどうしたの?もう出航?」
「これからフランキーが作ってくれた新しい船を見に行くんだ!綾奈も行こう!」
「えっ?そんな大事な場面に立ち会えないよ。お見送りはするから…、」
「いいから!行くぞ!!!」
「わっ!」
「諦めなさい綾奈。言うこと聞かないわよコイツ」
ルフィ達が今日あたりに出航するのは知っていたから、それを見届けたら私もこの街を出ようと荷物をまとめて街に出てきていた。そして運がいいのか悪いのか鉢合わせしてしまった面々に、断ることも出来ずにルフィに連れられるがまま海岸まで来てしまった。そこには大きな白い布に覆われたサニー号の姿。まだ全貌を見ていないのに込み上げてくるものがある。
メリー号とのあの別れを遂げて、その想いを背負った千の海を越えていく船。
それを目にすることが出来るなんて。バサァッと取られた布の奥から現れたその眩しい姿に私は涙を流した。
「あ!?なに泣いてんだおまえ!」
「や、なんか感極まっちゃって…っ」
「綾奈ちゅわん!泣くならおれの胸に飛び込んでおいで~!」
「フフッ…もしかして綾奈は私たちの前の船のことも知っているのかしら?」
「…うん…。可愛くて優しくてとっても逞しい、立派な船…っ」
「もうっ!綾奈って見かけによらず泣き虫なの?」
「綾奈ー!一緒に中見ようぜー!」
「綾奈ー!」
ほら行きましょ、とロビンに背中を押されて船へと続く階段をあがる。クルーでもない私が踏み入れていい場所なのか、と過ぎった考えもルフィ達の笑顔で吹き飛んでしまった。
私は今、サウザンドサニー号に乗っている。
これからこの船が彼らの行く道を繋いでいってくれるんだ。止まることのない涙をそのままに、彼らの航海が良いものでありますように、と芝生の甲板を撫でた。
「んじゃおれフランキー迎えに行ってくる!綾奈!おまえちゃんと待ってろよ!すーぐどっか行くからなァおめェ」
「いや私クルーじゃないし…」
「戻ってきていなかったら怒るからなおれ!」
「ええ…?ナミ、私どうしたらいいの…」
「待ってたらいいんじゃない?」
「うそぉ…。大丈夫だよね?このまま船出したりしないよね?飛び降りるからねそんなことしたら」
「やれるもんならやってみなさいよ」
「ワァオ…」
んじゃ行ってくる!、と姿を消したフランキーを迎えにいったルフィ達を見送り、なんとなく嫌な予感がするまま留まる。ま、まさかね。仲間にはならないって言ったし、無理矢理連れていくことはないよね。覚悟がないやつ連れて行ってもお荷物になるだけだし。そうだ、そもそも連れて行かれる理由がない。
なんだ大丈夫じゃん、とホッとしてサニー号からの眺めを堪能する。水の都というだけあって、ウォーターセブンは本当に綺麗だ。
すると「ンマー。おまえは綾奈だったか?」と下から声をかけられる。視線を下ろせばそこにはアイスバーグさんが私を見上げていて宴の席には一緒にいたものの、そういえば話すのは初めてだな、と思って挨拶を返す。
「なんだ、おまえは麦わらの一味に入ったのか」
「いえいえ、お断りしましたよ。私これから就活するので」
「就活?働き口に困ってるのか」
「まぁ。この街は今は大変そうだし、別の島で探そうかなーって感じです」
「なんだ、おれの秘書をやってくれてもいいんだぞ。どうせなら可愛いお姉ちゃんにやってほしい」
「えっ…い、いやいや。アイスバーグさんの前秘書さんは優秀な方だと聞いてます。荷が重いです」
「…それは残念だ」
一瞬切なげに視線を落としたアイスバーグさんだがすぐに「おまえも綾奈みたいな秘書がいたら嬉しいよなぁパウリー」なんてとぼけていたので彼の中でも色々整理は出来てきているのかもしれない。パウリーさんもパウリーさんで「おれぁハレンチ女じゃなければ構いません」なんてかえしてるあたりね。私は上下ジャージだからハレンチの要素ないからオッケーだったのかな。いや、私だって一応年がら年中ジャージなわけじゃ無いぞ。この格好でこの世界に来たからそのままなだけで。
「今度ここに来たときは縄術教えてくださいね」、なんて声をかければ驚いてはいたものの了承してくれたので悪い印象は与えていないらしい。よかった。原作を読んでる時からパウリーさんは好きなキャラだったから嬉しい。
「約束ですよ」と笑えば「おう」と彼も笑ってくれた。うん、かっこいい。
「わっ!なにっ?」
「綾奈。アンタは目を閉じてなさい」
「綾奈が見ていいものじゃないわ」
「わっわっ!誰?この手!ロビン!?」
「フフッ…少し大人しくしててね」
ドーンッ!という音が聞こえて廃船島のガラクタがガラガラと音を立てたのでフランキーが飛んできたのか、と顔をあげようとした瞬間に覆われる目。驚いていると冷静というか冷めたナミとロビンの声が聞こえた。おそらく私の目を覆っているのはロビンの能力での手だろう。と、そこまで考えて思い出す。そうだ、フランキーはルフィ達にパンツを取られて取り返す為にここにくるんだった。つまり、今ここにきた彼は…。あ、うん。覆ってくれて助かったかもしれない。
「あれ?なんで綾奈目隠しされてるんだ?」
「えっと…思いやり?」
「んん?」
「はは…」
一連の流れを耳で感じながら、フランキーのあれはともかく、きちんと目に焼き付けたいシーンだったなぁと思いに耽る。
フランキーは本当に義理堅い人で、そして優しい。だからあれだけの子分の人がいたんだ、カリスマ性もある。そんな人が今、涙を流しながらこの船に乗る決心を固めようとしている。不足なんかない。
「行ってくらぁ!」という声をあげて彼の乗船が決まった。
そして出掛けていたゾロとサンジも帰ってきたらしい。なんでもガープさんが戻ってきたとか。うーん、あったなぁそのシーン。私も早く降りないと。
「ロビン、手はなしてくれる?出航するなら私降りなきゃ」
「あ!ダメだぞ綾奈!降りるなよ!」
「そうね…まだフランキーはパンツを履いていないから…離す訳にはいかないわ」
「あ!じゃあフランキー!おまえパンツ履くなよ!!」
「オゥ!?よくわからねーがそれぐらい軽ィもんよ!」
「えっ!だ、だめだめ!フランキー履いて!猥褻物陳列罪になるよ!?」
「んなもん海賊にゃ関係ねェなァ!」
「ごもっとも!」
これはいよいよやばい。本当に乗せられてしまう。いや乗ってるんだけど。「出航ー!」じゃないよルフィ待って!!
止めようにもドーンッ!と一発投げ込まれた砲弾でガープさんが来たことを悟る。みんなは船を守ることに専念し始めた。気付けばロビンの手の拘束も解かれていたけど、もう船は出てしまった。しかもこれからこの船のもう一人の仲間の彼がここに…そんな状況でどうやって下ろしてもらえと言えるだろう。無理だ。ぺたりと甲板に座り込んでしまった私はただひたすらに降り注いでくる砲弾を避ける彼らを見守るしかなかった。もう一人の彼等の仲間の言葉を耳にしながら。
「ばがやろうー!ばやぐづがまれェー!」
「っ…ハハッ…!」
"初めて発した言葉"が謝罪だった彼を、麦わらの一味は文字通り手を伸ばして彼の帰還を受け入れた。そんな姿に私まで感極まってしまう。「おまえまた泣いてんのか」とゾロに呆れられながら嬉し涙がどんどん零れ落ちてくる。
そうこうしている間にガープさんに本気で逃げる宣言をしたルフィの声に、フランキーがサニー号を操舵し始める。あっ、と思った時にはもう遅く、船は空を飛んでしまっていた。
「ったく、おまえまだ降りるとか考えてんのか?ルフィに目ェつけられたら終わりだ。観念しろ」
「ゾロ…そうは言っても足手纏い乗せちゃダメだよ…。支障きたすよこの船に」
「バカね。あれ見て見なさいよ。そんなこと考えるような顔?」
「ヒュー!ウソップヒュー!!!!」
「おれ様が戻ったからにはもう安心だァ!!」
「…考える…と言いたいけど…」
ウソップが戻ってきた喜びに、肩を組みながら踊るルフィの姿は…どう見ても頭脳派には見えない。そもそもそうでないことも知ってるんだけど。クスクスと笑うロビンに顔を上げると「綾奈は情報通だけど、基本的なことが抜けてるわ」と。基本?、と首をかしげると彼女は少し悪戯っ子のように微笑んでこう言った。
「海賊は、欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れるものよ」
ガープさんからの追っ手を潜り抜けた一行は暫しの和やかな時間を過ごしていた。新しい船にみんなが浮かれていて、私のことなんて放ったらかしだ。
そう、放ったらかしなのだ。
「ねぇ、どう思うゾロ…。私は仲間になったつもりないのになんでみんな私がいることに違和感を持ってくれないの…」
「ルフィが乗せるって決めたからだろ。おれ達も別に反対する理由がねェしな。いい加減諦めろ」
「…ゾロもいいの?私、戦えないよ」
「…んなこと承知で乗せてんだろ、ルフィは」
「だからって乗せておいて放ったらかしは酷くない…?」
「知るか」
「ゾロも冷たい~~」とおでこでゾロの肩をグリグリとすれば「邪魔だ」とポカンと殴られた。痛い。
みんなが何も言ってこないので、見張り台にいるゾロのところにやってきたはいいけど、彼も相手にしてくれなさそうだ。
ハァ…と溜息を吐いてどうしようかと考える。彼らと一緒にいたくない訳がない。けれどそうなると強くならなきゃいけない。0を急に1000にしろなんて不可能だ。私には圧倒的に時間が足りてない。生きる術や戦う術を手に入れるにしろ、まずは時間が欲しいのだ。…そりゃ悪魔の実を食べれば少しは戦うことは出来るのかもしれないけど、あれは貴重な実であるからお目にかかれることはほぼないと言っていい。というか実際目の前に置かれても食べたくない。そうなるとやっぱりウォーターセブンに残ってパウリーさんに縄術を教えてもらうことが一番の近道だったのではないだろうか。馬鹿をやってしまった。
「今からウォーターセブンに引き返すっていう選択肢はない?」
「ねェな」
「まぁそうだよ、ね…っ?なに、この音…」
「耳がっ…!?敵襲か!?どっからだ!」
まだウォーターセブンを出て少ししか経っていないのに、彼らとの航海は前途多難である。
20180906