序章
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「いや…ちょっとこれは無いでしょ…」
第1話
目が覚めたら異世界でした。
なんて、そんな物語は二番煎じにも程がある。私は普通の高校生で、今日も普通に登校してなんとなく授業を受けて帰宅した。そのはずだった。でも何故か気付けばそこは私の住んでる日本とは程遠い街が並んでいて。しかもどことなく見覚えがあるとなればもうそれば異世界だ。私はこの街並みを知っていた。その事実に思わず額に手を当てて溜息を漏らした。
「…ONE PIECEかよ」
今や全世界で大人気の漫画ONE PIECE。そして私の横を流れる水路は、水の都ウォーターセブンの景観に間違いない。なんと言ってもブルが泳いでる。意外とブルって可愛い顔してるんだな、なんてどこか遠い出来事のように思いながらもう一度溜息。
時々かかる水飛沫、降り注ぐ太陽の熱、人々の喧騒。それら全てはあまりにもリアルで、これが夢であるという可能性はすぐに捨てた。そうなると今は物語のどの辺りになるのか。主人公であるルフィとその一行はもうこの島には来たのか、ロビンの奪還は終わったのか。気になることはいくつも出てくる。けれど着の身着のままの私はあまり呆けてもいられない。幸い格好は上下黒のジャージであるから動きやすさはある。なにか持ち物はないかとポケットを弄ればなんと財布が。とはいえこの世界と通貨は違うから使い物にはならないが。携帯…も、あったけど、もちろん圏外だし使えそうではない。けれど私と元の世界を繋ぐ唯一のものであるのは確かだ。これは大事に持っていよう、とポケットにしっかりとしまい直す。
まずは金銭面をどうにかしないと、と歩き出したはいいけれど、進めば進むほど街がボロボロなのが分かった。つまりこれはアクア・ラグナの影響で、ルフィ達はこの島を出航…もしくは滞在していると見ていいだろう。これはファンとして仕方のない感情ではあるが彼等に会えないかな、なんて考えた。会話までは望まないけど、せっかくだし一目ぐらいは見てみたい。もし会えたらガープさんも一緒にいるかもしれないし、海軍に入れてもらうよう志願するのも悪くないかもしれない。海軍のやり方どうこうよりも、きっと海賊よりかは生存率は高いはずだ。多分。元より、麦わらの一味に入れて欲しいだなんていうのは考えにない。私が入ったところで足手纏いになるだけだ。それはいけない。
今のこの街の状態では働くにもそれどころじゃないだろうし、住むなら違う場所にした方が良さそうだ。ウォーターセブンは綺麗なところだから少し惜しいけど。お金に余裕が出来たらここに越してくるのも有りかもしれない。
「…?え、うわ、マジでか」
フイッと海の方に視線をやると見知った緑色。まさか彼に一番最初に会うとは思わなかった。腰の三本の刀がめちゃくちゃカッコいい。しばらく見惚れていると、何やら彼はキョロキョロと周りを見渡していた。もしかして迷子なんだろうか、と思っていると目の端に映った大きな軍艦。…海軍だ。あぁそういえば漫画でそんなシーンがあったなぁと思い出す。麦わらの一味がいるのは確かガレーラカンパニーの仮設だったはず。…となると土地勘のない私でもなんとなく場所が分かる。少なくともアクア・ラグナの影響を受けやすいこんな下町ではないはずだ。本当にあの人は方向音痴なんだな…、と思わず苦笑を漏らしたところで声を掛けようと近付く。少なくとも彼よりかは麦わらの一味がいる場所に近付ける自信がある。
「何かお困りですか?」
「ん!?…いや泊まってる場所に戻りてェんだが街並みが変わりすぎてな」
「…なるほど。その場所の周りの様子は分かります?」
「なんだ。案内してくれんのか?」
「まぁ…場所が分からないだけに私も手探りですけど」
「…まぁいい。助かる」
迷子の彼…もといロロノア・ゾロはなんとなく覚えているだろう仮設の周りの説明をし出した。近くにガレーラのプールなんかもあったということから元々の本社の場所とはそう遠くないところにあるんだろうと推測。海軍の船のことで焦っているゾロを先導して、私も出来るだけ速く走ってその場所を探す。目をキョロキョロと動かして、そして自分の漫画の記憶を呼び戻しながらお目当てを導き出す。
「おいお前!こっちで本当にあってんのか!?」
「多分ですけど!ガレーラの本社はあの大きい建物があるところですよね!ならきっとその周りのはずです!」
「恩にきるぜ…!」
二人してバタバタと走っていると、目の端に映った白い制服。一瞬だったけどそれは海軍の制服に間違いない。急に方向を変えた私にゾロは「おわっ!?」と戸惑いながらも付いてきてくれた。そのまま直進するかと思ったから一安心だ。
「あの!お目当てはあそこじゃないですか!?」
「あぁ!見覚えがある!だが海軍はもう来てる!」
「えーっと気をつけて!」
「あぁ!悪りィな!」
助かった!、と一瞬私をチラリと見た彼はそのまますごいスピードで走って行き、中にいる海軍とドンパチやり始めた。うわすご…、と思いながらその光景から目をそらさずに乱れた息を整える。さっきまでゾロと会話していたなんてなんだか信じられない。ゾロがあそこに入っていったってことはあの場所にはルフィやみんな、ガープさんにコビーにヘルメッポなんかもいるということだ。信じられない。信じられないけど、これが今の私の現実なんだ。
「…ま、変に考えても仕方ない。こっちに来れたんなら帰ることもできるでしょ。多分」
この世界には空島だってあるんだし、と軽く考えることにし、さすがに中に入るのは憚られたのでガープさんが出てくるのをのんびり待つことにした、のだが。
ガープさんの圧倒的なオーラが凄すぎて近寄れんかった。普通に考えたら中将なんてめちゃくちゃ偉い人だし、気軽に話しかけていい人じゃないはずだ。なにも悪いことはしてないのに、チラリとあった視線に思わず会釈をして目をそらした。そしてゾロゾロと軍を率いてガープさんは去っていった。普段はあんまりそういう目上の人に~とか考えるタイプではないんだけど…なんだろう。私の中の何かが話しかけるのを躊躇した。海軍にいれてもらう作戦は見事に失敗した訳だ。さて、次の作戦を練らないと。
「あ?なんだお前。まだいたのか」
「え?あ、さっきの。問題は解決しました?」
「まぁな。お前こそ座り込んでどうした」
「えーっとまぁ休憩です。久しぶりに全力疾走したんで」
「…あー…」
やっぱりここで仕事探すか?、と考えているとまさかの声が。なんとゾロが門から出てきたのだ。当たり障りのない返答をすれば、休憩の要因になったのが自分であることが気まずいようでボリ、と頭をかいた彼は私に仮設の中へ招待してきた。お茶でもどうぞってか。いや嬉しいけども。敵かもしれんのにちょっと不用心なのでは、と思わなくもないが、彼がとてつもなく強いのを思い出して愚問だったな、と申し出を受け入れることにした。喉は渇いているわけだし。お言葉に甘えよう。あわよくば一味と会えそうだし。
「あ?なんだゾロ戻ってきた、の、ハァ~~~~!?ぬぁあんでクソマリモがレディを連れて戻ってくんだよ!?」
「ウルセェ!!おれの勝手だろうが!!」
「すみません、お邪魔します」
「どうぞ座って。どなた?」
「どうも…。さっき彼に道を教えただけでの通りすがりです」
「フフッ。なるほどね」
言い合いをするゾロとサンジを尻目に、穏やかな笑みを浮かべるロビンは彼女のとなりの椅子を引いてくれたのでお言葉に甘えて腰をおろす。そしてパチリと目があったチョッパーはどうしたらいいのか分からないようで固まっていた。うっわ、可愛い。
こんにちは、と出来るだけ警戒を解くように笑って声をかけるとテーブルに半分顔を隠しながら「こ、こんにちは」と挨拶を返してくれた。声まで可愛いとは何事だ。そりゃ人気になるわな、と内心思いながら「お邪魔してすみません」と二人に告げる。気にしないで、と笑うロビンの笑顔は晴れやかでとても優しい。エニエス・ロビーの件で彼女は色々吹っ切れたんだろう。そして彼女はようやく宿り木を見つけた。漫画でしか知らないはずなのに実際にその笑顔を見ると無性に泣きたくなった。
私の代わりに、サンジに私の分のお茶をお願いしてくれたロビンにお礼を言ってサンジにも視線をやるとパチッとあった視線。どうやら彼もちょうど私を見ていたらしい。ロビンやナミと違って色気のいの字もないジャージ女でめちゃくちゃ居た堪れなくなった。
「えーっと…突然すみません。彼にお誘いしていただいてお言葉に甘えてしまいました」
「…!!い、いいんだよレディ!君のためなら何杯でもお茶をいれるさ。紅茶がいい?それともコーヒー?」
「あっ…と、じゃあコーヒーでお願いします」
「了解でーすっ!!!」
「グルまゆコック。おれも茶だ」
「テメェは水でも飲んでろクソマリモ!!!」
またもや喧嘩の始まった二人だが、その合間にしっかり私にコーヒーはホットかアイスどちらがいいかと聞いてきたサンジは流石すぎる。アイスがいいと答えた私に、彼はクルクルと回転しながらキッチンに向かったことでゾロとの喧嘩は収束した。面白すぎる。
「うわ、おいし…」
「気に入ってくれたかい?マドモワゼル」
「はい。こんなに美味しいの初めてです」
「それはよかった」
思わず漏れた感嘆の声を聞き逃さなかったサンジはニコリと紳士スマイルで声をかけてきた。彼がいれてくれたコーヒーの美味いのなんの。豆もいいのかもしれないけどこれはきっとサンジが淹れるのが上手いんだろう。すごいな、一流ラブコック。
そのあとは軽く自己紹介なんかもしたりして、彼等は私を邪険にすることなく受け入れてくれた。分かっていたけど、本当に気のいい人たちだ。チョッパーも私に慣れてくれたようでクリクリとした目を向けながら話してくれるのが本当に堪らん可愛さだった。
「ところで綾奈も大変だったんじゃない?アクア・ラグナの被害は凄い様だし」
「街がボロボロだもんな!」
「綾奈ちゃんは怪我はしなかったかい?」
「え?あぁ…私、ついさっきここに来たばかりだからアクア・ラグナにはあってないんだ」
「あ?それなのに案内したのか」
「なんとなくの情報はあったからね。分かりやすい所で良かったよ」
機嫌を損ねてしまったゾロはほって置くとして、まさかの話題が私になってしまった。嘘を言うつもりはないけど、なんとなく異世界から来たというのは言わない方がいい気がした。なにかと面倒くさいことが起こる気がしたのだ。
私の応えに「そっかー!よかったなー!」と笑うチョッパーは本当に純粋すぎて眩しい。だが頭がキレる二人は私の応えに疑問が残ったようで声をあげる。「海列車が走る範囲はアクア・ラグナの影響が出ているところばかりなのに何故被害がないのか」と。疑ってる…という訳ではなさそうだけど、その事情を知っていれば確かに疑問に思う所ではある。さて、どう答えたらいいものか。
「…それが気付いたらここにいたんだよね。どうやってここにきたのか、自分でも分からなくって」
「、!…記憶喪失かしら?」
「いや…ただ、自分が何でここにいるのかが分かんないんだよね。帰り方も分からないし」
「帰り方も?綾奈ちゃん、君は一体どこから来たんだ?」
「…私、島出身だけどその島に名前があったのかすら分からないんだよね…。要するに超田舎者ってこと」
多分記憶喪失ってことにする方が楽なんだろうけど、それはなんか違うなと思った。もしかしたら急に切り替わっただけで失くした記憶なんてないのかもしれないし。あんまり気にしてないよ、と笑っても彼等は少し眉間に皺を寄せてしまっていたので慌てて本当に気にしないでほしいと頼む。ここがワンピースの世界だと分かっているからだろうか。どこか私は楽観的なのだ。なんとかなる、そう思える。
「綾奈がそういうならいいけれど。ごめんなさい、話しづらいことを聞いたわ」
「全然!気にかけてくれてありがとうね」
「なんていじらしいんだ、綾奈ちゅわん…!」
「大変なんだな、綾奈…」
眉を下げて私を見るチョッパーに、そんなことないよ、と頭を撫でて苦笑する。すると「お前それ、ルフィには言うなよ」とゾロの声。ルフィ?なんで?、と思っているとロビンやサンジは思い当たる節があるのか、納得した様子を見せた。よくわからないが、残念ながらルフィはこの場にいないし、私が彼に会うことはないだろう。残念だけど非常に。
「よくわかんないけどありがとね、ゾロ。楽しかった。そろそろ出るよ」
「こっちこそ助かった。…お前、宿はとってんのか」
「え?あーうん、大丈夫」
「取ってないのね」
「いや、大丈夫だって」
「綾奈ちゃん嘘はいけねェな」
「ついてないよ」
「綾奈!おれまた綾奈に会いたいぞ!」
「うっ…」
「…一晩ぐれェ誰も何も言わねェよ」
「ゾロまで…」
麦わらの一味は本当にお人好しで、そしてやっぱり大好きだなと思った。
20180904
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