GW遠征合宿篇
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「あー…これマジかぁ」
第11話
合宿から一夜明けて翌日は通常登校。のはずだが、やっぱり肩は気になるので病院に行ってから登校すれば知り合いにとても驚かれる。同じクラスである福永くんも驚いた様子で私を気遣ってくれた。
「ちょっと大袈裟なだけだよ。心配してくれてありがとう」
そう伝えても複雑な表情をする彼に癒されながら席に着く。ここまで心配されるのは見た目的に仕方ない。私は嫌だと先生にも伝えたが聞き入れてもらえず、首から布で肩を吊っている状態なのだ。ぱっと見では骨折してるようにすら見える。だが骨折はしていない。あくまで脱臼だ。合宿所の医務室の先生に位置は戻してもらっていたのだけど、今日診察してもらった際に癖になるから数週間は固定しているように指示されたのだ。不便極まりない。一応、ほかの背中とかの打撲も診てもらったがそちらは異常無しとのことでホッとした。
昼休みにはバレー部総出で様子を見にきてくれた。多分、福永くんが連絡したんだと思う。長身の男子の軍団に囲まれるのは意外にも肩身が狭くて、友達が待っているからと足早に食堂に向かった。嬉しくない訳ではないけど気まずさはある。GWが明けたらこんな状態になってる私を見た親友はバレー部に怒りすら覚えているようだし。仕方なかったんだよ、と伝えても心配故に納得してもらえずで少し困った。バレー部に変な噂が立たなければいいけど。
放課後。昨日は合宿から帰ってきて荷物を置くだけだったので、洗濯物などのこともあって片付けにきた。とりあえず洗濯機を回して、その間にボトルを洗う。片手しか使えないのは何とも不便だな、とモヤモヤしていると向かいから孤爪くんがやってきてパチリと目があった。これから練習かな。
「片付けなんてほっといて帰っていいのに」
「いやいや片付けまでやって初めて終了だよ。洗濯したものとかカゴに入れて部室前に置いておくね」
「うん…ありがと」
「?どうかした?」
何か言いたいことがあるのか、ジッとこちらを見たまま黙っているので問いかける。見てるのは肩あたりっぽいからやっぱりこれなのかな。これなら本当に大丈夫だよ、と笑うも彼からいい反応が返ってくることはない。
「こっち帰ってきて、ホッとした?」
「え?あー…うん、それはそうだね」
「…謝って済む問題じゃないけど、ごめん」
「えっ!こ、孤爪くんが謝らないでよ!それにっあの人停学になった上にスタメン落ちもしたらしいからみんなも暫くは会わないですむだろうし!」
「……そっか」
だから本当に気にしないで、と笑えば小さく頷いてくれた。
そして気付けばそろそろ部活が始まる時間だ。みんなにもよろしくね、と体育館へ向かう彼を見送った。そうだ。もう東京に帰ってきたんだし怯えなくていいんだ。怪我もいずれ治る。ゆっくり、ゆっくり日常に戻ろう。
そう思っていたのに翌日登校すると事態が良くない方に動いていた。というのも、私は友達とは呼べずとも顔見知りの人はたくさんいた。その人達かどうかは分からないけど、私に関するある噂が流れていたのだ。
「高原さん、男子バレー部に暴力を振るわれたって本当なの?」
はじめに聞いた時は耳を疑った。一体どこからそういう考えに。すぐさま否定したが、噂とは尾ひれがつくもの。放課後にはどうしたらそうなるのか分からないような大きな話になっていた。これはいけない。まずは謝ろう、と猫又監督のもとへ訪れた。監督にはまだ噂は回ってきていないらしくとても驚いていたが、逆にすまなかったな、と謝罪されてしまった。あぁ、こんなつもりじゃなかったのに。きちんと謝りたいと告げると部活開始前に時間をもらえることになった。私に苛立ってるのではないかと思うと少し怖いけど、監督は「アイツらは事実を知っているんだからお前が気に病むことじゃない」と笑顔で元気付けてくれた。監督の笑顔はとても安心した。
そして体育館に赴けば、すぐにみんなが大丈夫かと心配してくれた。合宿にいっていないメンバーは特に驚いていて、灰羽くんには詰め寄られてまで状態を聞かれた。君はもっと自分が巨人であることを理解すべきだ。圧がすごい。その間に監督達もやってきたので、一連の流れを部員全員に話す。信じられないとでも言うように時々響めきが起こったりしたけど、一応全部話すことができた。
「でまぁ、そういうことがありまして…ご心配とご迷惑おかけしました。それでそれに関しての噂も流れてるので謝りに来ました」
「噂っスか?」
「ごめんね、気分の良い話ではないんだけど、その…私がバレー部に暴力を振るわれてるんじゃないかっていう内容で…。もちろん、私も否定はしてるんだけどあんまり信じてもらえなくて」
思い当たるのは合宿の翌日にみんなが心配して教室まで来てくれた時だ。肩身がせまいから、なんて理由でいつもより素っ気ない態度を取ってしまった為に、それを見ていたクラスメイトが怯えていると取ったのではないかと思う。軽率だった。本当にすみません、と頭を下げる。
「頭上げろ。まず噂は気にしてねーし、俺らでないにしろお前が怪我したのは事実だ。お前が謝ることは何もねぇ」
「手伝いに来てくれて実際本当に助かったしな」
「昼頃に槻木澤高校から連絡があったそうでな。件の選手は停学になったらしい。少し肩の力を抜きなさい」
「…ありがとうございます」
みんなはとても優しかった。その優しさに感情をグッと揺さぶられた。こんな優しい人達が悪く言われてしまうなんて、本当に馬鹿なことをしてしまった。「ま、あんま気にすんな」と黒尾さんが言ったことでこの話はとりあえず終わりに。…ならなかった。ずっとジッと様子を見ていた孤爪くんが声をあげたのだ。その視線に、何故だかあまり良い予感はしなかった。
「まだ隠してる」
「ど、どうしたの孤爪くん」
「…高原さん、昨日会った時に既にアイツの処遇を知ってたでしょ。監督に連絡きたのは今日の昼なのに」
「、!」
「ここは俺の予想だけど…高原さん、あの日以外にアイツに会ったんじゃないの」
それは質問しているようで確信を持った言葉だった。どうする。本当のことを言って、それでどうする。
……どうなる?
ジワジワと手足に力が入らなくなってくるのが分かる。あの時のことを思い出すと、酷く恐ろしい。なんの抵抗も出来ずに暴力を振るわれて、誰かに話すことも許されなくて、それはどこかからアイツが監視しているのではないかと錯覚させるほどで。言えない。…言えないよ。私は私が一番可愛いのだ。
「わた、しは…」
「…。これも予想だけど、合宿中にどこかでアイツと接触して暴力…振るわれたんじゃないの。肩の怪我が悪化したのもそれ。しかも肩だけじゃなくて体の至る所を怪我してる。だからずっと長袖で参加してた。歩く速度とか…肩が痛いだけの理由じゃないぐらい遅くなってたし、あれだけ誰も頼らなかったのに芝山にドリンク作り手伝ってもらってたのも不審な点だった」
「…観念しとけ。合宿行った連中は大体わかってる」
「、!」
「ったく。いつになったら頼ってくれんのかと思ったら全然頼らんしよ、気付いたら怪我も悪化させてるし」
「…」
お前の美脚拝めんくて辛かったわァ、とニヤリと笑う黒尾さんに呆然とした。そしてみんなに冷たい目を向けられる黒尾さん。しかしみんな、なんとなく察していたなんて。確かに孤爪くんの言う通りだし、弁解の余地もない。それでも尚、暗い顔をする私の頭を黒尾さんは毎度のようにワシャワシャと撫でる。
「いいたくねぇなら聞かねぇから。ただ隠すのはやめろ」
そう言われて目頭が熱くなった。
20180816
