狡い人【土方】
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『お待たせしましたカツ丼で~す』
「いやーナマエちゃん、今日も可愛いね!」
「うちの息子の嫁になってくれよ~」
『あらやだ、権兵衛さんの息子さんは泌尿器科の先生に首ったけじゃないですか』
「じゃあもういっそのこと俺の嫁に!」
『またそんなこと言って~』
俺の恋には、好敵手が多すぎる。
『あ、土方さん。いらっしゃい!』
「ああ…親子丼くれ」
『はいっ!』
俺が初めてコイツに出会ったのは、山崎に連れられてこの定食屋に来たときだ。
「副長、副長!今日のお昼は新しくできた定食屋さん行きましょう!」
「アァ?何でだ」
「すっげェ可愛い子が働いてるんですって!!」
「…ソレ、誰が言ってたんだ」
「沖田隊長です」
「……期待しねェ方が良さそうだな」
その娘に興味はねェが、飯が旨いのは確かなようで、山崎に押しきられて行くことになった。
『いらっしゃいませー!』
「…」
「…すっごい可愛い……」
絶句した。顔立ちが可愛らしいのは確かだが、周囲の雰囲気を明るくする笑顔に、俺は心を奪われた。
今までに会ったことのない感じの娘だった。
『何になさいますか?』
「俺は~カツ丼!副長は?」
「俺も」
『かしこまりましたー!』
「ふ、副長…またそんなにマヨネーズかけて」
「ウルセーんだよ、旨いんだからいいだろ」
「そんなのナマエちゃんが見たら…」
「ナマエちゃん?」
「あ、さっきの子ですよ」
『お味、いかがです?』
「わっ!」
山崎とどうでもいいこと(?)を話していると、急に娘がやってきた。
俺に出されたカツ丼は既に土方スペシャルに進化していた。大抵の女はここで引く。
『あら、それ…』
「…んだよ」
『そんな食べ方もあるんですね!初めて知りました』
そう言ってニッコリ微笑む娘に、俺はどんどん夢中になっていった。
『お待たせしましたっ!』
出会った頃の記憶に浸っていると、注文した親子丼が出てきた。持ってきたナマエも正面の席に座る。
「オイ、他の客の相手しなくていいのか?」
『他のお客さんはもう皆帰りましたよ?』
そう言われて周りを見ると、俺以外の客は誰もいなかった。
『土方さんがボーッとしてるなんて珍しいですね。いつもなら店の中から不審者がいないか外を睨んでるのに』
「ちょっと、考え事をな…」
考え事ですか~。とか言って、ナマエは俺の親子丼にマヨネーズをかける。
最近では俺の好みのマヨネーズ量が分かってきたらしく、絶妙のタイミングで切る。
『卵入ってるものにもマヨネーズなんですね』
「当たり前だ。卵とマヨの最強のコラボレーションだ」
いただきます、と言って遅めの昼食を取る俺の顔を見つめ、机に頬杖をついて『美味しいですか?』なんて聞いてくるナマエは、午前中の仕事の疲れをいとも簡単に癒してくれた。
『ところで土方さん、』
「アァ?」
『デート、いつ行きますか?』
「ぶはっ!」
デデデデデートォ!?
そ、そんな約束したっけ!?
いや、俺がナマエにデートの約束なんて申し込める訳がねェ!
と言うことは、ナマエから…?
お、俺はそんな大事な事忘れてたのか!?
冷や汗がダラダラ流れてくるのが分かる。
や、やべェ…忘れてたなんて言ったら、ナマエ怒るよな…。
「あ、あの…ナマエ?」
『やだなぁ、忘れちゃったんですか?大江戸遊園地行こうね、って約束したじゃないですか!』
大江戸遊園地ィイィ!?
あの忌まわしい記憶の残る大江戸遊園地…。
ナマエと行けるんなら何も問題はないが、その代わり何も覚えてない。
と、とりあえずここは話を合わせて…
「あ、あぁ…次の非番にな」
『マジですか!?』
俺が適当に提案すると、ナマエは大声で叫び、嬉々として店内を跳ね回っていた。
「え、あ…ナマエ?」
『やだなぁ、元々デートの約束なんてしてないですよ!カマかけたんです!』
カマかけたんですゥウゥゥ!?
ちょ、待て!そんな可愛い笑顔で何て言った!?え?カマかけた?
ってことはデートの約束なんてしてなくて、でも今さっき次の非番に、って約束して…え!?何コレどーゆうこと!?
『分かんないんですか、土方さん?私、土方さんとデートがしたかったんです』
「ナマエっ、それって…」
『最後まで言わなきゃ、ダメですか…?』
あぁ、そんなに顔を赤くして。言葉にしなくてもバレバレだっての。
お前に引っ掛けられるなんて、俺もまだまだだな。
勝手に約束取り付けて、
勝手に気持ち伝えやがって。
ホントにお前は狡い人だよ…。
狡い人
(私っ、土方さんのことが…)
(あーストップ。続きは今度のデートで俺が言うから。)
(ひ、土方さん…それって……!)
(…っ。あーやっぱ旨いな土方スペシャルは!!!)
(…ふふっ。楽しみにしときますね!)
ただヒロインに『カマかけたんです』って言わせたいが為に生まれた話。ビバ電車男!
2008.2.17 愛紗