君の笑顔が僕の心を掴んで離さないというのに【土方】
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仕事に出ていたナマエが屯所に戻ってきたのは、江戸を発ってから1週間後のことだった。
それまでもナマエはほとんど休みなく働いていて、今回の出張も最初は総悟が代わってやる予定だった。だがアイツはそれを断って、自ら隊を率いて出発した。自分の関わっていた事件だったから、自分で決着をつけると言って。
正直、ナマエの体調を考えると無茶だった。誰もが##NAME1##ナマエの精神力の強さに驚いていた。女だからって意地になって鍛え、意地になって仕事をこなしてきた。
そんなナマエの帰還を一番に喜んだのは間違いなく俺だ。ナマエを乗せたパトカーが屯所に到着したとの知らせを聞いたときの俺の顔は、きっととても普段の俺からは想像できないような穏やかな表情だったことだろう。愛しい女が車から降りたのを見て、一番最初に声をかけた。
「ナマエ!大変だったな…」
『トシ…、うん。さすがにちょっと疲れちゃったみたい』
そう言って、にへらと微笑んだナマエの笑顔はいつもと変わらず眩しかったが、普段とは少しの違いがあった。
まずひとつめ。ナマエの顔色が物凄く悪かったこと。ふたつめ。出発前に比べ、明らかにやつれていたこと。そして最後に、ぎゅうと抱き締めたナマエの体が異常に細かったこと。
近藤さんに事件経過の報告を済ませたナマエがフラフラしながら立ち上がるので、俺がナマエの体を支えながらナマエの布団まで連れてってやった。
『…トシぃ…ありがとー……』
「バカ、無茶しすぎなんだよ。お前はいつも」
『ゴ、ゴメンなさい…』
「いーから。ゆっくり休んどけ…安心して寝れるなんて、久しぶりだろ?」
『あり、がとー…』
そう言って笑ったナマエは、すぐに眠りについた。そっと布団をかけてやり、電気を切って部屋を後にした。その時の笑顔もまた、普段とは違ったツラそうな顔だった。
次の日の朝、食事の時間になってもナマエは起きてこなかった。会議の時間になっても、まだ姿を見せなかった。近藤さんが「さすがに疲れてるんだろう…寝かせておいてやれ」と言ったので、そのまま会議は始められた。会議が始まってから1時間経っても2時間経ってもナマエは現れず、結局ナマエがいないまま会議は終わった。
昼になってもアイツは起きてこなくて、さすがにもう呼びに行こうと思ってナマエの部屋に向かった。
ゆっくり襖を開けると、ナマエはまだ布団の中にいた。ピクリとも動かずに俺の目の前に横たわっていた。
ピクリとも動かずに?それはおかしいだろう。呼吸をすれば動くはずの布団が少しも上下していない。おかしい。
「ナマエ?」
声をかけても全くと言っていいほど反応がない。何でだよ。布団の側まで行って、しゃがんでもう一度声をかけた。
「ナマエ?…ナマエ……」
ナマエは、息をしていなかった。それどころか、心臓も動いていないようで。顔を見てみれば血色は非常に悪く、異常な程に白かった。
そっと手を伸ばしてナマエの頬に触れれば、酷く冷たくかった。そう、まるで死んでいるみたいに。
「ナマエ…俺をおちょくってんのか?バカヤロー……こんな冗談、ちっとも笑えねーよ…」
俺はそこにどのくらいの時間座っていたのだろうか、あまりにも戻ってくるのが遅く心配した山崎がやって来て、それからはまるで矢の如きスピードで時が流れた。ナマエの死因は過労によるものだった。
棺の中で眠るナマエは、酷く美しかった。しかしながらそこには俺の大好きなナマエの笑顔はなくて…周りの奴等が大泣きする中で、未だ事態を受け入れられなかった俺だけがただただ呆然としていた。
君の笑顔が僕の心を掴んで離さないというのに
(何でナマエがいない)
2008.6.16 愛紗