冷えた指先、暖めるのは【土方】
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『ふぁ、寒……』
私は冷えきった手を擦り合わせて、左手首につけた腕時計にチラと目を向けた。
時刻は夜7時半。あなたに会えるまで、あと30分。
こんな寒い夜は、初めてあなたと出会ったときのことを思い出します…。
1年前のちょうどこの時期、私は大好きな歌手である寺門通ちゃんのライブに行くためにこの道を歩いていた。その日も今日みたいに寒くて、一緒にライブに行く予定だった友達にドタキャンされた私は心にまで冷たい風が吹き込んでいるような気分だった。
いいわよ、私だけ楽しんでやるから!と頭の中で友達への文句を並べ、緩んだマフラーを直そうとした瞬間、
『…へ?』
手に持っていたバッグが消えた。いや、正確に言えば消えたのではない、道の向こうに走っていく男の手には私のバッグがしっかりと握られていた。つまり、俗に言う引ったくり。
『うそっ…!』
ポカンとしていた私にもようやく状況が飲み込め、一生懸命走って追いかけた。
しかしながら私は足が遅い上にどんくさく、少し盛り上がっていた地面に気付かずそれに引っ掛かり、転んでしまった。
すぐに体を起こしたが、時すでに遅し。だんだん小さくなっていく犯人の後ろ姿を無言で見つめていた。
おニューの着物も転んでしまって台無し、携帯や財布などの大事なものが全部入ったバッグも盗まれた。もう最悪。自然と涙が溢れてきて、目の前の地面が滲んできた。
「もしもし、お嬢さん」
滲んだ視界の端に、黒い革靴のつま先が見えた。恐らく私にかけられたであろう声に顔をあげると、そこには巷で有名な、真選組鬼の副長が立っていた。
『…は、い?』
「これ、お嬢さんの鞄だろ」
彼の顔から目線を動かし、差し出された右手を見ると、紛れもなく私の鞄が提げられていた。
『あ…そ、そうです!ありがとうございます!』
「しっかり握っとけ、夜は特に物騒だからな」
『はいっ』
ありがとうございます、ともう一度お礼を言ってバッグを受け取ると、鬼の副長さんは何かに気付いたように私の手を握った。
『え、ちょ…!』
「冷てェ…」
副長さんの手は暖かくて、その温もりが私の指先にじんと染みてきた。
その時はすぐに別れたのだけど、その後私はお礼を言うために屯所へ行って、それからだんだん仲良くなった。そして3ヶ月ほど前に恋人に昇格、今日は彼の仕事が終わるのを待ってデートに行く約束だ。
待ち合わせの時計台が見えてきて、再び時間を確認した。30分前行動、早すぎたかな…それでも私は、1分でも早くあなたに会いたくて。
ふと時計台の下のベンチを見れば、俯き気味にタバコをふかしている愛しいあなたの姿。いつでもそうだ、彼は私よりも絶対に先に待っている。前に理由を聞いたけど、それも全く私と同じで。
予想通りの行動にクスと笑い、歩く速度を少し上げてそこに近付く。
『もしもし、副長さん?』
そう声をかけると、彼はゆっくり顔を上げて微笑んだ。そして私の手を握り、あの時と同じ言葉を呟いた。
「冷てェ…」
冷えた指先、暖めるのは
(何で手袋しねェんだ)
(だって、冷えた指は土方さんが暖めてくれるんでしょう?)
(…そうだな、お前には手袋なんか必要ねェか)
あの、まずすみません林檎さま!約3ヶ月に渡ってお待たせしました…!!しかも名前変換がないという暴挙。マジでごめんなさい、いつでも書き直します!リクエストありがとうございました!
えっと、これは林檎さまからのリクエストで、お題(今回は「冬」「お通ちゃん」「時計」)をキーワードに作ったお話です。ひい、季節全く無視でごめんなさい!
2008.7.25 春日愛紗