不器用な愛【土方】
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私が江戸に出てきてから、早いもので2年が経とうとしている。
父上は病弱な母上と私たち子供を残して5年前に亡くなり、家計を支えるために私が真選組の屯所で働くことになったのだ。けど別に仕事は苦じゃない。女中は給料もそこそこ高いし、しかも隊士の方々からかなり良くしてもらってるし……それに、私はここで心から愛することの出来る人に出会った。
彼の名前は土方十四郎。真選組の副長という実に立派な役職に就いており、その上容姿端麗で非の打ち所がない方なのに、何の取り柄もない極々普通の私みたいな人間に…その……告白をしてくれた。告白された瞬間は何を言われてるのか分からなくて順を追って説明してもらい、20分後にやっと理解出来た。
けれども彼は副長さんだし、毎日多忙でほとんど会う暇はない。そりゃさすがに屯所内で出会うことはあっても、2つ3つ程言葉を交わしてそれぞれの仕事に行ってしまうのだ。告白されたときだって「あんまり構ってやれないかもしれねェが…」って言われてた。それを承知でお受けしたんだけど、やっぱり会いたいもんは会いたい。
『…ワガママな自分嫌い』
「アレ、ナマエじゃねーですかィ」
『沖田さん…』
沖田さんは愛用のアイマスクを指でクルクル回しながらやって来た。大方またサボりに来たんだろうな…。
「何でィ、しけた面しやがって…また土方コノヤローのことですかィ?」
『…そーですけど。またって何ですかまたって!』
「ナマエが浮かねェ顔してる時は、十中八九土方さんのことでさァ」
『…うう』
この人は鋭い…ううん、鋭すぎる!私と土方さんがお付き合いしていることは、他の隊士の方々や女中さんたちにも秘密なはずなのに…沖田さんには見事にバレてしまったのだ。そして事有るごとにちょっかいを出してくる。
「今、みんな忙しいからなァ…」
『サボり進行中の沖田さんが言っても、全然説得力ありませんよ』
「あらら、手厳しーねィ」
沖田さんと一緒に私までサボってると思われたらたまったもんじゃない。私は手を動かして洗濯物を干しつつ、沖田さんと会話をしていた。
「不安なんでしょう?」
『…そーですよ。もうここ1ヶ月くらいまともに会ってませんから』
「土方コノヤローはヘタレですからねィ」
『ちょ、土方さんはヘタレなんかじゃないです!!』
「へぇ?俺には十分ヘタレに見えやすぜ?」
ニヤリと笑う沖田さんがとても憎たらしい!土方さんのことを悪く言うなんて、いくら沖田さんでも許さないんだから…!!
『土方さんはとっても優しくて強くてしっかりしててカッコよくて…すごく素敵な人です!!悪く言わないでくださいっ』
「ですって、土方さん?」
『…へ?』
沖田さんったら何を言い出すんだろうときょとんとしていたら、何と建物の裏から真っ赤な顔の土方さんが現れた。え、ちょっと待って。私ってば今なんて言った?
先程の自分の発言を思い出し、私には3つの選択肢が発生した。
①『冗談です!』と笑い飛ばす
②『本気です!』と告白
③『…』無言で逃げ出す
いやいや、ここは迷わず…
『さんんんん!』
と、その場から逃げ出したはずだったけれど…それは沖田さんによって阻止された。
「ナマエ…②でしょう?」
その声にゆっくりと振り向けば、さっきと同じように意地悪くニヤリと笑う沖田さんの顔。は、はめられたァアァ!!!絶対確信犯だよこの人ォォォォ…。
沖田さんはそそくさと去ってしまい、その場に取り残された私たちには何とも気まずい空気が流れた。
『あー…ははは、何かお久しぶりですね』
「あ、あぁ…」
『はは…』
か、会話が続かねェエェ!!土方さんはまだ顔を赤くしたままだし、さっきの爆弾発言を聞かれてしまった私は恥ずかしさでいっぱいだったからだ。
頼むー何か話してくれー!と念じていると、ソレが通じたのか土方さんが話し始めた。
「ナマエ…」
『はいっ!?』
「あの、そのー…」
『な、何でしょう?』
ドキドキしながら次の言葉を待っていたら、土方さんは急に頭をガシガシやって、覚悟を決めたようにキッと私を見た。
「悪かった!その…寂しい思いさせちまって」
『え?』
「総悟に言われてな…このままじゃナマエがあまりにも可哀想だって」
『沖田さん、が…』
「俺、不器用だし…ナマエの喜ぶこととかしてやれねェし…多分また不安にさせちまうと思う」
『…』
「けど!」
突然大きな声を出した土方さんはゆっくり私に近付いて、そっと抱き締めてくれた。
『土方さっ…!』
「俺はナマエのこと、誰よりも愛してる。一番大切な人間だ!だから…」
『…っ』
「ってエェエ!?ちょ、何で泣いてんだナマエ!俺に抱き締められるのがそんなに嫌だったのか…?」
ワタワタ慌てながら私から手を離す土方さんが可愛くて、私はつい噴き出してしまった。そうだよ、土方さんはこういう人だ。甘いセリフや愛情表現が苦手で、でも誰よりも大きな愛を私にくれる…。
『違いますよ、嬉しいんです私!』
「は?何が…」
『秘密です!!』
この先不安になることが何度もあるだろうけれど、その度に私はさっきの言葉を思い出します!
不器用な愛
(土方さん、土方さん!)
(何だ?)
(私も愛してます!!)
(ぶっ!!!)
トッシー企画、優希さまリクエスト作品。
2008.5.5 愛紗