GW遠征合宿篇
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「どうしてこうなった」
第8話
音駒と青城、そしてあと2校の計4校で行われていた今日の練習試合は特に怪我も無く終了した。戦績としては上々。それぞれ課題も見えてきたようだし、明日に向けて自主練をする部員の姿はとても眩しい。 そんな部員を尻目に、私はバタバタと食事の用意に取り掛かっていたのだが事件はそこで起きた。
すまないが、と声を掛けてきたのは意外な人物で青葉城西の監督さんだった。 驚いて手を止めて挨拶をしたところで同伴していた猫又監督が口を開いた。
「実は青城の食事を担当する予定だった業者が来る途中に渋滞に巻き込まれたらしく、とてもじゃないが夕食の時間に間に合わないらしくてな」
「…はぁ、それは大変ですね」
「そこでだ、高原」
「うわー…聞きたくないなぁ」
「ワハハ!察しが良くて助かる!まぁつまり、ウチのに加えて彼等の食事も用意してやってほしい」
「もちろん手伝いは寄越すさ!」と豪快に笑う猫又監督に、これはどんな反論も聞き入れてもらえないだろうし、私が断れないであろうことを監督は分かってるのだ。ハァ、とため息を零し了承の意を伝える。今回は不慮の事故だし育ち盛りの男子高校生がコンビニ弁当などで済ませてしまうのはいただけない。手伝い要員も手配してくれるとは言ってるし、ここは受け入れよう。
どうやら監督達はこれから飲みに繰り出すらしいので選手の分だけでいいのだとか。やたら楽しげにそう話す監督はきっとお酒が好きなんだろう。大人だし明日には響かないようにはするだろうから心配はしないけども。
面倒をかける、と心底申し訳なさそうに頭を下げる青城の監督さんに慌てて頭を上げてもらい、任せてください、と笑う。引きつっていなかったかどうかは自信がない。
もう暫くしたら何名かがくる、という情報を置いて監督達は厨房を後にした。食べ盛りの男子高校生約20名の食事。これは骨が折れそうだ。救いは今晩はカレーにすると決めていたことだ。カレーなら手伝いに来てくれる人も食材を切ってもらうぐらいで難しい調理を任せることもないし、きっとなんとかなるだろう。ふう、と一度息を吐いてまずは時間がかかる炊飯に取り掛かった。
「すみません、遅くなって!手伝いにきました」
「あ、どうも。そんな大勢で来てくれるとは思いませんでした。まさか主将さんまで」
「やっほー綾奈チャン。ま、主将として、ね。料理はあんまりしないけど単純なことなら手伝えるメンバーを連れて来たから。バンバン指示しちゃって~」
「そうですか、じゃあ早速ですけど野菜をどんどん切っていってもらえますか?一口サイズにしてもらえれば形はどうでもいいので」
「…結構豪快な人なんですね、音駒のマネージャーさん」
「今日なんかは質より量ですから。味は保証するので安心してください」
野菜は全部洗っておいたので、と告げて私も自分の手を動かす。青城から手伝いにきてくれたのは5名。1年生が来るのかと思っていたらそうではなくて、まさかの主将である及川さんまで。手を動かしながら口も動かす彼曰く、連れてきたのは3年生の花巻さんに2年の矢巾くん。そして1年生の金田一くんと国見くんと言うらしい。エースである岩泉さんはこういうのは得意じゃないらしく、自主練に励んでもらっているのだとか。まぁこういうのは適材適所だ。とりあえず怪我はしないでくださいね、と言えば全員頷いてくれた。
それにしても、やたら顔に力を入れていい声で話しかけて来る矢巾くんが面白い。どこかの13みたい。
結構濃いメンツのようで終始賑やかに準備は進む。これは私一人で音駒分を作り上げるよりも早く終わるかもしれない。夕食の時間まで余裕がある。思いがけぬ幸運だな、と喜びながら手を動かす。そして話の輪には入っているものの、唯一黙々と作業してくれてる彼に目がいく。確か彼は1年生の国見くんだったかな。どことなく作業も慣れているように見える。
「国見くん、だったかな。手際いいね」
「あー…家でも結構手伝わされるんで」
「なるほど、頼れるなぁ。ありがとね」
「いえ、別に。こっちが迷惑かけてるんで」
「ちょーっと国見ちゃん!?目を離した隙に先輩より音駒ネちゃんとイチャつくってどーいうこと!?」
「イチャついてないです」
オレだってもっと音駒ネちゃんと話したい!、とムキーッと人参をむく及川さん。「こいつこれで高3か…」と三年生の花巻さんは呆れ顔だ。でも雰囲気を見るにいつもこんな感じなんだろう。試合中とのギャップが本当に凄い。コート上ではいい意味でピリピリしてて気を抜いたらすぐに食われてしまいそうなオーラすら出していたのに。「国見ちゃんが話せないぐらいドンドン人参回すからちゃんと切ってよね!」と言う姿はなんというか。
「ん?なんだ、どうした?」
「あははっ…可愛い人だなぁと思って。及川さん」
「!?!?!?」
「いや可愛くはねーだろ。こんなデカイやつ」
「そうですか?金田一くんも国見ちゃんも可愛くみえますよ私」
「…その呼び方やめてください」
花巻さんに問われて、つい笑いを零しながら告げればズギャーン!という効果音が聞こえそうな反応をした及川さんに更に笑みが深まる。真っ赤な顔は多分言われ慣れてない証だと思う。整った顔立ちをされてるからかっこいいって言われることのが多そうだし、実際バレーをしてる時はかっこよかったし。
1年生は無条件で可愛く見えるのは私だけではないはずだ。それがたとえ2メートル近い身長の男子でも。「オレは!?」と名乗りをあげた矢巾くんは…なんていうか感想が出なかった。ごめん。面白いなぁとは思ったよ。
そんなこんなであとは少し煮込んで完成。予想通り早く終わった準備にホッとして、労りの気持ちを込めてお茶を煎れてあげる。なんか高そうな葉っぱだけど置いてあるものは使っていいって言われてたしいいでしょう。どうぞ、とみんなに回して私も座ってフーッと息をつく。久しぶりに座ったような気がする。
「ありがとうございました。お陰さまで思っていたよりずっと早くに終わりました」
「お疲れさん。そもそもこっちが悪いからなぁ」
「今回のは誰も悪くないですよ。困った時はお互い様ってやつです」
「高原さんって結構お人好しですよね」
「と、唐突だね国見ちゃん。お人好しなんかじゃないよ私」
「いやだから呼び方…、ハァ。及川さんが言ってましたけど臨時なんですよねマネージャー自体。そもそもそこからそうでしょ」
「臨時で主審までしてくれりゃあ、音駒の奴ら相当助かってるだろうしなぁ。ウチもお前みたいなマネージャー欲しいわ」
そうだといいですねぇ、と左に座る花巻さんへ苦笑い。右隣には国見ちゃん。"ちゃん"呼びする度に嫌そうに眉間に皺を寄せる。だって国見くんより国見ちゃんの方がしっくり来てしまったのだ。仕方ない。恨むならその発想をした及川さんを恨んでください。
その及川さんは向かい側にブスーッと不機嫌を隠そうともせずに、ズズズとお茶を啜ってる。子供か。その横でオロオロする金田一くんの可愛さったら。理由は分からないけど触らぬ神に祟りなし。特に触れることなく一時の休憩をいれた。
「おっ!今日はカレーかぁ!って、オワ!なんで青城がいるんだ!?」
「お疲れ様です、夜久さん。あれ?猫又監督から聞いてませんか?青城の食事が急遽用意出来なくなったらしくて合同になったんです」
「は!?じゃあ高原さん一人でこの量作ったのか!?言ってくれれば手伝ったのに!」
「あ、大丈夫ですよ。青城の方が手伝ってくださったので。予定より早く出来上がったぐらいです」
全員に連絡しろよ監督~、と呆れながら「おつかれ」と労ってくれる夜久さんに癒された。肩の調子も心配してくれる夜久さんに大丈夫だと言っても中々安心してくれないけど。今日も全然頼ってこなかっただろ、と言われてしまうとなんとも言えない。なんとかなってしまうのだから仕方ないと思ってもらいたいんだけどなぁ。
「夜久さんは心配しすぎですよ。そこまでヤワじゃないです」
「バカ!男に殴られたんだから心配するに決まってんだろ!側にいなかった俺等にも非はあるけど!」
「無いですよ、そんなの!夜久さん達に手を出される方が怖いのでこれで良かったんです。それこそ私が手を出してますあの人に」
「やめろよ…?それは…。俺、この半年ぐらい病気も怪我もしてねーしお前もそれ見習えな」
「じゃあ今日が1日目ですね」
「馬鹿!治ってからだ!」とくしゃりと頭を撫でられた。なんか夜久さんにしろ黒尾さんにしろ、人の頭なでんの好きね。別にいいけど。
なんにせよ、夕飯はみんなの口にも無事あったようで大量に作ったカレーはあっという間に完売御礼。サッと見た感じ食べ足りなさそうな人もいないようなので満足だ。そして意外にも各校で纏まって食べるわけじゃなくて各々自由に座って交流していたのが印象的だった。まさかの人見知りのあの山本くんまで。孤爪くんはちょっとソワソワしてたけど。
あとはお風呂に入って寝るだけだ、とみんなが使い終わった頃を見計らってサッとシャワーを浴びる。しかし肌の手入れも済ませたはいいが、どうにも暑い。また汗をかくのは嫌だ。そうとなれば涼むしかあるまい、と私は一人部屋を出てロビーに向かった。ロビーには自販機や簡単なベンチもあって、風通しが良いことも確認済みだったのだ。はーアイス美味しい。
あっという間にアイスは食べ終わって、濡れた髪も早く乾かさないとなぁと思いつつも疲れのせいか心地よい睡魔が襲ってくる。さすがにこのままでは風邪をひく。さっき夜久さんと約束したところなのに…、という私の想い虚しく、次に気付いた時には約1時間程が経っていた。まだ消灯時間になっていなかったことにホッとしていると肩や膝にかかったそれ。我が音駒高校の鮮やかな真っ赤なジャージと、今日とてもお世話になった白地に淡い緑の爽やかな青葉城西のジャージが2枚。幸いジャージには名前が刺繍してあるので持ち主はすぐに分かった。近くにいない持ち主に「起こしてくれたら良かったのに」と苦笑を零し、その優しさに更に頬が緩んだ。明日きちんとお礼しないとなぁ。おかげで風邪もひいてなさそうだ。
明日も引き続き青城は合宿に参加。今日と同じく計4校で行われるらしい。
合宿は残り2日。
私もマネージャー気張りますか、と3着の私には大きすぎるジャージを大事に腕に抱え、足早に自室に戻ったのだった。
20180814
