貴方の嘘は私を惨めにするだけ【沖田】
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俺が初めて心底惚れた女が、俺の目の前で泣いている。肩を落として、電気の消えた真っ暗な部屋でひっそりと。
俺はそれを後ろから見て思った。ああ、もうナマエの眩しい笑顔を拝むことはきっとできないだろう。だってほら、彼女の笑顔の源は消えてしまったのだから。
「ナマエ…」
そっと声をかければ、ナマエはピクリと反応を示す。両手で乱暴に涙を拭って、ゆっくりと振り返った彼女は笑っていた。
無論いつもの笑顔ではない。本当は泣きじゃくりたい気持ちを抑えて、他人に心配かけまいと取り繕った笑顔だ。
『なあに、総悟?』
「…その…、」
こんなにも一人で悲しみに耐えているナマエに、「元気出せ」なんて言えねェ。頭の中でナマエにかける言葉を必死に探した結果、俺は一番心配なことを言った。
「ナマエは、死なないでくだせェよ…」
それを聞いた彼女は、一瞬驚いた表情を見せたが、ふんわり笑ってこう言った。
『当たり前じゃない。私がいなくなったら、きっと近藤さんが発狂するわ』
絶対ですぜィ、嘘はいけやせん。うん分かってる。そんな約束を交わしていたら、顔を真っ赤にした近藤さんがやってきた。
「おーう総悟にナマエちゃん!早く宴会に参加しろよ~。何たって今日は…」
次の言葉に、ナマエは部屋を飛び出した。
「あり?ナマエちゃんどうしたんだ?」
「…さァ?」
その後、待てど暮らせどナマエが帰ってくることはなく、隊士全員で捜索した。
捜索開始から間もなく見つかった彼女は変わり果てた姿で、腹には自分の愛刀が突き刺さり、青白い顔でそこに横たわっていた。
ナマエは恋人と同じ日にこの世を去った。俺が斬った、高杉晋助と同じ日に…。
俺は悪い奴か?彼女の目の前で奴の命を奪ったのは間違いなく俺だ。しかしナマエは理解していた。攘夷浪士と真選組隊士の恋が実らねェってことを。
笑顔を奪ったのは俺なのに、もう一度あの笑顔が見たい…なんて、矛盾したことを考えながら、俺は静かに涙を流した。
貴方の嘘は
私を惨めにするだけ
(約束、したじゃねーですかィ。死なねェって…)
2008.6.28 愛紗