ある少女の逆襲【沖田】
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ポカポカと暖かく、過ごしやすい陽気が続く近頃、俺にはある趣味…というか暇潰しが出来た。見廻りの途中ではあるが、足が自然と最近開いた茶屋へ向かう。仕方ねェ、足が勝手に向かうんだからちょっと寄り道していくか。なんて、自分自身へ言い訳がましく言い聞かせたが、俺の頬は自然と緩んでいた。
目的地に着き、どっこいせと椅子に腰を下ろせば、盆に湯飲みを載せた看板娘がしかめっ面でやって来る。そうそう、この反応が見たかったんでィ。
『また来たんですか、沖田さん』
「客に向かってその反応はねーんじゃねーですか?」
湯飲みを渡される前に盆からヒョイと取り上げ茶をすすれば、何かを諦めたかのようにわざとらしくハァとため息をついて『ご注文は?』と尋ねた。
「ナマエのオススメは?」
『…草餅です』
「じゃあみたらし団子で」
『オススメ聞いた意味は?!』
もう、またからかって!などと憤慨しながら伝票にサラサラと記入していくナマエの横顔を見て、また顔がにやけるのを感じた。
「暇潰し」なんてのは真っ赤な嘘で、俺はこの地区の見廻りが割り当てられているときはいつもこの茶屋に来て(違う地区担当でも頻繁に来るけど)彼女をからかって楽しんでいる。
ナマエは家族で最近江戸に越してきたらしく、(その時にこの店を開いたらしい)引っ越したての頃、迷子になっていたのを助けてやってからの仲だ。いや、ただの店員と客の関係だけど。とにかく一目見た瞬間、俺はナマエに惚れてしまった。一目惚れなんて生まれて初めてだ。
最初の方は店に行くと『また来てくださったんですね!』と喜んでいたナマエだったが、俺が毎回からかっているので最近ではこれ見よがしに嫌な顔をしてくる。まぁそんな顔もかわいいんだけども。
注文を聞いて店の奥に引っ込んだナマエは、しばらくすると今度は団子の載った皿を持ってやって来た。それを受け取り団子を頬張ると、ナマエは俺の隣に腰かけて真剣な表情で『沖田さん』とポツリと呟いた。
「何でィ」
『私、お見合いするんです』
「へーお見合い…ってえええ!」
もぐもぐと口を動かしながら聞いていたが、突然のお見合い宣言に驚き、危うく団子を喉に詰まらせるところだった。団子をしっかり飲み込んで呼吸を整え、ゆっくりと聞き返した。
「え、何で突然?」
『実は父の知り合いに私と同い年の息子さんがいるらしくて、2人で盛り上がって勝手に決めてきたみたいなんです』
「…ふーん」
極力興味の無さそうな素振りを見せながら返事をしたが、俺の内心は混乱しまくっていた。俺が睨みを効かしてるから悪い虫はつかねェと踏んでいたが、まさかお見合いとは…!
ドキドキしながらもチラッとナマエの表情を窺えば、目にうっすら涙を溜めていた。
『沖田さん、お見合いぶち壊してください!!』
「は、はぁ!?」
『私、顔も見たことのない男の人と結婚するなんて…』
絶対に無理!と言いながら手で顔を覆って泣き出したナマエを見て、しばらく呆然としていた俺は覚悟を決め、ギュッと両拳を握りしめた。
惚れた女の頼みとあらば、何でもやってやりてェと思うのが男気ってやつだろィ?
「ナマエ!」
『…はい』
「結婚しやしょう!」
『はい……って何でですか!!』
「結婚しちまえばこっちのもんでさァ、お見合いもしなくてすむ」
『え、ちょっ…』
「俺ァもう18歳でさァ、何も問題ねェ。ささ、役所へ行きやしょう」
『ま、待ってください!』
「思い立ったが吉日でさァ。善は急げって言うでしょう」
『じょ、冗談です!』
「そーか冗談……は?何が?」
勢いよく立ち上がり、抵抗するナマエの腕をぐいぐい引っ張って役所へ向かっていた俺の足はピタリと止まった。何が冗談って?
『あの…いつも沖田さんがからかってくるから、今日は私が、仕返しを、と思っ…て……』
途切れ途切れになっていく語尾の一言一句を拾って頭の中で整理した。え、じゃあお見合いは最初からなかったってことですかィ?
その時の俺があまりにも怖い顔をしていたのだろうか(ナマエの言葉が咄嗟に理解出来なくて、たぶん眉間に皺を寄せていた)、ナマエは必死に『ひぃぃごめんなさい!!』と何度も頭を下げて謝った。
「…俺を騙すたァ、いい度胸だぜィ…」
『あわばばばスミマセン!』
わざと凄んでそう言えば、ものすごく慌てて困っているナマエ。お見合いが嘘だったことの喜びと、『何でもしますから許してください!』と懇願するナマエの必死な表情に、つい声を上げて笑ってしまった。
こんな日も、たまにはいいかもしれない。
ある少女の逆襲
(さっき『何でもする』って言いやしたね?)
(は、はい…)
(じゃあ責任取って、俺と結婚してくだせェ)
(何でそーなるんですか!)
何だこれビックリするほどワケわからんぞ/(^o^)\
とにかくそーちゃんはぴば!
2009.7.8 春日愛紗