言葉の魔法【土方】
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『ハァ…』
俺の隣の席に座っているのは、ナマエ…俺が惚れてる女だ。この前の席替えで、強運にも隣を引き当てた。それからずっと学校が楽しくて仕方なかった。毎日笑顔で話しかけてくれるナマエを、どんどん好きになっていっていた。
だが、今日のナマエは元気がない。朝から一度も笑った顔を見てないし、ため息が多い。いつものナマエじゃない…何だ、どうしたんだ……?
「ナマエ…何かあったのか?」
『……土方~っ!』
勇気を出して尋ねてみたら、ナマエは涙目で語り出した。
『あのね、今日…クラスで肝試しでしょ?』
「あ、そそそそーだったな…」
そこかァアァ!!!
俺が必死に忘れようとしていた事実。それは、今日の夜に行われる【第9回3年Z組お楽しみ会 ドキッ☆オバケだらけの肝試し大会ィイィー!!!】だ。
べ、別にオバケが怖いわけじゃないが…きききき気乗りしねェ。だが…参加しないと、きっと卒業までチキン野郎扱いだ。それだけは絶対に避けなければならない。それに、3Zの奴(特に総悟)に弱味をさらすなんて…死を意味するぞ!!
『私…オバケとかそーゆうの苦手で……』
「そそそそうなのか…」
…正直言うと、俺もそういった類いのモノは大嫌いだ。だがナマエにカッコ悪い姿は見せらんねェ…!
「怖がりなんだな、ナマエは…」
『土方は平気なの?』
「おおおおう。全然へへへ平気だ」
俺の言葉を聞いたナマエは、目を輝かせて俺の手を両手で握った。
『救世主…!今日、一緒に肝試し行ってくれない?』
ああ、神様。今夜の肝試しの間だけでも…俺に……勇気を!
昼にナマエと無謀な約束をしてから約8時間が経過。脳ミソをフル稼働させて、何か肝試しを上手く回避する方法を考えたが…これといって良いアイデアは浮かばないまま、肝試しのスタート地点である北校舎の裏口に到着してしまった。
『土方っ!』
「ちゃんと来たんだな、来ないかと思ったわ」
『クラス行事は休みたくないの!その後2週間、話題についていけなくなっちゃうでしょ~?』
「確かに…」
俺たち3Zは2週間ごとに、何らかのクラス行事を催している。それは「非日常的生活」をモットーに生きているこのメンツだからこそ成せる技だ。大体…夜から始まるのにも関わらず、全員出席だからな。とか言う俺もちゃっかり皆勤賞だが。
「んじゃ、一昨日オバケ役に決まった奴らは隠れに行って下せェ。残りは今からコース説明でさァ」
「出発はココ、北校舎の裏口アル。鍵っ子キャサリンの活躍のお陰で無事に肝試しが開催されるネ。拍手!」
お楽しみ会実行委員(うちのクラスのみある委員会)(しかも構成人数は2人)の紹介で、全員からワッと拍手や歓声が上がる。我がクラスはこういう行事の時だけは無駄に盛り上がるメンバーだ。
総悟とチャイナの説明によると、ソコから入って東校舎3階の音楽室に置いてある「ステファン大佐人形」を取ってくればいいらしい。何で音楽室にステファン?
「ペアは自由に決めて下せェ。俺ァ楽しみたいんで……ナマエ!一緒に行きやせんか?」
『沖田とは絶対に嫌だ!私は土方と行くの!!』
その言葉にはナマエにとって「俺=救世主」以外の何の意味もないだろうけれど、俺と同じくナマエに惚れてる総悟を拒否して俺を選んでくれたことがこの上なく嬉しい。俺は総悟に向かって「そういうことだ」とだけ言って、ニヤリと笑ってやった。
北校舎と東校舎の間には2階の渡り廊下しかない。構造上必然的にペアがすれ違ってしまうので、時間はかかるが1組ずつ出発することになった。最初のチャイナ・総悟ペアが10分ほどで戻ってきたので、全員が回り終わるのも案外早いかもしれない、と思った。
『ううっ、次かぁ…』
「腹ァくくれ、女だろ」
『確かに女だけどさ、普通腹くくるのは男でしょ。女は度胸だよ』
「お前のソレも間違ってるから」
冗談を言い合いながら順番待ちをしている辺り、俺たちにはまだ若干の余裕がある。しかし同時に、この余裕が崩れ去るのはそう遠くない、ということも悟っていた。
「…ただいまー……」
「新八、何かやつれてるアルな」
「いやもうツッコミ所が満載すぎて…」
3Zの中の数少ないツッコミ担当・志村(弟)が言うには、怖さよりツッコミたくなる気持ちの方が強い肝試しらしい。何だそりゃ。
まあ何でも良いが…いよいよ俺たちの順番になった。
いざ校舎の中に入ると、外とは違ってうっすらとしか月明かりが入ってこないので物凄く暗い。総悟に渡された懐中電灯のスイッチを入れて左手に持ち、右手でナマエの手を握ってやった。
『ひ、土方…!』
「バカ、怖ェんだろ?黙ってついてこい」
『でも私、手にかなり汗かいて…』
「気にすんな、それは青春の汗だ」
本当は俺だって、前を向いて歩くので精一杯だ。自分で自分が何を言ってるのか、訳が分からねェ。でも…繋いだ手から伝わる熱で、何とか平常心を保っていられる。ん、保ってるのか?
ナマエと手を繋いでてドキドキはするけど……それよりもナマエを守ってやらねェと。という思いが強いようだ。
だがやっぱり怖いもんは怖い。普段見慣れた廊下でも、何か良からぬモノが飛び出してきそうに見えちまう。
『土方ってさあ…』
「ん?」
『好きな子とかいんの?』
「…ハァ!?何言ってんだお前!」
沈黙を背負ったまま、良からぬモノが出てこねェように念じながら歩いていると、ナマエがいきなり変なことを聞いてきた。
『だって何か話してないと怖いんだもん!答えてよ!!』
「だからって何でよりによってその質問!?」
『その反応はいるってことだよね、誰ェ?』
「オイオイ、イキナリど真ん中直球勝負かよ」
赤くなっているであろう俺の顔を見ながら『誰、誰~?』と聞いてくるナマエに、つい意地悪をしたくなって言ってやった。
「今、俺の隣の席の奴」
俺は壁側なので、隣の席はナマエしかいない。冗談めかして言ってやったので、もし残念な反応でもどうにかなるだろう。ズルい奴だな、俺って。
俺の言葉に反応して、ナマエは歩みを止めた。そんなに強く握ってなかったのでほどけてしまった手に気が付いて、俺も立ち止まった。
『ホ、ホント…?』
ナマエは少ない月明かりの下でも分かるほど、真っ赤な顔をしていた。ああ、これはもしかして…期待してもいい展開?
「俺ァ……ナマエが好きだ。つ、付き合って…くれねェか?」
『……無事に戻れたらねっ!』
そう言ってナマエは、俯きながら歩き出して俺の手を取り、チラッとこっちを見上げる。んな顔すんなって、ソレ反則じゃね?
さっきまでは微妙に震えていた足だったが…それはナマエの言葉で、既にしっかりとした足取りに変わっていた。
言葉の魔法
(あり?土方さん…何、ナマエと手ェ繋いでんでェ?…切ーった!)
(ああっ!テメッざけんなァ!!)
うわっ、何コレ!
ゴメン愛、また撃沈したよorz
こんな不甲斐ない私だけど、どうぞよろしく。そしてこんなんでよければ捧げます!ありがとう2000打!!
2008.3.22 愛紗