東京合宿篇
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「あ…なんかフラフラするかも」
第3話
もしかして熱中症か?、と思い至ったのは2日目の午前中。初夏とはいえ、熱気がこもった体育館は暑い。水分補給を気にしているつもりだったけど、立て続けの主審やマネージャー業でちょっと疎かになっていた。しかも手元のペットボトルは空だ。次の試合まで少しだけ時間があるな、と考えて少しフラつく足取りで飲み物を調達にいくことにした。ほかのマネージャーさんがどうかは分からないけど、私は一応個人的に自前のペットボトルに作ったドリンクをいれさせてもらってるのだ。買おうかと思っていたらそこは監督に釘を刺されたのだ。部費払ってないのにいいのかなぁ。まぁ、でも最悪生死に関わる事だしここはお言葉に甘えておこう。しかし、フラついてるのもあって思いのほか冷水機が遠い。おまけに頭痛もしてきたしこれはいよいよまずいのでは。とりあえず近くのベンチに横になってみると呼吸が楽になった。少し寝落ちしてしまいそうで心配だ。
「え!ど、どした!?気分悪いの!?」
「あ…どうも…。すみません、ちょっと暑さにやられただけなんで少し休憩したら大丈夫です」
「…水は?ある?」
「それを取りに行く途中で…」
「じゃあこれ飲んで。まだ口つけてないから」
「いやでも…」
「ほら、いいから。無理は禁物だべ」
すみません、と断り差し出してくれたドリンクを口にいれると冷たいものが体を通って行くのが分かった。思ってるより火照っていたらしい。心配してくれた彼…烏野の3年生のセッターさんは「これしかできないけど」と言ってタオルでバサバサと扇いでくれた。…うわぁ、意外と涼しい…。
しばらく目を閉じて厚意に甘えてさせてもらっていると段々体温が下がってきたからか意識もハッキリしてきた。頭痛も治ったような気がする。そこでムクリと起き上がれば尚も心配してくれる彼にお礼を言う。
「ありがとうございました。おかげでかなり楽になりました」
「本当?ならよかった。一応もう少し水分取っときな」
「はい、すみません」
「全然いいよ。俺、烏野の菅原孝支。高原さんだったよな?」
「高原綾奈です」
「よろしくな。体育館戻ろうと思ったらぐったりしててマジ焦ったわ~!うん!顔色もだいぶ良くなったな!」
そろそろ練習始まるけどいける?、と気遣ってくれる菅原さんに頷いてゆっくり立ち上がる。フラつきもないし大丈夫そうだ。並んで体育館への道を歩きながら話していると菅原さんはとても優しくて、でも剽軽な一面もあって楽しい人だった。田中くんや西谷くんの私への態度に困ってると話すと「田中の頭ジョリジョリしとく!」と言ってくれたのでお願いしようと思う。
「おースガ。お前も向かってたのか。…お?音駒のマネージャーさんかぁ」
「おう旭。お前が近寄ると怖がるから後ろからついてこいよー」
「ヒドッ!」
「フフッ、大丈夫ですよ。初めまして高原綾奈です」
「あっどうもご丁寧に…東峰旭です。よろしく」
「お見合いかっ!!」
お前が高原さんとお見合いなんて100年早いー!、と東峰さんの横っ腹にチョップを繰り出す菅原さん強者すぎる。その仲の良さに、今更ながら烏野の3年生は全員春高まで残ることに決めたんだなと思った。潔子ちゃんもきっと、ここが居心地いいんだろうな。
そして午前練が終わり、お昼休憩。やっぱりみんな疲れが見え始めたな、という感想だ。でもきっと公式戦はこの倍は辛い。体力面だけではなく、負けられないという精神面も左右してくる。ここが踏ん張りどきだ、と昼食を手に取り空いてる席に腰を下ろす。私にここいいですか?、なんて誰かに声をかける勇気はないのだ。
「お!高原さんここ空いてる?」
「…菅原さんすごい…」
は?、とポカンとした菅原さんに、どうぞ座ってください、と苦笑して椅子を引いてあげる。後ろには東峰さん。するとそこに夜久さんと海さんもやってきて、席は一気に賑やかになった。菅原さんと夜久さんは何か通じるものがあるのか、お互いに後輩たちの話で盛り上がっていた。気のせいか、平日の昼下がりのママ友会に見えた。
「高原さん、あれから大丈夫だった?」
「あ"っ」
「ん?なんだ?なんかあったのか?」
「午前に軽い熱中症になっててさ。結構しんどそうだったんだけど、その時は回復したんだ」
「…高原さん、俺たちは聞いてないぞ」
「怖いですよ海さん…」
ニコリ。そう微笑む海さんには逆らえない。大人しく観念し、すみません、と謝る。私は前の合宿の怪我のこともあるから余計に二人は心配してくれてるのだ。でも今回は無茶した訳ではなく、きちんと休んでいたということが菅原さんの証言で明らかになっているので、午後も気をつけろよ、という心遣いだけで済んだ。夜久さんは「また健康記録1からだからな!」と念を押された。正直今まで忘れてたなんて口が裂けてもいえない。
「…なんか高原さんってしっかりしてるように見えるけど、音駒のメンバーの前では肩の力が抜けてる感じなんだね」
「そ、んなつもりはないんですけど…みんなが強引に優しいからですかね」
「強引に優しい」
「新しい熟語」
とにかく女の子なんだから無茶せずに俺たちにいうんだよ、と微笑む海さんに惚れそうになった。
午後も始まり、何試合かの主審を終えてふと気付いたことがある。日向くんが試合に出ていないのだ。体調でも崩したのかなとも思ったけどベンチで声を上げる姿は元気そのものにみえる。とはいえ、私は日向くんとは話したことがないので体調が悪い訳じゃないなら烏野の問題なんだろうし、とスルーすることにした。
そしてこの合宿最後の試合。セットポイントで生川の強羅さんのサーブがめちゃくちゃ強烈で、ノータッチエース。生川対森然の試合は生川の勝利で幕を下ろした。それぞれ荷物をまとめて各校の主将が集合をかける。たくさんの人と知り合えたので終わってしまうのが寂しい。
「綾奈ちゃんお疲れ~。次はまた2週間後だね~」
「その時もよろしく!」
「あ、あ~…私、正式なマネージャーじゃないので2週間後の合宿には来ないんですよね」
「え!そうなの!?今日限り!?」
「ま、まぁ…。普段はバイトとかしてるので」
「え~…寂しいなぁ…」
別れの時、マネージャーの皆さんが声をかけてくれる中、そう告げるとめちゃくちゃ居たたまれなくなった。しょんぼりとして「じゃあ連絡先は交換しようよ。同じ東京なんだし」と空気を変えてくれたかおりちゃんナイスです。烏野は宮城だけどちゃっかり仁花ちゃんとも交換しました。「ふぉお…!」と連絡先が入った自身の携帯を掲げて感激してくれる姿はとても可愛い。「大会とか練習試合とか近い時は遊びにきてよ~」と毎度のごとくゆる~い雪絵ちゃんに笑顔で頷いて「またね」と手を振った。あっという間の1泊2日だった。今回は軽い熱中症にはなれど、平和に終わってよかった。
「お!ネコマネもまたなー!ウェーイ!」
「フフッ。お元気で、木兎さん。ウェーイ」
「ノらなくていいよ高原さん」
声をかけてくれた木兎さんには悪いが私が次の合宿にいないことは省いた。きっと雪絵ちゃんかおりちゃんから聞くだろう。「赤葦くんも、またね」と声をかければ「落ち着いたら行くよ」とお返事。今回ここで会ったことで前よりも彼と打ち解けられたような気がする。私としてはもう友人と呼んでもいいレベルなのではないかと思う。
ゾロゾロと去って行くみんなの背中を見送り、私も荷物を肩にかけて、真っ赤な背中を追いかけた。
意外と一番気の知れている福永くんの隣に並べば、スッと手のひらを掲げられた、ので、パチンとハイタッチ。お疲れ様ということだろう。テストも終わったし、あとは夏休みを待つだけだ。今年の夏もバイトに勤しむか家でゴロゴロするかの2択だな。友達はみんな部活してるし。そう思うとあまりにも夏休みの楽しみがないな、と、落ち込んだけど、部活漬けだという福永くんもそう変わらない状況だしいいか、と少し気持ちが楽になった。
20180820
