東京合宿篇
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「すみませんが、私は高原先輩の代わりは出来ません」
第5話
夏休みまであと1週間となってしまった。夏休みまでにマネージャー探しをするつもりなんだけども、いかんせん帰宅部の子達だから候補の子を捕まえるのもやっとだ。何人か声をかけてみたけれど、どの子も緊張した面持ちで申し訳無さそうに頭を下げた。顔も赤くしていたからきっと体力面も自信がなかったのかもしれない。確かに、マネージャーと言えど涼しいところで活動できる訳じゃないし、ある程度の体力も必要だ。
4人目の子にも断られ、さすがに結構落ち込んできた。オッケーを貰うために一度見学してもらうのも手だけど、少しハードルが高いのか頷いてくれる子はいなかった。困ったなぁ。もう合宿までも時間がないのに。
「綾奈ちゃん、そういえばテスト期間はまだなの?バイト休んでいいのよ?」
「え?あーテストなら終わったよ。赤点も無かったし」
「え!?やだ!もう終わってたの!?そういうことはちゃんと言ってよ!全然いつも通りにシフト入ったでしょ綾奈ちゃんったら!ただでさえ短い青春を捧げてくれてるんだから…。それに私としては部活するのもいいと思ってるのよ?」
「…叔母さん、もしかして赤葦くんと話してたの聞いてた?」
「盗み聞きじゃないわよっ!聞こえたの!」
「失礼しちゃうわ」と頬を膨らませる叔母さん。可愛いけどそろそろ無理があるかもしれないぞ。絶対口にはしないけど。
多分叔母さんは私とお母さんがあまり顔を合わせる事がないから余計に気にかけてくれてるんだろう。それこそ娘みたいに。叔母さんのところは男の子だからなぁ。
うちのお母さんは私がしたいことを尊重してくれてるからこそ、バイトも認めてくれた。信頼、してくれてるんだと思う。多少中学の時よりかは過保護になったかなとは思うけど。怪我のこともあったから最近は毎日のように変わりないかとLINEが来る。私は逆にお母さんが心配なんだけどな。仕事中毒すぎるわ、あの人。
とまあ、家庭の事情は置いておいて、せめてテスト期間は休めという叔母さん。まぁ、本当は休ませてもらおうかと思ってはいたけど…。こう言ってはアレだけど、バイトがいい息抜きになってるんだよなぁ…。そう伝えても「友達と勉強するのも青春よ」と言われてしまっては言い返せない。結局、次からはテスト期間中はシフトはゴッソリ減らされることになった。休み前の金曜日と土曜日だけ出勤してもいいと妥協してくれたから言うことを聞いておこう。
「もちろん、綾奈ちゃんが手伝ってくれて凄く助かってるのよ?でも…無理させてるんじゃないかって心配なのよ」
「大丈夫だよ。叔母さんも、それにお母さんも私の自由にやらせてくれてるじゃん。充分だよ」
「…私、昨日あの男の子と話してる綾奈ちゃんを見て、本当に楽しそうに話すなぁって思った時があったの」
「うん?」
「それね、バレーの話をしてる時だったのよ」
「叔母さん…」
「やっていいのよ?それこそ、このバイトも楽しんでくれてるなら貴方が辛くない時に手伝ってくれればいいし」
心配そうにこちらの様子を伺う叔母さんの気持ちはとても嬉しい。そこまで気にかけてもらえるなんて幸せなことだ。それに、バレーの話をしてるときにいい顔してたとか…本当に?普通にちょっと恥ずかしい。
「来週から夏休みでしょ?もしお手伝いとかがあるなら行ってきなさい。バイトだけなんてもったいないわ」
「…でもお店だって忙しくなるじゃん」
「あら!そりゃ綾奈ちゃんが出勤してくれたら休憩のお茶タイムが長くとれるけど、それだけよ。そんな社畜みたいな考えは捨てなさい」
「しゃ、社畜…。うん…ちょっと考えてみる。ありがとう」
「それでいいのよっ」と叔母さんはニカリと笑った。本当にもう1人のお母さんのような存在だ。こんなにも私のことを気にかけてくれる。
しかし、今更というかやっぱりこれから女バレに入って青春を謳歌しようとは思えない。バレーは大好きだけど…なんかやっぱり違うなぁと思ってしまうのだ。
「…まぁでも、臨時でいいならお手伝いするのもいいなぁ」
あくまで私の考えだけど。
とりあえずギリギリまでマネージャー勧誘はしに行こう。そのうえで来週の合宿までに決まらなかったら、良ければ、と声をかけよう。あんなにキラキラと真っ直ぐに頑張る彼等の力になれるなら、それはきっと青春のように眩しい宝物になると思うから。
「お?今回は高原さんいないんだ?」
「元々臨時だったんだよ。部員じゃねーのにさすがに1週間の合宿を頼むのは気ィ引けるわ」
「お前にそんな感情あったのか」
「おやおや〜?失礼すぎますよ澤村く〜〜ん」
「日頃の行いじゃないですかね黒尾く〜〜ん」
「もー大地張り合うなって!」「おめーもだ黒尾!」という呆れた表情の菅原と夜久の声によって両校部長は口を噤んだ。張り合っている自覚はどうやらあるらしい。
夏休み。各々なんとか期末テストを乗り切り、欠けることなく、今回の合宿所である森然高校にやってきた。潔子達から特に綾奈がいないことの話などは聞いていなかったのであろう澤村の言葉に黒尾は、さすがにな、と眉を下げた。
2週間ぶりの再会を各々一通り楽しんだところで、1番最後に到着した烏野高校部員と共に、音駒高校部員達も暑い夏の一歩を踏み出した。
「…はーっあっつ…森然がまだ涼しいとはいえやっぱ夏だな…」
「しかも頭使ってる上にずっと試合だからな…」
「もう無理……」
「おーい研磨寝るなー!」
「お疲れ様です。はちみつレモン作ってきたので1切れでもいいから食べてくださいね」
「おーさんきゅー…、!?」
「ペナルティは坂道ダッシュですか…。これ結構キそうですねぇ」
「「いやなんでいる!?!?」」
「おわっ!びっくりした…」
試合で負けたペナルティである坂道ダッシュを終えて木陰で休んでいた音駒の面々。サラッと会話に入ってきた存在を思わず流してしまったが、そんなマネージャーのような発言をするものはいない。いないはずなのだ。
しかし、あれ?猫又監督から聞いてないですか?、と首を捻るのは確かに高原綾奈だった。
彼女の話によると、ギリギリまでマネージャーを勧誘したが誰にもいい返事をもらえず、その報告を監督にすれば今回の合宿のマネージャーを頼まれたと。そういうことらしかった。いやいや聞いてないですよ監督、という心の声は満場一致だった。教えなかったのは監督の悪戯心だろうか。猫又監督はそういう気がある。
「でもなんで遅かったんスか?朝はいなかったですよね!」
「あ、うん。足りない備品があるからその買い出しをしてから来てくれって言われてて。お店が開くの待ってたからこの時間になっちゃった」
「なるほどな。悪りぃな、買い出しまで」
「全然です。ゆっくり寝れちゃいました」
「アッこのやろ!」
「不可抗力です〜」
あはは、と笑うと部員のみんなも、今回もよろしく、と笑った。うん、お邪魔ではないようでよかった。こちらこそ、と手に持っていたはちみつレモンの入ったタッパーを差し出せば、我先にとバーゲンセール会場と化した。お疲れだから糖分を欲してるんだなぁ。レモンだし、熱中症対策にもなるだろう。
お前食いすぎだ!、なんてワイワイやってる彼等をみるとなんだかホッとした。暑いし疲れてるはずなのに元気だなぁ。研磨くんは1人うわぁ…と遠巻きに見てるけど。きっと海さんあたりが研磨くんの分も確保してくれるだろう。
さ、マネージャー勧誘では力になれなかったし、私に出来ることを最大限にやりましょうか。
きっとこれは、忘れられない夏になる。
20200428