出逢いと別れ
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道幅いっぱいまであるのではないかと思うほどの大きなリムジンが見えなくなるまで見届け、わたしは一気に肩の荷が下りるようにスッと楽な気分になった。くるりと振り返ると真選組の人々も同様で、少し怖そうな印象の黒髪の方なんかはタバコに火を着けていた。会食中はずっと真面目な顔をしていた局長さんも今では安心したように伸びをしていた。
『局長様、』
「ふぁいっ?!あっ、す、すみませんっ!まだ油断するには早すぎですよね!家に帰るまでが遠足ですからねっ!」
『遠足…?』
完全に油断していたところに突然声をかけたのがいけなかったのか、局長さんは酷く驚いて狼狽していた。もう少しこう、目があってから話しかけるとか考えればよかったかな…
『遠足ではないのですが…あの、先程はわたくしのせいで嫌な思いをさせてしまいまして。申し訳ございませんでした』
ペコリと小さく頭を下げ、何の反応も見せない様子を不審に思い辺りを見回すと、局長以下真選組、全員が目を丸くしているのが見えた。何か可笑しなことでも言っただろうか?理解できない態度に首を捻っていたらさっきよりも慌てた様子の局長さんが口を開いた。
「そそそそんなっ!ミョウジ家のお嬢様に謝罪されるようなことは何もなかったと思いますが…!」
『いえ、先程あの天人が…真選組の方々をまるで邪魔者のように言うので。貴殿方はただ父に頼まれて来ただけだというのに…』
「とっとんでもない!俺たち…あ、いや、私たちはそういった類いのことは言われ慣れておりますので!」
そう言って豪快に笑う局長さん。隊士の方々もわたしの謝罪が意外だったのか、少々照れを見せながらも何故か笑顔だった。お父様の話していた真選組の立ち位置とのギャップにキョトンとしていたが、ここにこのまま留まっていても仕方がないので我々も帰路に着くことになった。局長さんではないが、帰るまでが今日わたしが任されたお仕事。何事もないように細心の注意を払わないと。
「アンタ、普通に人間なんだな」
『…は?』
帰りの車の中、行きと同じ座席に座っていたら突然横から声が飛んできた。掛けられた言葉の意味を処理できず頭の中でプチパニックを起こしながらもその方向に目を向けると、先程タバコをくわえていた男が腕を組んでこちらをまじまじと眺めていた。反対側の隣の席で局長さんが固まっているのが分かった。
『…どういうことです、』
「俺たちに会ってからホテルまでは、ずっとしかめっ面だったからな。そんな顔なのかと思っていたが、あの天人の前では笑ってたし、さっきは俺たちのために頭まで下げてくれた。人形じゃなかったんだってな」
『人形?!』
失礼極まりない言葉につい声を荒げてしまった。更に憤慨する気持ちと同時に、何故か妙に納得した自分がいた。ううん、妙なんかじゃない。自分でも分かっていた、染み付いてしまっている垢のようなもの。わたしはいつも、なるべく感情を表に出さないように押し込めてしまう癖があるのだった。それにしてもミョウジ家という看板のあるわたしにこんなストレートに言ってくる人なんて今までいたこともないし、これから先もなかなか現れないだろう。わたしは珍しい物を見るような目で繁々と彼を眺めた。
『…ご飯、食べさせてもらってますから。例え楽しくなくとも笑いますよ。わたしにはそれくらいしか、家の役に立てることもありませんので』
「お嬢様ってヤツも大変なんだな。同情するぜ」
「ト、トシ…頼むからもうその辺にしといてくれ…!」
「さて、着きやしたぜィ。…おや、門の所に人が集まってまさァ」
局長さんの必死の謝罪(確かに失礼だったが、局長が謝ることでもないのに)を聞きながら、運転してくれている隊士の声に顔を上げる。局長さん越しに見える大きな門構えの前には、執事長と数人の女中が一人の男性を囲むようにして立っていた。
『お兄様っ?!』
その人物を確認すると、わたしは停まった車から慌てて飛び出した。ドアとわたしの間にいた局長さんは当然のことながらわたしに突き飛ばされる形になり、道に転がり落ちていた。
そこにいたのはミョウジ#家長男であるわたしの兄、ミョウジ雄一だった。彼はわたしを一瞥すると、さして興味なさそうに視線を逸らして被っていた帽子を執事長に預けた。わたしは負けじと今日の出来事を報告すべく軽く息を吸い込んで口を開いた。
『今日お戻りだったんですね!今しがた、例の惑星の外交官の方との会食を済ませて帰ってきたところで…』
「あぁ、ナマエか…」
『特に何事もなく、会食は無事に終わりました。きっと地球との今後の関係もますます良好なものとなっていくことかと…』
「ナマエ、」
少々の興奮を孕んだ声で矢継ぎ早に言葉を紡いでいると、それをたしなめるように低く落ち着いた声で名を呼ばれた。わたしは瞬間的に口を止め、居住まいを正して次の言葉を待った。
「しばらく帰ってこなくていいぞ。」