東京合宿篇
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「えーなにあれー…」
「超みてる、こわーい…」
第4話
東京合宿も無事に終わって数日後。眠い目を擦りながら登校するとなにやら女子がヒソヒソと話をしていた。クラスメイトにどうしたのか聞けば、なんと別クラスの男子が各クラスを回って教室内の生徒をガン見する事案が発生しているらしい。特に何かしてくるわけではないらしいが、無視もできないぐらいのガン見具合なのだとか。それはちょっと怖い。
女子を見ているのは視線から分かるらしく、綾奈も気をつけなよ、と忠告してもらったところで予鈴。ありがとう、と告げて席についた。目立つのをわかっててするってことは何か気付いてほしいことがあるのかなぁ。もし見かけたら声をかけてみるのもアリかもしれない、と欠伸を一つ漏らし、睡眠効果のある教師の言葉に耳を傾けた。
「あ!綾奈、アレだよアレ。例の男子」
「え?あぁ…ガン見してくるってい、う…」
「バレー部の山本でしょ!?綾奈合宿の時大丈夫だった?」
「いや…あはは…うん、全然大丈夫だったけど…」
ちょっと行ってくるよ、と席を立つ。まさかの噂の張本人は山本くんだった。知り合いとなれば余計に声をかけない訳にはいかなくなった。福永くん、絶対知ってたでしょ教えてよ。この騒ぎを彼も気付いていないはずがなくて、そちらに視線をやるとパチリと合った上にグッと親指を立てられた。あとでパンチぐらいなら許されるな。
チョンチョン、と山本くんの肩を叩くと彼はビクーッ!とした後にすごい勢いで振り返った。その勢いに私までビクーッ!となってしまった。迫力。
「こ、こんにちは山本くん。えーっと…誰かに用事だった?」
「ウ、ウス!いや、なんつーか…ウチの部にも女子マネを入れようってなったんスけど、声かける前にビビられて…」
「あ、あー…なるほどね…。…大きい声では言えないけど、ちょっとした噂になってるよ」
「え!?そ、それってまさか…!俺がカッコイイとか、」
「怖いって意味だよ、おバカさん」
「うぐっ…!」
精神的にダメージを負ってしまった山本くんには申し訳ないがこれは事実なのだ。受け止めてもらおう。確かにさっきのあの形相で教室を見られるのはなんとも言えない恐怖があった。
まぁ、でも何故そういうことをしていたのかは分かったし、その内容は私もお手伝いしてもいいなと思っていたものだ。怪我をした時にあれだけ大事に、そして心配してくれた部員のみんなだし、新しいマネージャーもきっと大切にするはずだ。協力出来るならしたい。
落ち込む山本くんに、「私で良ければ手伝うよ」と笑えば神を見るかのように崇められた。そのせいで私まで注目を浴びてしまった。慌ててやめさせたけど、また前みたいに変な噂が立たないことを祈る。ほんとに。
「私は私でまだ部活入ってない子とかあたってみるね。学年は問わず?」
「アザッス!!女子マネってだけで嬉しいんで!それは関係ねぇ!」
「ハハッ、了解。合宿までに見つかるといいね」
「えっ?」
「ん?」
「そ、そうか高原さんは次の合宿いねぇのか。すげー馴染んでるから頭から抜けてた」
あー!それは辛ェ!、と頭を抱えた山本くんに圧倒されたけど、私を頼りにしてくれてたのは嬉しいことだ。ありがとう、と笑うとどこか複雑そうな表情を浮かべながら彼は「いや…」と口籠もった。ハッキリとした彼にはしては珍しい。気になるけど特に言い出しそうにもなかったので、またね、と言って教室に入った。
どうだった?、という視線でこちらを見てくる福永くんの肩をちゃんとペシッと叩いておきました。
「んー…それにしても音駒って結構部活入ってる人多いんだなぁ」
猫又監督に事情を話して部活無所属の生徒のリストを貰った。それはプリントたった1枚におさまるぐらいしかいなく、しかも男女混ざってるから山本くんの望む女子マネを求めるならもっと確率は低くなる。
とはいえ幽霊部員とかもいるだろうし、そういう人に頼むのアリか。いやでもマネージャーといってもバレー部はスパルタだからなぁ。途中で幽霊部員になられても困るし。果たしてそんなことにならないやる気のある生徒なんて未だにいるのだろうか。3年生を勧誘するのは気がひけるし、やっぱり1.2年かなぁ…。
リストをもらって思わず考え込んでしまった私を監督はジッと見ていたようで、ハッと気付いてお礼を言う。
「す、すみません。リストありがとうございました」
「構わねぇよ。しかし高原。新しいマネージャーを見つけてきてくれても俺は長続きするとは思えんな」
「え?あ、やっぱりこの時期の入部だからですか?確かにやる気があればもっと早くに入部しますもんね…」
「まぁそれもあるが、前任が相当な敏腕だからな。後任には荷が重てぇんじゃねぇかな」
「前にはマネージャーいたんですね。それは残念です…。あ、もし新しい人見つけたら最初の数日ぐらいは私が仕事教えましょうか。みんな練習したいでしょうし」
「それはありがてぇな。…ま、それでも変わらんだろうがよろしくな、マネージャー」
「その言い方は語弊がありますよ監督…」
私はマネージャーじゃないです、と苦笑してもう一度お礼を言って職員室をあとにした。監督の言ってた、人を見つけても辞めちゃうってどういう意味だろう。マネージャーの掟とかしきたりとかがあるのかな。
なんにせよ、明日から私も色々回って声をかけてみよう。…山本くんは見るだけで逃げられて声もかけれてない様子だったしね…。
大変だろうけど、たくさん心配してもらって守ってくれた彼等に恩返し出来るなら。
そう意気込んでリストを大事に鞄にしまった。
「お、赤葦くん。いらっしゃいませ」
「こんばんは。まだ大丈夫?」
「うん、全然ラストオーダーまで時間あるから。ゆっくりしていってください」
放課後。今日はバイトだったので、カフェスペースの方で疎らになってきたお客さんを眺めながら洗い物をしていると来客のベル。それに反応して顔を上げればそこには見知った人、赤葦くんがいた。閉店時間を気にしてくれたが、まだ18時だしラストオーダーまでは時間はある。梟谷は早くに部活が終わったのだろうか。
いつものカウンターの席に腰を落ち着けた彼は珈琲を注文し、いつものように文庫本を出す…かと思ったら今日は違った。パチリと合った視線にどうしたのかと首を傾げれば「いま話しかけていい?」と口を開いた。
「勿論。どうしたの?」
「いや…高原さん、音駒のマネージャーやらないのかなって思って」
「おぉ…唐突だね。まぁ、知っての通りバイトしてるからね。なんでそんなことを?」
「木兎さんに次の合宿に高原さんは多分いないって話をしたらめっちゃ絡まれてさ…。この際ハッキリと理由聞いて、木兎さんに説明しようと思って」
「あー…なんかごめん。雪絵ちゃん達に説明してもらおうって魂胆は確かにあった」
でもそうやって寂しがってくれるのは嬉しいなぁ、と笑うと赤葦くんも呆れたように笑みを浮かべた。一口珈琲を口にした彼は小さく「美味しい」と呟いた。やっぱり私はこの空間が好きだなぁ。マネージャーが嫌という訳ではなく、純粋にここで働くのが楽しい。兼業してどちらかが疎かになるぐらいなら私はどちらかだけを選んでいたいというだけだ。
「でももし高原さんが梟谷だったら絶対マネージャーお願いしてた」
「ええっ?かおりちゃんや雪絵ちゃんという美人マネージャーを持ちながら…」
「あの人達ももちろん頼れるけどね。高原さんも色々考えて行動してくれるでしょ。そういうのを側で見ていたいだけだよ」
「ふーん…?まぁ、雪絵ちゃん達とは学年も違うしね。後釜としてはお役に立てたかもだね」
「それに俺、高原さんと一緒にいるの結構好きだしね」
「…赤葦くんモテるでしょ」
「モテないよ。誰にでもこういうこという訳じゃないし」
「…うーん、イケメン怖…」
立っている私をニヤリと笑いながら見上げる彼の意地悪な顔よ…。からかわれてはなるまい、と表情を引き締めた。のに「耳赤いよ」と指摘されてしまい、私は赤葦くんに敵わないということが判明致しました。本当にありがとうございました。
でも、こうやってカフェでやり取りするのは楽しくて、この時間を失いたくないなとも思った。
20181003
