GW遠征合宿篇
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ゴミ捨て場の決戦かぁ…」
第10話
おはようございます。GW遠征合宿も今日で最終日。体調はすこぶるよろしくないが、なんとか朝食を済ませ一度部屋に戻ってきて身支度を整える。今日の練習試合が終わったらすぐに新幹線で東京に帰るので今のうちに荷物をまとめておきかった。
しかし、なにが辛いって怪我のせいで寝起きが最悪だったことだ。お風呂は意外と打撲が多いからか沁みたりがない分、平気だったのだけど寝起きは辛い。動かしてない時間が長いせいで至る所が痛い。主に背中側が痛いのでうつ伏せで寝るしかなかったのも原因だ。
だがそうも言っていられない。昨日の夕飯時に聞いた話では今日来る相手は1校のみ。その相手がなにやら因縁、とまで大袈裟ではないけど、昔から交流があり且つライバルのような存在なのだとか。猫又監督と向こうの元監督さんとの出来事が始まりらしい。
その学校が、宮城県立烏野高校。
うちの音駒=ネコと、烏野=カラスであることからゴミ捨て場の戦い、なんて呼ばれてるらしい。ちょっとかっこいい。少し疎遠になっていたらしいが今回練習試合の申し込みがあった為に何年かぶりに相見えることになったのだとか。部員のみんなもそれを楽しみにしているらしく、あの孤爪くんでさえ、どことなく楽しみにしているように見えた。なるほど、合宿初日に隣の部屋から聞こえた山本くんの叫びはそういうことだったのか、とすんなり理解した。そういうのってちょっと燃える気持ち分かる。
今日はうちと烏野のみなので全員で体育館前に集合して挨拶、それからアップ後に連日同様練習試合を行なっていく。そろそろ行こう、と長袖長ズボンで身を包み部屋を出たのだった。
「孤爪くん、いつの間に向こうの部員さんと知り合ってたの?」
「初日に迷子になった時…。声かけてきたから」
「…あー…あの時か」
真っ黒のジャージに身を包んだ烏野高校と真っ赤なジャージの音駒が向かい合うと壮観だった。すると向こうのオレンジ髪の子が孤爪くんに酷く反応していて、私は隣にいたものだからこっそり聞けばまさかの迷子の副産物。雰囲気的に険悪だとかそういう感じでは無さそうだし、気にしなくて大丈夫そうだけど。
さぁアップだ、とゾロゾロと体育館に向かおうとすると「あの、」と声かけられたので振り向けばそこには一瞬目が奪われるほどの美人さん、と主将さん。どうやらマネージャー業をするにあたっての作業場所とか位置とかを聞きたいというので案内がてら一緒に作業することに。ちょっと緊張する。烏野の主将さん…澤村さんは人の良さそうな笑みを浮かべて「じゃあ頼む」と足早に体育館に向かっていった。なんていうか…どっしり構えてて頼りがいのありそうな人だ。
「それじゃあ案内しますね。あ、先に荷物置きますか?」
「ううん、大丈夫です。マネージャーの清水潔子です。よろしくお願いします」
「あっご丁寧にすみません。私は今回の合宿だけの臨時なんですけど、高原綾奈です」
3年生だという清水さんに、どうぞタメ口で、と言えば小さく笑って頷いてくれて惚れそうになった。
一通り必要な備品なんかの場所も伝えて、ついでに一緒にドリンクも作って体育館へ行けばそろそろ試合を始めようかという雰囲気。清水さんもそれを察したようで「それじゃ戻るね、ありがとう」とまた小さく笑って烏野ベンチに向かった。あの笑顔に一体どれだけの人が惑わされているのやら。
今日はさすがに2校だし、主審を見逃してもらうつもりはない。アップは控えるけど、それぐらいはさせてもらおう。
「オイ…高原、お前大丈夫なのか」
「もちろんです!それより黒尾さん、私早くみたいです。俺たちは血液だ~ってやつ!」
「お。なに?気にいった?」
「はい!いい具合に厨二心がくすぐられます」
ちょっと恥ずかしいな、とは思わなくもないけども。見る分には好き。言わないけども。しゃあねーなぁ~、とニヤニヤしながらコートの中央に行って選手を集める黒尾さんを横目に私は主審台にあがろうと向かえば、向こうの監督さんと顧問の先生かな?、と目がパチリとあったので会釈をすれば「よろしくお願いします!」と眼鏡の先生に言われた。意外と距離あるのに。返事の代わりにニコリと笑みを返して今度こそ主審台へ。聞こえてくる音駒の掛け声に胸が高鳴った。
「高原さんお疲れ。主審から見るあの速攻はどうだった?」
「海さんもお疲れ様です。いやもう目で追うので精一杯です。あんな選手もいるんですね」
「あんな神技、普通は出来ないもんな。誰が打つ、と思った瞬間にはもう決まってるんだから」
「体感は凄まじいでしょうねぇ…」
1セット目を音駒が取ったところでセット間の休憩。先取したはいいものの、まさか1点目からあんな神技を見せつけられるとは思っていなかった。アタッカーが打つ位置にセッターがボールを持っていくなんて。セッターの彼は一体どれ程の練習を重ねてきたんだろう。そしてそれを打つ小さな選手もとんでもない身体能力だ。トスがあがると分かっていても、目でボールを追ってしまうとあの速度では身体が追いつかないはずだ普通は。でも彼はそれを当然のように打ってみせる。その小さな身体で驚くほどの高さを飛んで、だ。面白いバレーをするな、烏野は。
2セット目が始まり、犬岡くんはひたすらに小さな選手をマーク。犬岡くんは反射神経がいいし、割とすぐに行動を起こせるタイプだ。だからこそ1セット目の最後、彼等の速攻に追いつけた訳だし。そして本当にコート内をよく観察しているセッターの孤爪くん。ここでか、という時にツーアタックを決めてくる。頭の回転も速いのだろうな、彼は。そしてその頭の回転を滞らせない音駒のレシーブ。相手のエースのスパイクはかなりの威力だろうに、きちんと皆セッターに返すのだ。音駒の試合前の掛け声の通りのプレー。自分の負っている怪我を忘れるほど、見ていてとても面白い。これがきっと好敵手ってやつなんだろう。
結局、3試合やって音駒は1セットも落とすことなく勝利した。とはいえ、結構ギリギリだったしデュースにもつれ込むこともしばしば。東京と宮城という全国大会に出なければ戦えない相手。もし、それが叶う時がきたなら是非観に行こうと思った。
烏野の10番は囮の役を担ってるようで一層コート内を走り回って体力を消費しているように思ったのに、3試合終えたあとにも「もう一回!!」とすごい気迫で求めてきた。応えたいのは山々だろうけど彼以外の選手はバテバテだし、私たちも東京に戻る新幹線の時間が迫っている。それを言われても尚、渋っていたけどこればっかりは仕方ない。それに思わず苦笑して、試合に集中しすぎて怪我のことを忘れて主審台から降りたばっかりに着地した衝撃が響いてめちゃくちゃ痛い。馬鹿。
明日の学校行く前に病院行くか…、とさすがに思って片付けに入る。まだ試合直後なのでドリンクなんかはみんな飲んでるし、コートのモップ掛けを。
「綾奈ちゃん」
「?あ、清水さん。お疲れ様です。モップは私がサッとやっちゃうのでやること他にあればしてもらっていいですよ!」
「うん、ありがとう。…えっと、それとは関係ないんだけど、」
「?」
「良かったら、連絡先交換しない?」
そんな頬を赤らめて頼まれて断る人なんかいないです。
すぐさま携帯を取り出して伝えれば嬉しそうに彼女の連絡先も教えてくれた。クールな印象を受ける彼女が私なんかと繋がりたいと思ってくれたことが本当に嬉しい。家に帰ったらすぐ携帯のバックアップを取ることを決めて大事にポケットに直す。また連絡するね、とヒラヒラと手を振って仕事に戻る彼女にやっぱり見惚れてしまった。
「音駒のマネージャーさん!」
「!は、はい」
「主審スッゲーかっこよかったッス!美しかったッス!」
「えっ」
「潔子さんの笑顔まで見れたのも貴方のおかげッス!ありがとうございました!」
「は、はぁ…」
確か彼は烏野のリベロさんだ。身長は多分私の方が高いはずだけど、それでも目の前の彼は堂々としていて大きく見えた。このものの言い方はきっと彼も清水さんのファンだということは一目瞭然。勢いが凄すぎて相槌しか打てないけど彼は言いたいことを言えて満足したのか「失礼します!」とチームメイトのところへ戻って行った。潔子さんの話に意識がいってしまいがちだけど、彼は今の私にはとてつもなく嬉しい言葉を伝えてくれた。
私の主審をかっこいいと、そう言ってくれた。
それだけでこの痛みにも耐えられるような気がした。
そして別れの時。山本くんは向こうの坊主くんと仲良くなったのか硬く手を握り合い、涙しながら再会の約束をしていた。多分似た者同士なんだろう。黒尾さんも澤村さんと腹黒いやり取りをしてるし、まさかの直井さんまで。向こうの監督さんは猫又監督のライバルであった人のお孫さんなのだとか。そして直井さんが現役時代のライバル。うーん、本当に縁のある学校なんだな烏野は。
この合宿で1番の盛り上がりの挨拶をし、烏野高校バレー部に別れを告げた。
「烏野って面白いチームですね」
「お!興味もったか。マネージャーやるか?」
「しません。でも公式戦で戦う姿は見たいなぁ。その時は見に行きますね」
「そうだな。高原さんに見に行きてもらうためにも頑張らないとな」
「てかよ、高原さんは何で臨時なんだ?」
「私バイトしてるので。休みなんかの融通は割と利きますけど部活との両立はようやらんです」
「あー…それは大変だろうな。残念。お前が入ってくれたら色々嬉しいけど」
駅へ向かう最中に近くを歩いていた3年生に切り出せばいつの間にか私の話題へ逸れてしまい、「マネージャーの勧誘くらいならお手伝いしますよ」、と苦笑して新幹線へ。車中はみんなすぐに寝入ってしまった。今日は特に気合いが入って臨んだだけに相当疲れただろう。目覚まし役を自然と担った私は窓に視線をやり、今回の合宿に想いを馳せた。
ズキズキと痛む肩に、やっと宮城を出て帰れる、と思ってしまったのは仕方ないだろう。
20180816
