おいしい秘密【土方】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『土方さんっ!』
よく晴れた日曜日の昼下がり、書類仕事を片付けた俺は気分転換がてら外へ出掛けた。日曜とはいえ、今日は当然非番ではなく、更に言えば職業上休みなんてあってないようなものだ。それでもずっと屯所の中で書き物ばかりしていると流石に集中力も続かず、且つ武闘派集団の副長とあればデスクワークよりも身体を動かしていた方が幾分楽に感じられる。凝り固まった肩を軽く回しながら大通りを歩いていると、俺の名前を呼ぶ聞き慣れた声がした。
「おう、ナマエか」
立ち止まり声のする方に視線をやれば、手を振りながら小走りで近寄ってくる女が一人。日曜日ということもあり平日より賑わっている人混みをくぐり抜け、俺の前までたどり着いたそいつは着物の合わせ目を正してから口を開いた。
『ふふっ、こうして外で偶然出会うのは久しぶりですね!』
「そうだな、最近見廻り以外の仕事が多くてなかなか…今日ナマエはオフなのか」
『はいっ!夕飯のお買い物に行く途中だったんですが、土方さんに会えるなんてラッキーでした』
そう言ってへらっと笑うそいつ…ナマエは屯所の近くの定食屋で働いている娘で、俺や近藤さん含め他の隊士も頻繁に訪れるので、今やすっかり顔馴染みの仲だ。ここ暫くはなかなか出掛ける暇もなかったお陰で、屯所の食堂で食事を済ませる日々が続いていた。
定食屋に出掛けるといえば当然目的はそこの料理な訳だが、俺には更に別の理由があって足繁くその店に通っていた。その理由というのは目の前のコイツであり、恋愛なんて興味もなく寧ろ自分には縁のない話だと思っていた俺には理解するまでに時間を要した事実だったのだが…端的に言えば俺はナマエに惚れてしまったのだった。
最初はただの客と店員というだけの関係だったのだが、ナマエの気立ての良さ、丁寧な振舞い、優しい笑顔にいつの間にかすっかり夢中になっていた。その上、一般的に言えば良い印象とは言えない真選組の中でも鬼の副長と恐れられている俺にも先程のように分け隔てなく嬉しい言葉をかけてくれる彼女は、常に危険と隣り合わせな生活の中の数少ない癒しだった。
『土方さん、最近ますますお忙しいんですよね。沖田さんや山崎さんに伺いました…お身体、大丈夫ですか?』
そう言って心配そうに俺の顔色を窺う
ナマエの表情だけで、ここ数日なかったほどに鼓動が高まるのを感じる。ハマりすぎだ、俺。頬に熱が集まる感覚に気付かないフリをして、わざと素っ気なく返事をした。変に思われなきゃいいんだが…
「あいつらベラベラと…問題ない、ナマエに心配かける程でもねェよ」
『本当ですか?…いつもお忙しいのは知ってますけど、お時間あるときにまたうちの店にも来てくださいね!』
「あぁ、そうさせてもらう」
冷たい態度になっちまったかと焦るも、ナマエは意に介していない様子で微笑み、そのまま視線を地面にさ迷わせた。僅かな沈黙の後小さく口を開いたナマエの言葉を聞き、理解するのに先程まで屯所でフル稼働していた脳内が今一度全力で回転した。
『…土方さんが来てくださると、わたし、どんなに疲れていてもすごく幸せな気持ちになれる…んです…』
全ての動きが脳に集中した今、俺はさぞや間抜けな顔をしていたことだろう。しかし面と向かっているナマエはほんのり色付いていた頬を更に赤く染め完全に俯いてしまっているので大した問題ではないだろう。
周りの雑音など何も耳に入らず、少なくとも恋愛に関しては初心者マークだけでも足りないくらいの俺の頭でさっきの発言を何度も繰り返した結果導き出された返答を告げるため、声が震えそうになるのをグッと堪えながら息を吸い込んだ。
おいしい秘密
(…俺も、ナマエに会えると飯が100倍上手く感じる。)
2014.08.31
1/1ページ