代表決定戦篇
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「はぁ…緊張した…」
第3話
烏野対和久谷南戦。結果から言うと見事烏野が勝利を手にした。澤村さんのポジションには縁下くんが入り、合宿中でもあまり見なかったメンバーになったのでどうなるかと思ったけど、私が心配することなんてなかった。彼はしっかりと己が出来ることをやってのけた。よくよく考えれば合宿の時だって、西谷くんや田中くんの勢いに私が圧倒されている時も助けてくれたのは縁下くんだったし、彼等の首根っこを掴んで叱る姿はとても頼りになった。だからきっと、そういうことなんだと思う。
あとはピンチサーバーで入った山口くん。見ているだけでも彼の緊張が伝わった。わかる。サーブを求められて投入されるって、すごく怖くなっちゃうよね。みんなが自分を見るのだから。
1年生だ。特に彼は他の1年生である影山くんや翔陽くん、月島くんとは試合に出てる数が圧倒的に違う。こればっかりは場数を踏んで慣れていくしか無い。今日、"攻める"ことではなく"確実"を取った山口くんも、決して間違いではない。ないけれど、今後も彼等と共に先に進んでいきたいなら、乗り越えていかなければいけない壁だ。そしてそれは本人がきっと一番分かってる。
でも、とてもいい試合だった。観客席に挨拶にきた和久谷南の選手に大きな拍手を送った。さっきこっちを見た選手にまたもや視線をいただいた。な、なんかしたかな私…。
「綾奈ちゃん、烏野の応援きたんだろ?1試合分ぐらい空きだけど大丈夫?」
「あ、はい!私、青城にも知り合いがいて。その試合も見たかったんです」
「おぉマジか…。JKって顔ひろいな…」
「ハハッたまたまですよ。こっちに遠征合宿にきた時の対戦校だったんです」
ちょっとブラッとしてくる〜、と席を立った冴子さんを見送り、自然と嶋田さんと話す流れに。他校である私にまで気を遣ってくれてて申し訳ない。
もう時期、試合後のミーティングを終えた烏野のメンバーが観客席に上がってくるだろうとのことだ。そして1セット目は青城がとり、2セット目に入った青城対…伊達工業戦。その勝者と烏野は戦うことになる。伊達工業の人は背が高い。体格がめちゃくちゃいい。嶋田さん曰く、以前にも烏野は戦ったことがあるらしく、ブロックがかなり手強い相手なのだとか。それに青城がどう対応していくのか、楽しみだ。
「お!綾奈だ!綾奈ーー!」
「西谷くん!みなさんも、試合お疲れ様でした。…澤村さん、体調大丈夫そうですか…?」
「おう。痛み止め効いてる。せっかく観に来てくれたのにかっこ悪くてすまん」
「そんな。澤村さんはいつもかっこいいですよ」
「「「!?!?!?」」」
西谷くんの声に振り向けばそこには試合を終えた烏野のみんなが。澤村さんもしっかり自分の足で立てているし、本当にどうやら大事には至らなかったらしい。本当によかった。
お見合いになってもおかしくない場面で無我夢中にボールを落とさないように食らいついた人がカッコ悪いはずもなく。というか、黒尾さんと言い合いしてる時は年相応さはあるけれど、澤村さんはいつもどっしりとしていて他にない安心感がある。同じ高校生なはずなのに。うん、やっぱりいつだってこの人はかっこいい。
「とにかく次の試合までゆっくり…、あれ?ちょっと顔赤い気が、」
「だ、大丈夫だ!!全然!むしろ元気になったっていうか!!!」
「???そうですか…?」
「大地このやろー!」
「ずるいっすよ大地さん!!」
「う、うるさいっお前ら!!」
にぎやかになってしまったけど、澤村さんが元気ならそれでいいか。仁花ちゃんに、頑張ったね、と労いの声をかけ、潔子ちゃんに持ってきていた差し入れを渡す。今回は手作り出来なかったからお菓子だけど。キットカット。うん、験担ぎ験担ぎ。糖分も欲しかろう。甘いもの好きな月島くんはお弁当よりも先に口にしていて可愛かったです。って言ったらゴミを見る目で見られました。なんでや。
「綾奈さんから見て、今の試合どうスか」
「そうだね…伊達工は本当にブロックがいいね。それに加えてセッターの彼も高身長。とはいえ、青城も高身長は少ないけど、ブロックがよく見えてるし打ち抜く火力もあるし、引けを取らない。特に岩泉さんはトスをあげてみたくなる選手だよね。面白い試合だと思う」
「……セッターの及川さんは」
「敵味方関係なく視野が広いね。多分、さっき伊達工のセッターにブロックで止められた時も見えてたと思うし…………ってなにその顔、影山くん」
「なんでもねぇっス………」
「なんでもねぇ顔じゃないんだよなぁ。知り合い?」
「…中学ん時の先輩っス」
「へー!そっか、同じ県ならそういうこともあるか!」
もし青城が勝ったらちょっと複雑?、と聞いてみればあっけらかんとして「イエ?」と返してきた影山くんはやっぱり大物だ。じゃあさっきの顔はなんだとも思うけど、きっと及川さんの実力を分かっているからこそのアレだな。すげーって気持ちと負けたくないっていう気持ち。正直だなぁと思わず笑ってしまった。口をもぐもぐと動かしながら目はコートから離さない影山くん…や、翔陽くん達に苦笑しながらも私もコートに視線をやる。県大会のレベルが高すぎる。きっとどこが優勝しても不思議じゃない。それでも、全員が優勝する道は無いのだ。
だからこそ、勝負は楽しい。
「…決まったな、次の相手」
澤村さんの声にハッとして、知らずに止めていた息を吐いた。すごい試合だった。伊達工のブロックはもちろん、青城の安定した上手さ、勝負の駆け引き、あげていけばキリがないけれど本当に目を奪われる試合だった。最後の岩泉さんのブロックと正面から勝負をさせろと言わんばかりのスパイクには心が震えた。かっこよすぎた。勝ったのは青葉城西。烏野は次の準決勝で彼等と戦うことになる。観客としてはどちらを応援すれば悩むところだけど、個人としては純粋に試合が楽しみだ。どんな面白いものを見せてくれるんだろう。ぶわぁっとワクワクが体を駆け巡る。
いいなぁ。やっぱりバレーボールは、いい。
次の試合まで少し時間があるので一人体育館の外へ空気を吸いに出た。花壇のふちをベンチ代わりにしてハァと息を吐く。見上げた空はとても青い。冷たい風が火照った体と頭を冷やしていく。
私の横を通り過ぎて体育館を後にする選手達。惜しくも先に進めなかった人達だろう。準決勝を見ずに去る気持ちは私には計り知れない悔しさがあるのだろう。もちろん、このあとの準決勝を観戦する選手の気持ちだって、戦ってすらいない私には分かるはずもない。
それで、いいのだろうか。
トレーナーになりたいと言っておきながら、今のままで私は本当に選手に寄り添える立場に…なれるのだろうか。知らないことは時に人を傷付ける。そのことは痛いほど知っているのに。
「だめだ、このままじゃ」
ギュッと右手を握りしめ、左手で携帯を取り出して私はある人の電話を鳴らした。
「あ!綾奈戻ってきた!遅いジャーン!」
「すみませんっ!ちょっと電話してて…!」
「間に合って良かった。そろそろアップが終わるよ」
「…なんか既に一触即発って感じですね」
「青城とは夏のインハイでやって負けてるからなー…」
烏野にとって青城は必ず超えなければならない…否、超えたい壁ということだ。…いいなぁ、そういうの。
「わくわくする」
思わず上がる口角にどこかホッとした。
認めるよ。私は、今もずっと…バレーボールが大好きだ。
あちょ、及川さんこっちに向かって手を振らないで。
20201224