東京合宿篇
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「はいっ綾奈先輩の分のスイカですっ!」
第7話
合宿2日目。本日も快晴。ひたすらに試合をしていく合宿なので私の仕事も常にある。一応5校なので主審も休憩の時があるからその時にドリンクやらタオルを準備して。ただ前回のこともあるから熱中症にはくれぐれも気をつけている。選手のみんなもだけどね。
「父兄の方からのスイカの差し入れでーす!」
烏野と森然の試合の主審を終えて一息ついてると良く通る可愛い声。英里ちゃんだ。どうやら森然の父兄の方が差し入れしてくれたらしく、そのスイカは綺麗に切りそろえられていた。あぁ…それもマネージャーの仕事なのに任せてしまった…。せめても、とスイカの皮の回収係に回ろうと英里ちゃんに声をかければ「綾奈ちゃんも休憩して!」とぷりぷりと怒られてしまった。えぇ…なにそれ可愛い…。
「綾奈ちゃんの分は仁花ちゃんに確保してもらってるから!…おーい仁花ちゃーん!綾奈ちゃんここにいるよー!」
「はっ!ヒャイッ!」
「わぁ…わざわざごめんね」
「ぜーんぜん!綾奈ちゃん来てくれて助かってるし、なによりまた会えて嬉しいよー!」
「私も嬉しいぃ〜。あ、みんなはもうスイカ食べたの?」
「私達はマネの空き時間にササッと食べるから!綾奈ちゃんは空き時間ほとんどないまま動いてるんだから今食べちゃっていいよ〜!」
「えっでも、」
「お、お待たせしました…!」
部員達と同じタイミングで私まで食べるのは気が引ける…、と思っていればパタパタと仁花ちゃんが私の分だというスイカを持ってきてくれた。2切れ。…2切れも!?
とりあえず仁花ちゃんにもお礼を言えば、たどたどしくも笑って返事をしてくれた。可愛い。なんでマネージャーの人たちみんな可愛いんだろう。ずるい。…あ、いや多分私が1番部員のみんなから羨ましがられるポジションにいるな。両手どころか脇にまで花だものな。フフン。なんて、優越感に浸っていたので中々スイカを食べない私に仁花ちゃんは「ま、まさかっ…!」と衝撃を受けた顔をした。えっなになに?
「も、もっと大きいものを取ってきたほうがよかったですよね!ごめんなさい!わ、私の力では死守するのに精一杯でそこまで気が回らず…!!!!」
「えっ?いやいや大丈夫だよ?」
「あ、暗殺…っ!」
「なんで!?しっかりして仁花ちゃん!!!」
脳内でどんどん飛躍していく話を慌てて止める。なにがどうなってスイカから暗殺になった!?!?落ち着いて〜、と背中を撫でてやると「はいいいっ…」となんとか息を吸ってくれた。しかし、そこでまた何かに思い至ったのか、ハッとして仁花ちゃんは口を開いた。「も、もしやスイカがあまりお好きでなかったとか…!?」と。気にしないでいいのになぁと思わず笑みが溢れる。
「ううん、大好き。ありがとう」
「…はわぁっ!」
「仁花ちゃん?えっほんと大丈夫?」
「な、なぁ音駒マネさん!良かったら俺のスイカ食べるか!?」
「馬鹿っ!誰がお前のを食べるかよ!高原さん!俺の大きいですよ!どうぞ!」
「えっ、ど、どうしたんですか?お腹いっぱいですか?」
仁花ちゃんの背中を撫でながら、スイカが食べきれないのか私に譲ろうとしてくれる部員さん達にどうしようかと慌てる。さ、さすがにこれだけの量もらっちゃうとお腹壊しちゃうぞ…!
私じゃなくて他の人に…、とやんわり断ってみれば「で、でも好きなんスよね!?」との言葉。なんでそんなに迫真なんでしょう。私がスイカ好きであることのなにが彼等をここまで必死にさせるんだ。顔めっちゃ赤いですよ…!?
「は、はい。好きです、けど…」
「「うわーーーーー!!!!」」
「お前らうるせー!!!マネに絡むな!!」
ズギャーン!と、衝撃を受ける彼等に私の頭もパーンしそうだ。男子ってわかんない…。遠くから怒ってくれた黒尾さんに感謝。合掌。
そのあとスイカは美味しく2切れきっちりいただきました。甘くて美味しかったけど、タネをプププッと飛ばしていると何故かめちゃくちゃ注目浴びて肩身狭かったです。あ、今めっちゃ飛んだ。新記録だ。ご馳走様でした。
「高原ー次は主審とばして烏野でスパイク練入ってくれー」という猫又監督の声に「はーい!」と返事を返して、履いていた長ズボンジャージを脱いだ。どこかで「キャー!」なんて声が聞こえたから辺りを見回してみたけど…特になんもなさそう…?「ま、大丈夫か」と、膝のサポーターを付けた。うーん、やっぱユニフォーム丈のショートパンツはいいなぁ涼しい。
「烏養さん。スパイク練手伝うように言われてきました。よろしくお願いします」
「おぉ、よろしくな!経験者なんだってな。ポジションはセッターか?」
「はい。リベロもやってたことあるのであれだったらそっちにも入れます」
「頼もしいな。気付いた事があればあいつらにも言ってやってくれ」
「そ、そこまでの技術は…が、頑張ります」
「ハハっ!頼むぜ!」と快活に笑った烏養さんに私も苦笑を返す。猫又監督に私のことを聞いたらしいんだけど、監督は一体どういう風に伝えたんだろう…。どうせ昨日の夜のお酒の席で話したんだろうから盛ってそうだ…、とちょっと不安になりながらゆっくりストレッチをしていく。休憩時間はまだ10分ほどあるけど、スイカを食べ終えた面々が体育館に戻ってきたりし始めた。やっぱりみんな熱心だなぁ。
「東峰さん、トスもう少し高くてもいけますか?」
「あぁ、もうちょっと余裕あるよ」
「オッケーです。次ちょっと高めにあげますね」
「頼むよ」
「日向くんはもしかしてテンポの練習してるのかな。ファーストテンポで合わせてみようか?」
「!!!ウッス!お願いシャス!」
「了解。君のジャンプの高さに慣れるまでちょっと打ちにくいかもだけど待ってね」
「ハイ!!!」
烏野の練習に混ざるのは初めてだけど、合宿で主審をしてるのもあって彼等が今なにを試そうとしているのかは大体分かる。出来ないことを出来るように、強くなる為にボールを追いかける彼等はさすが烏。すごい雑食性だ。女である私の言葉にもちゃんと耳を傾けてくれるし、私としても楽しい。
一通りスパイク練をしてから、そのまま流れで次は2段トス練をするとのこと。後ろから上がるボールの打ちにくさは数をこなすのが1番だ。何故かチラリと私を見た烏養さんは一瞬なにか考えてから「高原」と私の名前を呼んだ。
「リベロだった頃にトスはあげてたか?」
「、!はい」
「助かる。ちょっと見本として入ってくれるか」
「わかりました」
後衛であるリベロのアタックラインを超えないであげるトス。確か西谷くんは今それを練習しているようだった。というのも初日に見事にうまくいかずにボールを通り過ぎて綺麗な着地をしていた。笑いそうになるのを必死に堪えた思い出だ。
リベロとしての自分はとても久しぶりだ。みんなに見られながらのプレーは緊張するけど、私はやるべきことをやろう。ポーン、とあえて乱れたレシーブが上がり、ボールの落下地点を瞬時にシミュレーション。私はコートを蹴った。
「おおっ!」
「うめぇな…」
「高原さん、やっぱ相当上手いプレイヤーだよな。トスの修正も早いし」
「これで現役じゃないんだから恐れ入るよ…」
バシッと気持ちよく打ってくれた東峰さんに「ナイスキー!」と笑えば彼も「ナイストス!」と朗らかに笑ってくれた。プレー中との印象が違いすぎる。
とにかく、烏養さんが見せたかった形は見せられたようでドンドン順番にボールをあげていく。その中でもやっぱり影山くんは飛び抜けてる。めっちゃくちゃ上手い。どれだけボールに触ってきたらあれだけ精密なトスがあげられるんだろう。私が教えられることなんてほとんどないのに、それでも「今のトスどうでしたか」とアドバイスまで求めてくるのだから彼の成長はまだまだ加速する一方なのだろう。
「いいね。オープンは問題無さそうだから、影山くんの場合は後衛であろうとも自由自在なトスをあげられるようになる練習がいいかもしれないね」
「ウス」
「あ、でも今みんなが練習してるシンクロ攻撃が形になってきてからだね。あがっても打てなきゃ意味ないし」
「スパイカーが打ちやすい以上に最高のトスは無い…」
「うん、そうだね。応えてもらう為に見つけよう」
「ウス」
実力は言うまでもなく彼の方が上なのに。それでも私の言葉ですら受け入れて力にしようとする姿に恐怖すら覚える。彼だけではなけれど。西谷くんだって相当レベルの高い選手なのに、積極的にアドバイスを求めにくる。
下手なプライドのないカラスは、とてつもなく強い。
20200430