涙の理由を僕は知らない【土方】
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恋人同士である俺たちの間には、約束があった。絶対に破ることが許されねェ…大事な約束が。
『ね、十四郎』
「なんだ、ナマエ」
俺と同じ隊服を着たナマエは、近藤さんを補佐する役職に就いている。今は休憩時間中であり、茶を飲みながらゆっくりしている中、ナマエが突然口を開いた。
『十四郎は約束とか破らないよね。どんな約束でも、絶対守ってる感じがする』
「当たり前だ。約束破るなんて、士道に背くマネできるか」
『だよね』
そう言ってクスクス笑ったアイツは、なんとなく分かっていたのかもしれない。
自分がもうすぐ、この世を去る運命だということが。
「ナマエっ、ナマエェェェェ!!!!!!」
『ゴメンっ…十四、郎……油断してた…』
夕方、攘夷浪士の会合が開かれるという情報を掴んだ俺たちは、総出で奴等の潜伏先に乗り込んだ。大体の敵を片付けた中、襖の後ろから現れた浪士が近藤さんに斬りかかろうとしたが、それは奴に気付いて横から飛び出したナマエによって阻まれた。
「ナマエちゃん!」
「局長!早くこちらに…」
「しかし、ナマエちゃんが…」
「局長!」
近藤さんは隊士に引っ張られて部屋から連れ出された。残った俺は、倒れたナマエを抱えて叫んでいた。
「バカヤロー、何で抜刀しなかったんだ!」
『も、夢中で……近藤さんを、守らないと、って…』
息をするのもツラそうなナマエは、傷が痛むのか顔を歪めていた。
「おい、救急車呼んだのか!?」
「呼びましたが、まだ来ないみたいで…」
「ふざけるな!表にパトカー回せ、俺が病院に連れてく!」
『十、四郎…』
小さな声で俺の名前を呼んだナマエは、俺の隊服をギュッと握りしめた。
『私、もうダメよ…』
「バカ、諦めんな!俺が助けてやるから!!」
『無理だよ、だって…もう、こんなに血が、出てるもん…』
薄く目を開けたナマエは、床に溢れた自分の血液を一瞥した。
『とーしろ、の…隊服まで、汚しちゃって、ゴメン』
「何言ってんだ!」
『……あの…約束、』
「バカヤロー!あの約束が果たされんのは今じゃねェ!!だってお前は、これからもまだ生き続けるんだぞ…!」
『十四郎、とーしろっ』
「何だ、」
『あのね、約束してほしいことがあるの』
「約束?」
『あのね、私たちって真選組じゃない。それに私は、命を懸けて近藤さんを守る役じゃない』
「…そーだな」
『だからね、万が一の時のために…』
『“私が死んでも、泣かないで”って…約束したじゃない』
俺の顔を見て、ナマエは力なく笑った。俺の目には涙が滲んでいたが、ナマエは死なねェ。絶対助ける。
「ナマエは死なねェ、俺が死なせねェよ…!」
『…泣か、ないで、』
「泣いてねェ!!!!」
『泣い、てる、じゃない……十四郎、士道、に、背いたら……』
「泣いてねェよ!これはそーいうんじゃねェ!!ナマエが、ナマエが死にそうだから泣いてんじゃねェよ!!」
『約束は、これからも、守ってよね……とーし、ろー…』
最期に俺の名前を呼んで、ナマエはゆっくりと目を閉じた。遠くに聞こえる救急車のサイレンの音を聞きながら、俺は考えた。
ナマエとの約束を破るなんて、俺は絶対にしない。有り得ない。じゃあ何で涙が零れる?俺は何で泣いてるんだ?
救急隊員が到着した頃には、すっかり冷たくなっていたナマエの体を抱えながら、俺はずっと涙の理由を考え続けた。
涙の理由を僕は知らない
(いくら考えてもわかんねーよ、ナマエ。いつもみたいにニッコリ笑って、俺に答えを教えてくれよ)
2008.7.6 愛紗