終わらない哀傷歌【沖田】
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「何で、アンタなんでさァ…」
何で俺じゃない、何でナマエなんだ。
そんな思いが頭の中をぐるぐる駆け巡って吐き気を覚えた。ナマエはただ真選組の事務を担当していただけだし、斬り込み隊長であり最前線で戦う俺の方が随分と死に近いはずだ。なのに何故?俺はこの通り生きている。
ナマエは突然彼女を奇襲してきた攘夷志士に斬られて死んだ。ナマエと真選組に関わりがあることが攘夷志士たちに露見していたらしく、ある程度の護身術を心得ていたナマエとはいえ複数の男に囲まれれば成す術もなく、駆け付けた時にはもう虫の息だった。
『そ、ご…』
「ナマエ!絶対助けるから頑張れ!!」
『あ、たし…言わなきゃ……』
「無理して喋るんじゃねぇ!すぐ病院に連れてって…」
『…す、き』
「は?」
『あたし…総悟が…好きだった、よ…』
ナマエの気に入ってた白い着物は彼女の血で真っ赤に染まり、いつもニコニコしていた顔からはみるみる血の気が引いていった。
最期に彼女が残した言葉はずっとずっと聞きたいと思っていた言葉だったけど、過去形になっていたことに若干の違和感を感じた。
俺の腕の中でどんどん弱っていくナマエの目から溢れた涙をそっと拭いたが、ナマエの頬に俺の涙が零れた。その直後に到着した救急車で病院に運ばれたがもう手遅れで、ガラス越しの集中治療室に横たわるナマエを前に彼女の死を知らされた。
ナマエは大好きだった撫子の花に囲まれて棺の中で静かに眠っていた。その姿は驚くほど美しく、とても死んでるなんて思えなかった。ナマエの死は隊士の皆が悼み、あの土方さんでさえも涙を見せた。俺は涙を流さなかった。あの日、あの時に出し尽くしてもう渇れてしまったのかもしれない。俺の心もあの時から動かせなかった。まるで、俺だけ時間の流れに取り残されたみたいだ。
俺は火葬場に行かなかった。土方さんや近藤さんは「最後の別れなんだぞ」としつこく俺を誘ったが、第一俺はナマエの死を受け入れられていないので最後も何もない。何も考えずふらりと屯所内を歩き、たどり着いたのはよくナマエと喋った裏庭に面する縁側。ゆっくりと腰を下ろし、虚空を見つめて口を衝いて出たのはナマエがここでよく歌っていた歌。
「こりゃあもしかして、哀傷歌になっちまうんですかねィ…」
もしこれが哀傷歌になるならば、俺はずっと歌い続けよう。歌い終えてしまえば、本当のナマエとの別れになってしまうような気がしたから。
火葬場の方から立ちのぼる煙が見えた。果たしてこれがナマエを火葬する煙なのかは俺には知れなかったが、渇れたと思っていた涙が滲んで目の前の景色が歪んだ。
終わらない哀傷歌
(この悲しみは、一生終わらねェ)
*哀傷歌=人の死を悲しむ歌
2009.5.30 春日愛紗