薬指の約束【土方】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私の右手の薬指にキラリと光るシルバーのリング。
コレを私に渡すときのあなたは耳まで真っ赤で、街に出たらちょうど安売りしてたから…なんて、照れ隠しに分かりやすい言い訳してたよね。
私が左手の薬指にはめようとしたら「ソコは本番用だから、右にしとけ」って言って、右手の薬指にそっとはめてくれた。
トシが「いつか絶対、左手のも買ってやるから…」って言ってから、もうすぐ2年が経つ。トシが近藤さんやそーちゃんと一緒に江戸に出ていってしまって、武州に取り残された私は一人でずっと待っている。あの日の夜に交わした約束を信じて…。
1年半前。
毎晩私の家に会いに来るトシはその日、いつになく真剣な面持ちで話し出した。
「俺たち、江戸でデッケェことやってくる」
『あ、そーちゃんがお昼に言ってたよ。道場のみんなで江戸に行くんだ、って』
「…あのガキ……俺が最初にナマエに言いたかったのに」
『ふふ、負けず嫌いなんだから…』
縁側に座っている私は、隣にいるトシの顔が見れなかった。目が合えば、別れの言葉を言われそうだったから。
「ナマエ…」
『私も一緒に行きたいけど…無理よね、邪魔だもん』
「悪ィ、でも邪魔なんかじゃ…」
『わかってる、よ…』
涙が溢れ出そうになるのを必死に堪えて、笑顔を浮かべる。きっと今の私は、すごい顔をしているだろう。
「迎えに…来るから」
『…へ?』
「江戸で落ち着いたら、ナマエを迎えに戻って来る。そしたら…」
その時のトシの顔は、指輪をくれたときと同じくらい真っ赤で、「あー」とか「うー」とか言いながら、頭をガシガシ掻いていた。
「土方ナマエになってくれないか…?」
トシたちが江戸に旅立ってから、新聞には真選組の活躍が何度も掲載されていた。それを見る度にトシが私を迎えに来てくれる日が近付いてく気がして、自然と笑顔が溢れた。
けれども同時に、トシがどんどん遠い存在になっていってしまって……私なんて忘れてしまっているんじゃないか、とも思った。すると徐々に寂しさが込み上げてきて、胸が締め付けられるようだった。
昨日の夜ニュースを見ていたら、真選組が攘夷浪士を大量に検挙したらしい。
今朝はいつもより少し早く起きて、トシたちの活躍が載っているであろう新聞を読むのを楽しみにしながら玄関へ向かう。
もう春だけど、朝方はやはり冷え込んでいて、戸を開けると体が震えた。
外へ一歩踏み出すと、誰かがウチの門に寄りかかっているのが見えたので、声をかける。
『あの、ウチに何か御用ですか?』
私の言葉にピクリと反応した人物は、ゆっくりとこちらに顔を向けた。
彼は私がずっと待ち望んでいたまさにその人で、別れた時はまだ長かった髪をバッサリと短く切ってはいたけれど……間違いなくトシ本人だ。
『ト、シ……』
「元気だったか、ナマエ」
ニヤリと笑ったトシの足元には何本もの短くなったタバコが落ちていた。一体何時間ここで待っていたのだろうか。
「約束」
『え…?』
「約束、果たしに来た」
そう言いながらトシは一歩ずつ近付いてきて、私の左手を取った。
「…土方ナマエに……なってもらえますか?」
私の左手の薬指にはめられたのは、小さな飾りのついたシンプルな指輪。
顔を上げれば、不安と期待の色を浮かべたトシの目が見えた。
ずっと待ち望んでいた彼の迎え。それに対する返事は初めからイエスに決まっている。ボロボロ溢れ出す涙を拭って、必死に首を縦に振った。
私の答えを聞くと、トシは「よかった…」と言って嬉しそうに微笑んで、私の手を取って家の玄関に向かった。
『何するの?』
「1年半前…ナマエだけじゃなく、親父さんとも約束してたんだ」
『ウチのお父さんと?何の約束?』
「…次に俺が親父さんに会いに来るときは、ナマエを貰いに来るときだ。ってな」
そんなの全然聞いてない!
そのことを知っていたら、不安は半減していただろう。寂しさでいっぱいだった、この1年半を返せ…!
恨めしそうにトシを見れば、私が何を思ってるかが分かったのか、まだ私の目尻に溜まっていた涙を掬って「悪ィ悪ィ」って謝った。
私のお父さんに挨拶したとき、トシが微妙に緊張しているのが分かった。
お父さんには一週間くらい前に予め連絡してあったらしく、とんとん拍子に話が進んでった。トシはその日の夜はウチに泊まって、次の日帰るトシと一緒に江戸に行くことになった。
久しぶりに近藤さんやそーちゃんに会えるのが嬉しくて、トシが本当に迎えに来てくれたのが嬉しくて、その日はなかなか眠れなかった。
「昨日の朝ココに来たとき、最初は不安だったんだぜ。ナマエが俺のこと忘れて、恋人とかいたらどーすんだ…って」
『そんなのお互い様です~。江戸なんて、可愛い人たくさんいるんでしょ』
駅のホームで電車を待っている間、離れていた時間を埋めるように私たちはずっと話していた。
「でもな、ソレ…右手の薬指にまだはめてくれてたから……」
『…だって約束したでしょ。左手の薬指にはめる指輪、くれるって』
忘れるわけないじゃない、あなたと交わした…
薬指の約束
(近藤さんやそーちゃん、元気?)
(ウザイくらいな。)
(土方ナマエ、って名乗ってもいいかなぁ?)
(…勝手にしろ)
(トシ、耳まで真っ赤だよ~)
(う、うるせェ!!)
企画サイト初めまして、さようなら。様に提出。参加させていただいてありがとうございました!
2008.3.5 愛紗