代表決定戦篇
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「お?珍しい人からLINEだ」
第7話
烏野が県大会で優勝してから数日。長袖の制服の上にお気に入りのベージュのカーディガンを着て登校する私の元に1通のLINEが届いた。誰だ?、と思って開いてみれば、まぁびっくり。なんと影山くんだった。連絡先を交換はしていたけど、その後は合宿お疲れ様〜ぐらいのやり取りしかしていなかったのでまさかの彼からの連絡にソワソワしてしまう。早く教室に行ってじっくり確認しようと足早に学校へ向かった。
ソワソワとしたまま、おはようと声をかけてくれる友人に挨拶を返して席につく。なんで私こんなに緊張してるんだろ。レアキャラだからかな。
「……『全国いきます』…これだけ?」
ソッとひらいたメッセージはたった一言、簡潔にそう述べられていた。なんとも彼らしい文面に、なんで緊張してたんだろうと思わず、ふはっと噴き出してしまった。クラスメイトに変人扱いされちゃうじゃん勘弁して。
観に行ったことは恐らく会場で会った翔陽くんに聞いたんだろう。そんなに翔陽くんが知ってて自分が知らなかったことが悔しいんだろうか。こんなとこまで闘争心燃やされても困る。面白いけど。『お疲れ様!いいセットアップだったよ!』と返信して携帯をポケットにしまった。あの試合を讃える言葉を連ね始めたら蛇さながらの長さになっちゃうからね。ここは簡潔にが1番だ。それにそれがきっと1番分かりやすく彼に伝わるだろうし。
宮城の県大会は終わった。そして彼等は春高への切符を手にした。そして次は…今月中旬に行われる東京都の選抜大会。強豪が揃っているというこの地区で我が音駒が勝ち上がれるのか…必ずこの目で見届けなくてはならない。東京都には赤葦くん達の学校、梟谷もいるから本当に一筋縄ではいかないだろうけど…心から勝ち進んで欲しいと思う。
音駒の今後を祈って机を睨みつけているとブルっと震えたポケットに、影山くんがもう返信をしてきたのかとパッと携帯を取り出して確認する。けれどメッセージの相手は影山くんではなくて、
「……お父さん」
何年ぶりの連絡だろう、と私はメッセージを確認しないまま携帯をポケットにしまった。
「…綾奈。久しぶりだな。よく来てくれた」
「…うん。お母さんが連絡したんでしょ?」
「まぁ、な。元気そうでよかった。お前がまたバレーに関わってるって聞いて驚いたよ」
「…それは私もびっくりしてる。その夢を叶える為に、お父さんに会いに来た」
「…あぁ。どんな理由でも、お前に会えて嬉しいよ綾奈」
「調子良すぎ…」
週末。私は新幹線を飛ばして京都まで来ていた。と言うのも何年もあっていなかった父親に会う為だ。父親とは中学にあがる以前から別居中だった。夫婦仲は悪くなかったけど、転勤や出張の多い父親は気付くと家に帰ってこなくなっていた。それだけだった。多分夫婦同士で決めたことなんだろうけど、小学生だった私がその理由を説明されてもきちんと理解できなかっただろうし、何より…自分は見捨てられたのだと思っていた。今ならそれが違うというのは分かるけど、それでもその時の悲しい気持ちというのは思った以上に私の中で大きく、蟠りを残していた。久しぶりに会った父親は、なんだか大きく見える。
「…お父さんがバレーのコーチしてるなんて知らなかった」
「お前が知ったら嫌がるかと思ってな…。母さんにも口止めしていたんだ。…その、色々あったんだろう」
「……。いつ現役引退したの」
「厳密に言えば2年前だな。流石に父さんも第一線でやるには体力がなぁ」
ははは、と頭をかいてへにゃりと笑う父親に、私はなんとも言えない気持ちになった。
お父さんはプロバレーボーラーだった。それこそ2年前に引退したというその時まで。私はバレーを父に教えてもらったのだ。幼い頃から教えるでもなく、私が興味を持った時に教えてくれた。それが私を尊重してのことだっていうことは今だから分かることだ。体力が、なんていいつつもその体は依然として大きいままだし、きっちりトレーニングをしている事がわかる。多分、コーチとか言いながら自身も加わって指導しているんだろう。
父との距離の詰めかたが分からずにツンとした態度を取ってしまっていることが良くないのは分かってはいるけど…なにせ会うのは6年以上ぶりだ。緊張してしまうのも無理はないだろう。
そんな当たり障りのない会話をしながらお父さんに連れてこられたのは大きな体育館。この2年はここを拠点に指導していたらしい。基本的には大学バレーのコーチらしいが、今日は高校生も交えて行う親善試合みたいなものらしい。と言うのもあって気を張らなくていいからと私が呼ばれたのだ。たくさんのバレーを観るのは今後に必要だからと。
「えっ綾奈?なんでいるん?」
「え…あ、倫太郎っ?久しぶり!」
「久しぶり。母さんの店いつも手伝ってくれてありがとね」
「ううん、私も楽しくてやってる。そっか、合同でやる高校って倫太郎のとこだったんだ。私のお父さん、大学バレーのコーチやってるんだって。今日はその伝手できたんだ」
「へぇ。綾奈のお父さん、引退してからここでコーチやっとったんだ」
「らしいね。私もちょっと混ぜてもらえるみたいだから、その時はよろしくね」
「うん。元気そうで良かった」
「ふふ、うん。倫太郎も」
それじゃ、とそれぞれアップの準備に取り掛かる。チラリと振り向いた先にいる倫太郎はチームメイトに肩を組まれて何やらワイワイとしているが、上手くやっているようでよかった。
私がバイトしているお店の店長。つまり私の叔母の息子が角名倫太郎というわけだ。バレーの強豪校である稲荷崎高校にスカウトされた身であるから会うのは本当に久しぶりだ。背もすごく高くなってた。従姉弟というだけあって、愛知出身とはいえ幼い頃はよくたくさん遊んだものだ。懐かしい。
「高原の娘なんだってな。今日はじっくり勉強していくといい。途中入ってもらうと思うがポジションの希望はあるかな?」
「高原綾奈です。今日は無理を言ってすみませんでした。ポジションはリベロとセッターは経験があります」
「なるほど、いい経験だ。それじゃセッターから入ってもらうからね。アップは入念にやっておきなさい」
「はい!よろしくお願いします!」
大学の監督にも挨拶をして入念にアップに取り掛かる。隣り合った先輩方にも声をかけてもらい、自身がされてるテーピングの仕方だったりトレーニングの方法を聞きながらそれぞれを頭に叩き込んでいく。本当に覚えることがたくさんだ。
「キミ、綾奈ちゃん言うんやって?女の子やのにこないなとこまで来て大変やねぇ」
「…いえ。とても勉強になりますから。倫太郎もそちらのチームで大変そうですね」
「いややわぁ。角名はめっちゃ楽しそうにやっとるで?」
「そうですか。私もこっちで楽しくやってるのでどうぞお気になさらず」
「!!」
2セット目に入るときに私は監督に呼ばれてセッターとして投入された。大学生のみなさんは気さくで、でもプレーは力強くてかなり揉まれているのがわかった。気負わずにな、と背中を押してくれた監督に頷きポジションにつけばネットを挟んだ向こうにいる金髪の選手がに〜っこりて笑顔を浮かべて声をかけてきた。嫌な笑顔である。
嫌味には嫌味を、とに〜っこりと笑みを浮かべて返してやればムカッと来た様子でにんまり。なんで初対面でこんなに嫌な顔をされなきゃならんのだ。倫太郎、大変なチームメイトがいるなぁ、なんて少し同情した。
「、悪い!綾奈ちゃんカバー!」
「オッケーです!」
けれど金髪の彼のセットは見事なもので。セッターとして申し分なかった。大学生チームがリードしているとはいえ、翻弄されている。こちらの様子をよく見ているし、それこそチームメイトのことも。乱れたレシーブのカバーに駆け出し、その間に誰にあげるかを考える。普通なら安定にレフト…けど今はレフトの対向には倫太郎がいる。見ていて分かったことだけど、倫太郎は体幹が半端ない。まじで。打つ直前にコースを打ち分けるなんて相当の体幹がなければ出来ない。そして省エネで動いているのもあって、ここぞとばかりにブロックは止めてくるし。嫌な選手に育ったもんだ、と苦笑して私は後衛のスパイカーにトスを上げた。
「綾奈お疲れ。全然動けてんじゃん、びっくりした」
「お疲れ倫太郎〜。いや〜でも体力がね…男子のネット高いから余計に飛ぼうとするから大変だった…あは…」
「ブランクあるのにあれだけできれば上々でしょ。そっちの監督も講評のときに綾奈のこと褒めてたよ」
「わ…ほんと?それは嬉しいな…。倫太郎もうまくなっちゃってびっくりだよ私」
「扱かれてるからね」
叔母さんにいい報告が出来るなぁ、とホクホクした気持ちでクールダウンを始める。結果的には大学生チームは追いかけられる形ながらも全てのゲームで勝利を納めた。私も選手としての課題はたくさんあれど、試合中に起きたちょっとした怪我、素早いテーピングを行う姿にとても勉強になった。得るものはたくさんあった。
グイーッと前屈しながら倫太郎と久しぶりの会話を楽しんでいるといきなり陰り、え、と思って体を起こせば背後にはに〜っこり笑ったさっきの金髪セッターがいた。思わず繕うこともせずに「うげ」と声にだしてしまった。それを聞いた彼は「傷付くわぁ〜」なんて言いながら私達と一緒に座り込んでダウンを始めた。鋼の精神持ってんな。
「試合中から思ってたけど侑、なに綾奈に絡んでんの?なんかあったの」
「いきなり嫌味ぶちかまされたからぶちかまし返しただけだよ。何もない」
「それは何もないとは言わないけど。」
「だって角名の従姉弟なんやろぉ?そんなん気になるに決まっとるやん!エライ人気者みたいやし」
「興味本位で人に喧嘩売るの辞めた方がいいですよ。私も買っちゃうんで」
「え〜?安くしとくでぇ?」
「高くつくって言ってんですよ」
「ちょっと。本当になんなのお前ら…」
まさに売り言葉に買い言葉。ニヤニヤと笑いながら話す侑とやらと打って変わって、私は初対面なんてことはもう気にせずに睨み付ける。なんというか、人におもちゃにされるのはめちゃくちゃ腹立ちます。試合中は真剣でかっこいいのに何なんだ。と、そこまで考えたところで彼と同じ顔の彼を思い出した。双子といえど彼は私には絡んで来なかったし、なんなら試合中も煽ってくる金髪を嗜めたりもしてくれた。中身は全然違うんだなぁ、とハンッと鼻で笑うと「なんやねん!」と憤慨した。なんだろう、この子供を相手にしている感覚は。
「倫太郎。この人と双子の人はなんて名前?」
「ハァ!?」
「治だけど…なに?惚れたの?」
「こっちの人よりかはよっぽど〜」
「何言うてんねん!!俺の方がイケメンやろが!!」
「その自信をひけらかすのがタイプじゃないんだよな〜」
「ウッッザ!!!!」
顔だけやなほんま!!!、とプンスカ怒る彼に思わず噴き出してしまった。顔だけって。それつまり私の顔は褒めてくれてるってことじゃんね。あっはは!、と笑うとなんだかさっきまでのこともどうでも良くなってきた。私こそなんであんなにムキになったんだろう。精神年齢が引っ張られてしまった。
「あーごめんね。私も熱くなっちゃった」と笑うとポカンとした彼は顔を真っ赤にした。自分の幼稚さに気付いて恥ずかしくなったんだろう。「なんっ……やねん!!!」と言って寝そべって体を捻るストレッチを始めた。表情は見えないけど耳が赤いことは見えて、それにまた笑ってしまった。愉快愉快。
20211108