東京合宿篇
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「今回もまた臨時になりますが、よろしくお願いします」
第1話
猫又監督にお誘いを受けた日の週末。都内で行われる合同合宿でまたもや私は臨時でマネージャーを担う運びとなった。今回は土日を使った合宿で、各校にもマネージャーがいるのだとか。その中で音駒にいないというのは由々しき事態だと山本くんがボヤいていた。今回もよろしくね、と声をかけると「女神っ…!」と拝まれてしまったのでそろそろ手が出そうである。
「今回はこれまで何度も一緒に合宿やってる学校だし、心配ないとは思うが前回のこともあるからな。何かあったらすぐ言えよ」
「はい、今回はあんなヘマしません」
「綾奈チャンつよ~い!」
「私って結構パワーもあるんですが体感してみません?」
無言で距離を取った黒尾さんにニコリと笑いかけて拳をおさめる。うーん、残念。こうやって茶化してくるのも彼の優しさだと分かる。私が気負いすぎないようにの配慮なんじゃないかなと勝手に解釈してる。この人、結構頭キレるし。
着いた学校で各自荷物を置いて着替えるとすぐにアップだ。今回は灰羽くんもこの合宿に参加していて、1年生の彼は合宿というもの自体初めてらしくめちゃくちゃ嬉しそうにキョロキョロしている。のを、夜久さんに叱られてた。お母さんは男の子には厳しいな。
私もさっさと着替えてドリンクなんかの準備をする。今日から普通の練習のサポートもするつもりなので現役時代の練習着だ。その姿でウロウロしているからか結構視線が痛い。別に女バレが間違えてきた訳じゃないですよ~、なんて内心思いながら作業しているとなんとか大体の準備は整った。ドリンクを抱えて体育館へ戻ると、黒尾さんが「丁度よかった」と声を掛けてきたのでなにかと思えば烏野が到着したから迎えに行くぞと。烏野も今回参加だったのを知らなかった私はまた清水さんに会えるのに浮かれて黒尾さんの後に続いた。
「綾奈ちゃん久しぶり。紹介するね。1年のマネージャーの谷地仁花ちゃん。で、こちらが音駒の2年生の高原綾奈ちゃん」
「1年生のマネージャーいたんですね。はじめまして。臨時なんですけど、よろしくね」
「ファ…!ッシャス!!」
あああ暗殺…!?、と何故か不穏な言葉を発した彼女は谷地仁花ちゃんというらしい。小柄でなんとも可愛いらしい。清水さんと並ぶとキレイ系と可愛い系でそれはもうとても映える。写真に収めたい。話を聞けば彼女は本当に数日前に入部したばかりなのだとか。まだ慣れない環境の中でのいきなりの合宿はハードルが高いだろう。さっきからすごくソワソワしてるし、人見知りの気もあるのかもしれない。ちょっと注意しておいてあげよう、と思い、2人に簡単に体育館の場所や用具のことの説明をしてその場で別れた。再会は嬉しいけど私も一応主将さんに挨拶しておかないと。
烏野メンバーがいる方にやってくるとそれはもう賑やかで。鉄塔をスカイツリーかと聞いてくる田中くんに応える海さんとのやり取りは笑いを堪えるのは不可能だった。宮城にも鉄塔あるでしょーよ。
主将である澤村さんは黒尾さんと話していたので自然とそちらへ。「お久しぶりです」と声をかけると「おう、今回もよろしく」と前回より砕けた感じで返してくれた。黒尾さんと腹黒いやり取りもしていないようだし、男子のそういう"一度試合したら友達"みたいなところめちゃくちゃ羨ましい。
「なんか人数足らなくねーか」、という黒尾さんの言葉に、そういえば、と辺りを見回す。あのとんでもない速攻を使ってくる10番…日向くんと1年生セッターの影山くんの姿がない。
「ほんとだ。体調不良とかですか?」
「あのバカに間違ってもそれはない。補習だよ。テストで赤点取っちゃってなぁ…」
「あら…それは残念ですね。あの速攻もう一度見たかったなぁ」
「うーん…うまくいけば遅れて来れるとは思うんだけど…なんとも言えないんだよね」
「…主将、お疲れ様です」
遠い目をしながらお礼を言う澤村さんはベテランの苦労人の顔だった。
「高原、トスアップはその辺にしてリエーフと対人パスしてくれるか。しごいてやってくれ」
「あは…了解です」
しばらくトスアップしながらみんなの今日の調子を見ていると猫又監督からの声。「まだスパイク打ちたいっスよー!」とゴネる灰羽くんに夜久さんが回し蹴りをかましたところで研磨くんに声をかける。私が感じた今日の選手の調子を彼に伝える為だ。
「全体的には悪くなさそうだね。特に灰羽くんは調子というかテンションも相まって結構要求してきそうかな」
「…リエーフは急に叫んできて驚くからヤダ」
「そう言わずに頑張。前の合宿に彼がいなかったとは思えないぐらい研磨くんと合わせられてると思うけど。練習したんでしょ?」
「練習っていうかつきまとわれた」
「フフッなんか大きいワンちゃんみたいだよね灰羽くんって」
なんにせよ研磨くんなら大丈夫だよ、と声をかけるとあからさまに嫌な表情を浮かべた彼は結構正直ものだ。
それからほかの部員のこともサラッと伝えて、「綾奈さーん!」と私を待つ灰羽くんの元へ向かった。
「う、うーん…灰羽くんはレシーブ嫌い?」
「嫌いっていうか難しいッス!手に当ててんのにどっか行っちゃうし!なんでみんなあんな上手に出来るんですか!夜久さんはすぐ殴ってくるし!拾えなくてもその分、点取ればいいじゃないっスか!」
「そうだなぁ…、レシーブだけで言うなら音駒は全員がかなりレベルが高いよ。バレーボールというものを知っているプレーだと思う」
「?」
「確かにスパイクは点を取る為に必要なことだよ。でもバレーってスパイクを打ったチームが勝つ訳じゃないんだよね」
「え?じゃあどうやって勝つんスか?」
対人パスを始めたものの、彼の技術はお世辞にも上手いとは言えなかった。 彼のこの身長だ。そりゃその身長だけで武器になるし、スパイクだって恐ろしい程の打点から打ち下ろされる。あの高さのブロックが目の前に来られると相手のスパイカーはめちゃくちゃ嫌だろうし。
私の言葉に終始首をかしげる彼はこのチームがどうして強いのかをきっとまだ体感していないのだろう。
「バレーはね、ボールを落とさなければ負けない」
「…?当たり前じゃないっスか!!どうしたんですか綾奈さん!」
「高原さんの言うことが本当に分かってんならサッサとそのクソレシーブどうにかしろリエーフ!!!」
「ヒィ!夜久さん!!!」
お母さんのスパルタ教育に負けず、頑張れ灰羽くん。
「それじゃドリンクとかスコアとか、悪いけどよろしくね」
「ハイ!高原先輩も主審頑張ってくださいっス!」
「気をつけてくださいね、先輩!」
「フフッ大丈夫だよ。ありがとう二人とも」
そろそろゲームをしていくとのことなので、私も音駒からの主審として別のコートに向かなければならない。けど試合時間はもちろん同時に終わるなんて不可能なので、今日はベンチスタートの犬岡くんと芝山くんにドリンクとスコア付けを頼む。前回のこともあったから大層心配してくれる二人がとても癒しだ。
まず担当するのは烏野対梟谷の試合。梟谷といえば、とそちらのベンチに視線をやればパチリと合った視線。丁度彼も私を見つけたところだったらしい。主審としてやってきた私に彼が驚いているのがわかった。まだもう少しだけ時間があるので監督さんに挨拶がてら梟谷ベンチへ向かう。視線を受けながら監督さんにコーチ、そしてマネージャーの方々に挨拶をしてくるりと振り向く。
「や。赤葦くん。今日は珈琲は出せないけどよろしく」
「どうも。というか主審できるぐらいの経験者だったんだね」
「中学でやってたからね。赤葦くんのバレー楽しみにしてる」
「ヘイヘイヘーイ!赤葦、誰それ!?」
「…木兎さん失礼ですよ」
めちゃくちゃハイテンションでやってきた彼にびくりと肩が跳ねた。私に「ごめん」と謝ってからボクトさんに私を紹介する赤葦くんは出来すぎ君すぎ。多分このボクトさんが赤葦くんの悩みの種だろう。なんか聞かなくても分かる。
よろしくお願いします、と言うと「よろしくぅー!」とハイタッチを要求する木兎光太郎さん。それに私も「ウェーイ」と返して、内心「あのテンションついていけるんだ」と思っている赤葦くんにまたゆっくり話そうね、と声をかけて烏野ベンチに向かう事にした。既に烏野ベンチに向かっている私の背後から「じゃ主審よろしくなー!」と声を上げる木兎さんはめちゃくちゃ無邪気で裏表が無さそうで好感度高い。
「おう、今回もよろしくな。高原だったか」
「僕はまだ勉強不足で主審が出来ないので高原さんにご迷惑をかけてしまって申し訳ない。よろしくお願いします」
「そんな。出来ることは出来る人がやればいいんですから。こちらこそ、よろしくお願いします」
「なーんかしっかりしてんなぁ。ウチの2年にもそうなってもらいたいもんだ」
「あはは…田中くんに西谷くんは特に元気ですからねぇ」
烏野ベンチに向かえば二人も気付いてお互いに会釈。烏野のコーチは見た目によらず優しいし礼儀正しいな、なんて失礼なことを思いながら他愛の無い話。監督である武田先生はこう…わしゃわしゃしたくなる人。年上の方にこういうのも何だが癒しだ。なんだこの合宿癒し系ばっかりじゃんか、と喜んでいると武田監督から出た田中くんと西谷くんの名前。あ、と思いそちらをむけば元気ハツラツと言った感じでチームメイトと会話をする姿。これがチャンスってやつか。
「あの、田中くん西谷くん」
「!?!?ね、音駒の…!!」
「久しぶりっス!どしたんスか!」
「お、お久しぶり…。先日は山本くん経由でのお礼になっちゃったから改めて言おうと思って」
「そんなんいいんスよ!思った事言っただけなんで!」
「うん、それでもそれが嬉しかったから。ありがとう、西谷くん。田中くんも。わざわざ連絡とってくれてありがとう」
「「!!!」」
ズギャーン!、という効果音が見えそうな二人の姿に山本くんが被って、類は友を呼ぶってこういうことなんだなとしみじみ思った。敬語もいらないんだけどな、と苦笑すれば西谷くんからは元気なお返事。田中くんは少し戸惑いながらも返事をしてくれた。うーん、人見知り具合は山本くんの勝ちだな。
そろそろ始める頃合いになったきたので、頑張れ、と声をかけて主審台へ。
さぁ、合宿の始まりだ。
20180820