出逢いと別れ
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「わざわざ御足労いただき、誠にありがとうございます」
そう言って深々と頭を下げて出迎えたのは、初老の男。身なりはきちんと整えられ、かといって派手でないその姿から言って、この屋敷の執事頭といったとこだろうか。セレブも多く住む高級住宅地においても遜色ない塀の長さと立派な門構えには似つかわしくない無粋なパトカー。本来であればすぐにでもおさらばしたいところではあるが、これも仕事の内。局長として挨拶をする近藤さんより一歩下がって他の隊士同様黙ったまま立っていた。
「それでは、こちらに…」
「あれ?こっちじゃないんですか」
執事(先程近藤さんと話してる中で、俺の予想は正しかったことが分かった)に案内され、警護対象である人物の元へ向かおうとした俺たちは全員が一瞬戸惑った。隣の家との境目が遥か彼方にあるこの塀の向こう側にその人物がいるものだとばかり思っていたにもかかわらず、その執事が示したのは道を挟んだ反対側。いたって普通(逆に言えば、この高級住宅街からすると小さいのだが)な大きさの民家だった。
「こちらは、ミョウジ家の別邸でございます。ナマエ様はこの別邸におられますので…」
「ナマエちゃんですって」
「総悟てめェ、馴れ馴れしくすんじゃねーぞ」
執事に導かれるがままその後を着いていくと、ニヤニヤしながら総悟が話し掛けてきた。若い娘といえど護衛対象であれば俺たちより身分は上。迂闊なこと言っていたら俺たちの立場が危うくなってしまうというのに…コイツは何でこう、怖いもの知らずっつーかなんつーか…羨ましいくらいだ、ホント。
ここで待っていろと言い残し執事は屋内へ一人入っていった。身内だけになり一旦空気が緩んだものの、奥の方から二人分の足音が聞こえると皆手早く身嗜みを整え整列した。
「こちら、本日御身を御預け致します、ナマエ様でございます」
その言葉に引き寄せられるようにスッと視線を上げると、時が止まったような感覚に陥った。きっと俺だけではないはずだ、周りの野郎共も固まって動かない。それでもふわりと吹いた風が髪の毛を擽る感覚に、時間は一切止まってなどいないことを思い知らされた。
白い肌に艶やかな栗色の髪、長い睫毛に縁取られた大きな瞳。潤いを含んだ唇はまるで不信感を表すように真一文字だったが、そんなことは気にならない程に彼女の姿は美しいとしか形容し得ない洗練されたものだった。
『…ミョウジナマエ、と申します。お兄様から話は伺っております。本日はどうか、よしなに』
「あっ…あ、こ、こちらこそどうかっ、よろしくお願いいたしますっっ!」
こちら側の人間(何とあの総悟までも!)が誰一人微動だにしない事態を不審に思ったのか、少々訝しがりながら娘…ナマエ様は口を開いた。その言葉でようやく我に返った近藤さんは、若干噛みながらも最低限の挨拶を済ませた。