出逢いと別れ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
次々と運ばれてくる豪華な料理に舌鼓を打ちながら、わたしはいつものように笑顔で応対していた。今回はわたし一人(充分すぎるほど物騒な護衛付きではあるけど)ではあるが、いつもと同じ、大事な会食に華を添えるだけ。お兄様やお父様もいないこんな場で何かが決まるわけでもないし、今日は本当に単純な相手方の接待と言えよう。相手の言葉に当たり障りのない答えを返しつつ、わたしはチラリと周囲に配置された彼等に目を向けた。
武装警察真選組といえば、泣く子も黙るチンピラ警察。数々の問題行動は見受けられるにしても、剣に関してはかなり腕の立つ集団との評価が高い。今回は相手方が異国人…つまり天人であるということもあっての人選だったのであろう。こんな小娘の護衛なんて面倒だろうに、と、僅かばかりの同情の念を抱きながら、手元のグラスに口をつけ喉に水分を含ませた。
自分で言うのも変な話ではあるが、わたしはミョウジ家という外交に関しては絶大なる権力を持つ一族の現当主であるお父様の子供として生まれた。お父様と、その跡継ぎの立場が約束されているお兄様もご多忙で本日この場に来ることが出来ない、となれば、ここに座っているわたしだけがミョウジ家、ひいてはこの江戸、地球人の代表とも言えよう。そう思うとなんだか腰が引けてしまうが、余計なことは考えないように…大丈夫、平常心。相手に失礼のないようにこの時間を過ごすことだけを考えなくっちゃ。
今日のランチは洋食のフルコースで、食前酒から始まり今ようやくデザートまでたどり着いた。お父様が心配して旧知の仲である松平様に頼んでいた警察の方々が活躍する場もなくここまで来た。わざわざ局長までお出ましになるような事件は起きず、その点において取り越し苦労だったことだけは申し訳なく思うが、何よりも相手方が楽しそうにしていることだけがわたしの心を落ち着けてくれていた。
「あぁ、楽しい時間はあっという間ですね。そろそろターミナルへ向かわないと…」
『まぁ、もうそんな時間なのですね…お送りいたします』
「いえ、結構ですよ。ナマエ様と別れるのは惜しいが、集団でゾロゾロと動いては変に目立ってしまいますしね」
そう言って黒服の集団を一瞥すると椅子を引いて立ち上がり、従者たちは出発の支度を整え始めた。さすがにはいそうですかと座っているわけにもいかないので、せめてホテルのエントランスまではお見送りしなければ…というか、先程の発言は真選組に対する嫌味なんだろうか?確かに高級ホテルの内装には少々…ううん、大分似つかわしくない風貌ではあるものの、向こうだってそこそこ物騒な武器を持った護衛をつけているのだ。本人たちを見ながらあんな言い方しなくたって…どうも天人という生き物は総じて侍をバカにしないと生きていけない習性があるらしい。少しの苛立ちを感じながらも張本人である真選組の人々はこういった発言に慣れているのか、さして気にしていない様子でわたしの後ろに控えていた。