東京合宿篇
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「綾奈ちゃんってなんか…ほっとけないよね~~」
第2話
ほっとけない、その台詞を貴方が言うのかと私は思わずのんびりとした雰囲気を醸し出す白福さんに目をやった。私なんかよりもよっぽどほっとけないし、そのうえ可愛いんですけど。
ほかのマネージャーは主審をしたりする人がいないからどうしても私との仕事内容は変わってくる。私の手が届かないことも彼女たちがフォローしていてくれたりするのだ。例えば食事の用意とか。試合中に主審が抜けられるはずもなく、どうしても試合後に食堂に向かうことになる。出来るだけ早く、バタバタと走って向かえば迎え入れてくれたキラキラした美女集団。うっわ、いい匂いする。これはご飯の匂いだけではない。
「すみません、遅くなって」
「気にしないで~こんだけ人数いるしね~~」
「主審お疲れ様ー。高原さんめっちゃかっこよかったわ」
「いやいや…何かまだ出来ることありますか?」
「昼はビュッフェ形式で部員に取りに来てもらうんで大丈夫ですよ!夜はよそったりしたりはあるかもですけど!」
「そうなんですか、すみません。夜は必ず何かやりますね。ありがとうございます」
「高原さん硬いな~」
烏野の二人は今備品置き場に割り箸を取りに行ってくれているらしく不在。梟谷に森然、そして生川のマネージャーさん4人は一息ついたのか椅子に腰を下ろしていた。特にすることがないとはいえ、何もしていない自分が座るのは気が引けて立ったままでいると森然の大滝さんに「ほらほら、お疲れなんだから座って」と肩を押されて座ってしまった。申し訳ない気持ちだらけなのに目の前の彼女たちはニコニコと、それはもう可愛い笑みを浮かべておりまして。男子の皆さん、すみませんって感じです。
そのうち、部員もゾロゾロと集まりだしたので一応形だけはビュッフェの前に待機する。食べる分だけ取るように説明して、マネージャー陣もそれぞれ昼食を取るべく適当に席についたようだった。私はどうしようかな、とぼんやりと突っ立っていると、これまたぼんやりとした研磨くんがやってきたのでお誘いをしてみた。すると「うん、いいけど」と了承をもらえたので適当に席に座る。
「研磨くん、お疲れ。どうだった?午前は」
「お疲れ。…んーみんな調子も良さそうだし特には。それより疲れた…。なんで永遠に試合なの…」
「ハハ…。研磨くんは頭も使う分、相当消耗するだろうね。休めるうちにゆっくり休んでね。何かあったら言って」
「うん、ありがと」
ノロノロと食事を進める研磨くんに、あまり話しかけるのも申し訳ないので私も黙々と食べ進める。周りはまだ元気が有り余った人が多いのか賑やかで、私たちのところだけ切り取られたように静かなのがなんだか可笑しくて、そしてどこか安心した。
午後も始まり、またひたすらに試合をこなして行く。負けたチームはフライングをコート1周するのだけども、私の見間違いでなければ烏野は毎回やってる気がする。日向くんや影山くんがいないという環境だからなんだろうか。とはいえ控え選手の向上を図るにはいい機会だろうとは思う。でも早く二人のあの速攻を見たいな、なんて思ってしまうのは私の我儘だ。
「おっ!まだやってんじゃ~ん!上出来!」
「?」
丁度試合が終わったところで開けられた扉にたくさんの目がそちらに向く。そこに居たのは金髪美女で、どこかの関係者の方かな、と見守っているとその後ろから汗だくになった烏野の1年生の二人が。どうやらきちんと補修を終わらせてきたらしい。これはこれからの試合が変わっていきそうだ、と内心ほくそ笑んだ。
早速着替えに行った彼等を見送ったあの女性が一人になったので声をかける。聞けば田中くんのお姉さんなのだとか。確かに似てる。宮城からわざわざ来たのにとんぼ帰りはないだろうし、それは烏野の監督さん達が良しとしないだろう。
「良かったら椅子出すので見学していってください。ただ暑いので全然涼しいところにいてもらっても大丈夫です。そこの扉出て左の突き当たりの食堂はいつでも入れますので。今夜のお部屋の話とか私聞いて来ますね」
「わざわざあんがとねー!頼むわ!」
「いえ!私もあの二人のプレー見たかったので連れてきてくださって嬉しいです」
「へーそんなすごいんだ?あ、名前は?アタシ冴子ってーの」
「高原綾奈です。よろしくお願いします」
「アーン硬い硬い!!冴子さんって呼んでみな!」
「!!、さ、冴子さん!」
ウシッ!、とニカリと笑った冴子さんのなんとかっこいいことか。めちゃくちゃ付いていきたくなる。
監督室で休憩されていた武田監督の元へ冴子さんが来られたことを伝えに行けば、一応連れてきてもらうという程で話を進めていたらしく、彼女の部屋も手配しているとのこと。武田監督もあの二人の到着を待ちわびていたようでソワソワしながら体育館へ向かった。私もその後を追って体育館へ戻り、冴子さんにワシャワシャと頭を犬のように撫でられて感謝され、長旅の運転で疲れたから部屋で休んでいるという冴子さんを見送った。
「、スミマセン」
「こちらこそ。大丈夫でした…あ、影山くん」
「…?」
午後もすべて終わり、夕食も取り終えて各々自由な時間となったので私も一人なにか飲もうと廊下を歩いていると、曲がり角で誰かとぶつかりそうになった。相手が反射神経が良かったからか打つからずに済んだ。一応大丈夫かと声を掛ける為に視線を上にあげれば一方的に知っている影山くんの姿。向こうは私のことはどこかで見たことある、ぐらいの認識のようで首を傾げていたので自己紹介をすれば合点がいったのか、ウス、と短く挨拶をしてくれた。せっかくのチャンスだし少し話したいな、と「飲み物奢るからちょっとナンパしていい?」と聞けばめちゃくちゃ動揺されて思わず笑ってしまった。
「ハハッ!ごめんね。影山くんと話してみたいなーって思ってたんだ。急いでないならちょっとだけ話せないかな」
「あぁ…大丈夫ッス」
なに飲む?、と聞けばぐんぐんヨーグルというパックジュースを選んだ彼に、まだ身長欲しいのか、とちょっとびっくりした。充分高いのに、身長。
いつからバレーしてるの?とか、目指してる選手っているの?とか。本当に他愛のない話だけど、律儀にちゃんと答えてくれる影山くんが素直で可愛いなと思った。どんどん出てくる質問を嫌な顔せずに答えてくれていた影山くんは私の質問が途切れたところで「高原さんは、」と口を開いた。
「なに?」
「音駒のトスアップしたりしてましたけど、経験者なんですよね。どこのポジションだったんですか。やっぱりセッターっすか」
「あーうん、そうだよ。最終的には」
「最終的にってことは転向したんスか」
「うん。元々はリベロだよ。歴でいうとリベロのが長いかな」
「なんで転向したんスか?」
「ん?んー…流れだね。でもちゃんとセッターで良かったって思ってるよ。司令塔って大変だけどかっこいいもんね」
バレーのことに関してだからだろうか。結構グイグイ質問してくる影山くんに気圧されながら答える。そして私の言葉に目をキラキラさせてウズウズしている彼は本当にバレー馬鹿でセッター馬鹿だ。そりゃセッター魂って書かれたTシャツ着てくるわな。彼は気難しそうに見えて意外と可愛い人なんだろう。
「高原さんのセットアップも見てみたいっス」
「んー難しいだろうなぁ。私は選手じゃないし、試合となると男子のネットの高さじゃブロックも出来ないし。簡単なゲームなら気にならないかもだけど」
「あのっ!…じゃあまたやってくれませんか」
そこまでいってくれる彼に驚いたけど素直に嬉しい。「うん、じゃあ機会があればやろう」と返して、ふと時計を見上げる。もうボチボチ部屋に戻った方がいいだろう。手に持っていたジュースは既に空だ。きっと影山くんもそうだろう。私が立ち上がると彼もそれに習って立ち上がる。やっぱり改めて隣に立つと背高いなぁ。
「それじゃ相手してくれてありがとう。ゆっくり休んでね」
「ウッス」
ぺこりとその丸い頭を下げて、彼は部屋に戻っていった。私も戻ろう、と踵を返す。きっとマネージャー部屋は賑やかだろうな。サッと荷物だけ取って先にお風呂に入りに行こう。女の子が集まって賑やかでないことはないのだ。話が盛り上がる前に済ませることを済ましてしまおう。男子まみれのこの合宿で、私は意外とマネージャー同士で集まれるのを楽しみにしていたらしい。
「綾奈ちゃんって~赤葦とどういう関係なの~?」
「え、なんですか急に…」
「だってウチらとは初対面だったのに赤葦とは仲良さげだったじゃ~ん」
「…あぁ、そういう風に見えたんですか。私のバイト先の常連に赤葦くんがいるだけですよ。何の色気もないです」
「え~本当かな~?」とニヤニヤする白…、じゃなくて雪絵ちゃん。私がみんなを名字で呼ぶ事を禁止されたのだ。呼び捨てでいいとは言われたがさすがに先輩だし、ちゃん付けで妥協してもらった。同性の先輩をちゃん付けで呼ぶのってなんだか高校生ならではな感じがするのは私だけだろうか。
そして女子が集まれば話すのは自然と恋バナになって行くもので。お風呂とか全部済ませといてよかったと過去の自分を褒めた。
「赤葦って木兎があんなんなのもあってすごいしっかりしてるからさ、同学年の綾奈ちゃんと話してるのすごく新鮮だったわ」
「木兎うるさいもんね~」
「あはは。私はああいう裏表のない人って結構好きですけどね」
人間として、という意味なのだが言い方を間違えた。「え!まさかの木兎推し!?」と梟谷の二人は食いついてしまった。木兎に言ったら絶対調子乗るわ~、とまで言われてる木兎さん、なんかごめんなさい。
ウチはウチは!?と聞いてくる生川の絵里ちゃんと、森然の真子ちゃんには申し訳ないがあんまりその学校の人とは話してない。挨拶はもちろん試合前にはしたけど。じゃあ烏野は?、と聞かれ考えてみるもそんなに誰かと関わった記憶がない。強いて言えばさっきの影山くんか。
「西谷と田中がすごくうるさかったよ。綾奈ちゃん大人気って感じ」
「う、後ろに炎が見えましたよねっ…!」
「あー…なんかあの二人は私を何故か美化してるんですよね。明日もあんな感じたったら手が出るかも」
「それもご褒美として受け取るだろうな、あの二人なら」
クスクスと笑う潔子ちゃんの美しさ以上のご褒美なんてありません。
まあ、でも私は同学年なら特に仲良くなりたいからああいう感じはちょっと…なんかさみしいなぁとは思う。敬語はなんとか外してもらえそうだったけど。
そろそろ私の話題は辛くなってきたので「烏野といえば」と話を振る。遅れてきた1年生二人について話せば同学年である仁花ちゃんに矛先がいく。ごめん、仁花ちゃん。あわあわしてる彼女が可愛くてついイジリたくなってしまうのは、ここにいる全員一致の考えのようで消灯時間がくるまでその話題で盛り上がった。とはいえ、明日も練習。本来なら寝ろと注意しにくる先生方は冴子さんを加え、飲みに出かけてるらしいから来ないけども、ハメを外すわけにはいかない。それもまたみんな同じ考えのようで、程々にして眠りについた。
20180820
