GW遠征合宿篇
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あ、音駒ネちゃーん。今日はよろしくー」
第7話
GW遠征合宿二日目。部員よりもずっと早く起きて朝食の準備をした私は、一足早く朝食を取り体育館に向かった。起こしたりするのは私がいなくともしっかりした海さん達がいるし大丈夫だろう。まだ人のいないガランとした体育館で深呼吸をし、念入りにストレッチをしていく。肩はまだ腫れはあれど思ったより痛くない。この調子だと全然明日には動けそうだ。
さすがにネットを立てたりするのは一人では出来ないので、ボールを出したりドリンクを作ったり。ここは冷蔵庫も貸してくれるそうなので作り置きが出来てとても助かる。さすがに昨日の今日で肩に負担はかけたくないので少しずつ持って通常の倍の時間をかけて準備していく。この分なら他の人の助けも借りずに済みそう。
よし、と大体の準備が終わった頃にゾロゾロと部員がやってきて呆れられた。お小言が長くなりそうだったので「今朝のオムレツどうでした?」と聞けば「あれは美味かった」と口々に褒めてもらえたので満足である。それが顔にも出ていたようでさらに呆れられたけど気にしない。
「あぁ、そうだ高原」
「はい、なんですか?」
「今日は主審はしなくていい。怪我のこともあるし、大人しくしていろ」
「…じゃあ誰を音駒から出すんですか」
「まぁ、オレか控えのやつらに頼むかな。それか他校に頼むさ」
「じゃあ私やります。コーチが指導出来ない状態なんてせっかくの合宿なのに勿体ないです」
「…駄目だ。悪化したらどうする」
「そんな無茶な動きはしません。私だって痛いのはいやです。私はサポートで来てるんです。それぐらいさせてください」
絶対に引かないと主張すれば困り顔になった直井さん。気持ちは嬉しいけどここは引かないし引けない。そんな私の頑固さに直井さんの隣で聞いていた猫又監督は声を上げて笑い、「じゃあ頼むよ」と言ってくれた。それに抗議の声をあげた直井さんだったけど監督も引かなかった。味方してくれてありがとう監督。ただし、無茶するようだったらすぐに交代させると釘を刺された。
「…あ、昨日の。こちらこそ、よろしくお願いします」
「うん。ていうか君が今日主審してくれるんだって?」
「…まぁ、はい。ご不満ですか?」
「いや別に?主審するってことは経験者なんでしょ?ちゃんと分かってる人がやるなら問題ないよ。むしろその美脚を下から眺められるなんてラッキー☆って感じカナ!」
「…アァ、ソウデスカ」
各校それなりにアップも終わり、試合をしようかという雰囲気になってきた時にかけられた声。それに顔を上げれば昨日ぶつかった人で、どうやら相手校…青葉城西高校の主将らしい。すぐに主審の話題を出されたものだから彼も女である私がやることに不満があるのかと思ったけど、反応から見るに本当になんとも思っていないらしい。むしろその上で冗談を言ってくるのだから変な話だ。彼のセクハラ発言が聞こえていたのか、短髪のチームメイトさんが目の前の彼の後頭部に思いっきりボールをぶつけたのは面白かった。
「ドーモ。音駒の主将です。今日はよろしくお願いします」
「あぁ、こちらこそ。よろしく」
「…マネちゃん、何もされてない?」
「されないですよ。挨拶してただけです」
「ちょっと!人を変態みたいに言わないでよ!」
「イヤイヤ、うちの大事なマネージャーの美脚をジロジロ見るとか変態でしかないデショ」
「…あ、聞いてたんですね黒尾さん」
そんなのどうでもいいので始めますよ、とため息混じりに促せば悪そうな笑みを浮かべた。言われた青城の主将さんに視線をやれば青筋が浮いていた。穏便に済んで欲しいなぁ。
(へぇ…すごい。いいチームだ。バランスが良い)
試合が始まってみれば青城の主将さんの雰囲気はガラリと変わった。さっきまでの、言い方は悪いけどチャラチャラとした様子はなりを潜め、一心不乱に勝利を求める姿はまるで飢えた獣のようだった。セッターとしての腕も相当で、スパイカーがイキイキしているのが分かる。加えて青城はエースの実力も相当だし、ブロッカーのレベルも高い。チームとして洗練されている。純粋に強いチームだ。
かと言って音駒が劣勢になっている訳ではない。省エネな孤爪くんにどんなスパイクもキチンと返すレシーブ。中々ボールが落ちない。守備力だけで言えば音駒の方が上かもしれない。バチバチの火花を散らす彼らの試合はとても観ていて面白い。思わず私も主審に力が入る。彼らの勝負を邪魔せず、且つ正確なジャッジ。何セットでも観ていたいとすら思った。
「お疲れ様でした。もう一歩でしたね」
「おう、サンキュ。結構やりづれぇ相手だわ青城」
「チームとしての完成度がとても高いですよね。あ、次はローテの関係で1セット分空きなので体冷やさない程度に休憩取ってください」
ゲームカウントは1-2。音駒の敗北だった。とはいえ1セット目は15-25、2セット目は25-18。3セット目は26-28でデュースにもつれ込み、かなりの接戦だった。部員のみんなも学ぶことは多かったようでお互いにあそこはどうだったとかあそこはこうするべきだったとか色々話し合っている。真剣なその様子に連絡事項だけ伝えてその場を離れる。主審している間はなにも出来ないのでこういう空き時間は有効に使わないと。とりあえずまずはドリンクだな、といそいそと空になったボトルを回収し、体育館を後にする。
「あ。いたいた、音ー駒ーネちゃんっ」
「…?あ、どうも主将さん。…どうかされました?」
冷水機でボトルに水を溜めているとかけられた声。相手が分かったのに声を掛けられたことに少しビクついてしまったのは昨日の今日だから仕方ないと思いたい。
振り向けばそこには青城の主将さんとエースの人。二人は威圧しているつもりはないんだろうけど、長身とオーラが相まって少し萎縮してしまう。まさか、彼らも主審に文句を…?、と思ったがそういう雰囲気は感じられない。なんだろう、と首を傾げれば「ハイ」と差し出されたのは…凍った保冷剤?
「左の…肩かな?怪我してるんじゃない?それ使っていいよ」
「えっ、私そんなに分かりやすかったですか…?」
「気にしないと分からないぐらいだよ。どことなく右手よりも左手の方が動作がゆっくりだなーって思っただけ。違った?」
「いや…違わないです…。ちょっと腫れてるだけですけど」
「及川の言ったことマジだったのかよ」
「だーから言ったじゃん岩ちゃん!」
「うるせぇクソ及川」
「理不尽!」
目の前でギャーギャーと言い争う姿に思わずポカンとしてしまう。つまり彼は試合中にも関わらず私の異変に気付いたってことだ。すごい洞察力。きっと対戦校に関しても発揮している力なんだろう。本当に彼はその見た目に反して油断ならない人だ。
なんにせよ気遣ってくれたのは嬉しいのでお礼を言えば「名前教えて☆」と語尾の星マークが見えるように言われたので普通に教えた。そして彼らは及川徹さんと岩泉一さんだと名乗ってくれた。どうやら3年生らしい。知り合ったはいいものの、私は臨時マネージャーだしもう会うことはないだろうなぁ、なんて冷たいことを思ってしまう人間だった。そんな私の思考を読み取ったのかは定かではないけど、連絡先まで交換しようと言われたのはさすがに驚いた。素性は分かってる人だし、めんど臭くなればブロックすればいいか、と軽い気持ちで教えたけど。
「じゃ、また連絡するね~綾奈チャン」
「怪我してんなら無理すんなよ」
「はい、ありがとうございます」
音駒はこれからしばらく休憩だけど、青城は次の試合があるとのことで手を振って別れた。意外と気のいい人達だ。ここが宮城じゃなくて東京だったら今後も交流があったかもなぁなんて考えて私も仕事に戻ったのだった。
「ん…っ!?高原さん、氷なんか持って…!まさか悪化したのか!?肩!」
「あ、ううん。そうじゃなくて。青城の及川さんが気遣ってくれただけだよ」
「お、及川さん、だと…!?いつの間に知り合いに…!」
「さ、さっきちょっとね。山本くん落ち着いて。燃えすぎだよ」
「あんの優男めェ!!!!!」と文字通り燃える山本くんに既に私の声は届いていない。昨日の今日だし、彼も気遣ってくれてるだけなんだろうけど。
心配しなくて大丈夫だよ、と服を引っ張って苦笑すれば勢いは止まったものの次の瞬間には彼の顔は燃えるように赤くなってしまった。あ、あ~~…人見知り難しい…。
20180812
