東京合宿篇
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「よーし。じゃあ福永くんはそこの網をお願いね」
第10話
合宿も最終日。先ほど全ての練習メニューが終了した。私も主審台から降りて急いで食堂へ向かう。他のマネージャーさん達が先に準備をしてくれているから急がないと。
なんと最終日のご褒美は監督達からのお気持ちでBBQなのだ。部員じゃない私もあやかりますありがとうございます。ま、その分お手伝いを買って出ます。働かざるもの食うべからず。
食堂にいけばマネージャーさん達がワタワタと準備を進めていてくれた。BBQだから今ここで調理するものはないけど、なにぶん食べ盛りの運動部員の食事量。食材を切るだけでも骨が折れる。私は何しましょうか、と聞けばおにぎり作りを任された。仁花ちゃんがめっちゃ頑張ってる。それ手、火傷してない?大丈夫??
「仁花ちゃん、遅くなってごめんね。私もおにぎり班やります」
「はわっ!あああお疲れ様でしゅ!炊き立てのご飯に恐れをなしたせいで遅くてすみません…!私の手は喜んで犠牲にしますのでっ!!!!」
「しないで良し!!!こういうのは慣れだよ。焦らずやろ!みんなも怒らないよ。それより大事な手なんだから火傷気をつけてね」
「シャス!!!」
これには昆布いれちゃお〜、なんて楽しみながら仁花ちゃんとせっせとおにぎりを拵えていく。一生懸命頑張る仁花ちゃんの姿にほんわかしているとカシャッとシャッター音。なんだとそちらに顔を向ければスマホをかまえた楽しげな雪絵ちゃん。どうやらこっちを手伝いにきたついでに撮影したらしい。盗撮でも雪絵ちゃんなら良しです。あとでその写真送ってください。
「存分に筋肉を修復しなさい」
準備も整い、猫又監督の労いの言葉に被さるように、一斉にBBQに集る部員さん達。これは焼くのが間に合わなそうだ、とトングをカチカチさせて自分も焼くアピールをしてくれた福永くんに親指を立てた。グッジョブ。めちゃくちゃありがたい。でも君もちゃんと食べるんだぞ。
「良かったら焼きおにぎりもできるので希望の方はおにぎり取って私のところまでどうぞ〜!」
「はい!!!お、おれのおにぎりお願いします!!」
「俺も!!!!」
「はーい。出来上がったらまた声かけますね〜」
焼きおにぎりが好きな人が多いようでどんどん網がおにぎりで溢れる。わかる、炭火の焼きおにぎり超美味しいよね。うーん、この網はおにぎり専用にする方が良さそうだ。今のうちに隣の網で肉を焼きまくるか。あ、仁花ちゃんはこっちにおいで。それは肉じゃなくて炭だ。人生のような味がするお肉なんて嫌だわ。
「はい、これが西谷くんの分。田中くんのもあるんだけど一緒に持って行ってくれる?」
「おう!ありがとな綾奈!怪しい奴に絡まれてねーか!?」
「怪しい奴って(笑)大丈夫だよ。それより潔子ちゃんの方を気にしないと。高嶺の花なんだから〜」
「潔子さんは今は龍に任せてるから大丈夫だ!」
「そう?ならいいんだけど」
西谷くんに名前で呼ばれたの嬉しいな、と笑うとギャン!と赤くなった。照れるポイントが分かんない。
西谷くんは焼きおにぎりをその場で美味い美味いと頬張った。リスのように膨らむほっぺが可愛い。たくさん食べて大きくなるんやで…。
そのあとも出来上がった焼きおにぎりを取りにきた部員さん達になんとも迫力のある表情で西谷くんが見つめたこともあってか、1回目の焼きおにぎりは無くなって一息。みんなそそくさと離れていったもんな。スムーズなお取引が出来ました。またご縁がありましたらよろしくお願い致します。それにしても、やっぱり火のそばにいると熱いな。
熱いだろうと西谷くんを、ゆっくり食べてきて、と日陰へ送り出して私もお水を一口。うーん、あと数分後にはぬるくなってるだろうな、これ…。それほどの暑さの中のBBQは堪えるけど、でもそれがBBQの醍醐味でもある。見渡せば部員さん達が楽しそうに汗をかきながらお肉を頬張っている。青春だ。
「高原さん。ずっと焼きっぱなしで食べてないでしょ。替わるよ」
「赤葦くん。ううん、大丈夫だよ。赤葦くんこそ食べてます?あとで焼きそばもしますけどまだキャパ大丈夫?」
「うわなにそれ食べたいな」
「でしょ?とりあえず今はお肉ぐわーっと焼いちゃうから待ってて〜」
盛況なお肉を焼いては渡しを繰り返していれば、一通りは食べ終えたらしい赤葦くんが焼き係を申し出てくれた。優男だ。
大丈夫だよ、と言っても少しでもいいから食べろと気遣ってくれる赤葦くんにどうしようかと考える。別にそんな頑なになる必要もないんだけど、なんとなく。
「あ、じゃあ赤葦くんアーンしてくれる?それなら焼きながら食べられるな〜」
「えっ。いいよ」
「動揺してからの肯定が速いな」
一瞬で赤葦くんの中でどう結論付けたのかは知らないけど、あまりにも自然にいうものだから面白い。嘘嘘冗談だって、と笑っても「はい」と美味しそうなお肉を口元に寄せられた私はどうするのがベストアンサーなんでしょうか。
まぁいっか、とパクリといただきまして咀嚼する。あーーー美味しい〜〜〜〜監督方、結構いいお肉用意してくれたんだな〜〜。
「お〜い赤葦く〜〜ん?なに?いまの??俺たち見てたよ〜〜?」
「うわ…高原さんが食べれてなかったので手伝いしただけですよ…」
「なにっ!食え食え音駒ネ!オレが食べさせてやろう!!」
「むが!ちょ、も、もふふぉはん…!」
「うわぁ…やば…」
どこからともなくやって来た黒尾さんに木兎さん、そして引っ張って来られたらしい月島くん。月島くんはドン引きするんじゃなくて進行系で木兎さんにお肉を突っ込まれてる私を早く助けてください。
さすがにもう入らない…!、と必死でストップをかけて顎が外れそうなぐらい突っ込まれた美味しいはずのお肉をなんとか咀嚼する。味が分かんない…。咀嚼することに体力を使ってぐったりした私と、パチリと目があった月島くんはニヤリと意地悪く笑った。あ、本性出してきたな!?!?
「木兎さん!月島くんもお肉たくさん食べたいそうです!」
「ちょ!ちょっと!ボクもうお腹いっぱいだからいらないです!」
「ツッキー!我慢すんな!ほれ!ほれほれ!!」
「いらないですって!!!」
ギロリと私を睨む月島くんにお返しだとばかりにニヤリと笑う。バチバチと火花が散っているのは勘違いではないと思う。マネちゃんやるね〜、と心底楽しそうに笑う黒尾さんと並んだ私達は月島くんからすればさぞかし鬱陶しい存在だろうと思う。
そんなこんなでワイワイと話しながら焼く手も動かす。気付いたらお肉無くなってるんだもんな。
「ま、なんにせよお前もお疲れさん。毎度の如くマジで助かったわ」
「いえいえ。みなさんもこんなに暑い中、本当にお疲れ様でした。全国で皆さんの活躍を観に行くのがすごく楽しみです」
「東京も宮城も一筋縄ではいかねーけどな。…けど、やっぱゴミ捨て場の戦いは実現させたいし」
「あ、前にも言ってたやつですね。…うん、私も音駒と烏野の試合観たいです。特に翔陽くんのプレーは観てて楽しいし」
「……なーんか気付いたら色んな奴と仲良くなってんのネ」
「?そりゃ、1週間もあれば話すこともありますよ」
俺らとは逆にあんま絡みなかったよな〜、と口を尖らせる黒尾さんに思わず「にわとり…」と呟いてしまった私はなんて失礼なんだ。でも髪型のトサカと相まってそう見えてしまったのだすんません。
ポカリと殴られた頭に置かれた手はそのまま私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。あ、荒いです黒尾さんっ…。
「今回は楽しそうにやってくれて良かったわ。前回みたいな思い出ばっか増やさせたくなかったし」
「…黒尾さんって時々そうやってイケメンムーブかましてきますよね…」
「黒尾さんイケメンだから」
「」
「せめて何か言えっ!!!」
あはは、と笑う私を見た黒尾さんは「しょうがねぇ奴」と苦笑した。そんなに心配してもらってたとは私自身驚いた。勿論、前回の合宿のように怪我なんかしようものなら私はもう臨時と言えどお手伝いをするのは辞めようと決意しただろう。バレーボールからも離れようと。でも、今回の合宿に参加させてもらえて本当によかった。たくさんのバレーを観れたのもそうだし、私にも少しだけ青春と言うものを体験させてもらえたし。部員にとっても、私にとっても。
本当に、実りのある合宿だったのだ。
「黒尾さん。やっぱバレーっていいですね」
「おっ。マネージャーやるか」
「うーん(笑)」
「なんだよそれ…」
高校2年生の夏。進路も決めていかないといけない時期になってきた。今回のこの合宿で得たものは、今後の私の人生に大きく関わってくる。…いや、関わらせたいと思った。
「少しでも支えたいって気持ちは本心ですよ」
20200603