逆転サヨナラホームラン【土方】
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3月3日、今日は銀魂高校の卒業式。
いつもよりちょっと気合いを入れて髪をセットして、制服のスカートも普段よりちょっと長くした。
朝、教室に集合したときには全員で銀八の正装に爆笑した。
もうこんな風にみんなで笑うのもなくなるんだな、と思うと急に寂しくなってきて、ちょっぴり涙が出た。
ひとしきり笑った後、銀八の真面目な話(今日の予定の確認だ。)が始まって、退屈になった私は隣の席に目を向けた。
そこにはいつもの大好きな彼の横顔――土方十四郎。
土方という人は素晴らしい人間で、剣道部で2年連続インターハイ出場。勉強もそつなくこなして今年の学年首席であり、その上容姿端麗でサバサバした性格なので友達が多く、女子にもモテモテなのにも関わらず彼女がいるという話を聞いたことは一切ない。
以前その理由を聞いたら、「俺にだって好きな奴くらい、いるんだよ」だって。
それを聞いた私の胸はズキリと痛んで、ああ私は土方のこと好きだったんだと初めて気付いた。
けれど敗けると分かっている勝負なんてしたくない。それどころか既に不戦敗な気分だ。
この恋は今日という日に一緒に卒業してしまおうと思った。
土方は今日卒業生代表で答辞を読む。
進学先の違う私たちが出会うとなると、同窓会くらいしかないだろう。その頃にはお互い家庭なんかを持ってたりして、今の気持ちが残っているはずはない。
だから今日壇上に上がる土方を、目に焼き付けておこうと思った。
「じゃ、移動すっぞー。お前ら頼むから卒業式の間は大人しくしといてくれよ」
『土方っ』
みんながゾロゾロ廊下に出る中、ありったけの勇気を振り絞って土方を呼び止めた。
「ナマエ…何?」
『あ、その…答辞頑張ってよ?』
「任せとけって、お前…泣くなよ?」
ニヤリと笑って言う土方に、誰が泣くか、なんて可愛くないこといいながら一緒に体育館に向かう。
こうして並んで歩くことも今日が最後。冗談を言い合えるのも今日で終わりだし、卒業してしまえば毎日会うなんて不可能だ。
寂しい気持ちを小さな胸に押し込めて、いざ入場。
PTAの会長や教育委員会の偉い人のダラダラと長い話を聞いていく。聞くといっても頭には何も入ってこなくて、ただボンヤリと時を過ごした。
【答辞、卒業生代表―…土方十四郎】
進行役の先生の言葉にふとステージを見れば、階段を上がっていく土方の姿。
「答辞、」
マイクを通してゆっくりと響く私の大好きな低い声に思わずドキッとする。ああ、なんてカッコいいんだろう。
「―、思えば3年前……」
チラと目線だけを後ろに向ければ、号泣する下級生の女の子達。土方の人気っぷりは学年を超えたもので、学校中の女子のうちどのくらいが土方に惚れているのかを考え出せばキリがない。
私だってホントは泣きそうだったけど、もうしばらく見れないであろう土方の姿を心に焼き付けようと必死だった。
「…卒業生代表、土方十四郎」
ああ、もう終わってしまったのね。完全に不戦敗だ。
在校生が作った花道を抜けて、再び教室に戻るといつもの3Zらしく大騒ぎ。
銀八でさえ、卒業式の間大人しかっただけでも奇跡か、なんて言っちゃってる。
解散する前にひとり一言ずつ挨拶することになって、そういえば土方だけじゃなくてみんなとも会えなくなるんだよなぁ…なんて今更なことを考えていた。
廊下側から順に横へいっているから、どうやら私は最後のようだ。こんな個性的で「銀八と愉快な仲間たち」なんて呼ばれてる3Zのシメが私なんて、責任重大すぎるけど仕方ない。最後くらい真面目にしめたってバチは当たんないでしょ。
「んじゃ次、多串くん」
「土方だって。最後までソレかよ…」
呼ばれた土方は文句を言いながら、ガタンと椅子を鳴らして立ち上がる。
「大変なことが多すぎだったけど、3Zでそれなりに楽しかったです」
普通の挨拶をする土方の顔を見上げて、やっぱりどの角度から見てもカッコいい。なんて思ったりしながら聞いていたら、総悟の声が割り込んできた。
「土方さん、最後なんだし言っちゃいなせェ」
「は?何が…」
「とぼけたってダメでさァ…ナマエのこと、好きなんでしょう?」
「はァ!?」
え、総悟…今、何て…?
「あらやだ、沖田くんだけじゃなくて私たちも気付いてたわよ?」
「志村っ…!」
「気付いてないのなんてナマエだけアル」
2人まで何を…?
「あーくそっ!」
そう言って土方は髪をグシャッとかきあげた。
土方の、好きな人が…私?
「…ナマエ、その、俺…」
顔が真っ赤で、いつもの土方らしくないハッキリしない話し方。目はキョロキョロしながらいろんなところを見てるし……これはもしかして、自惚れちゃってもいい感じですか?
「俺、ナマエのこと…」
ああ、そういえば土方には好きな人がいるって言ってたよね。もしかして、勝利の女神が…。
「ナマエのこと、好きなんだ…付き合ってくれ!」
『…っ!』
「ナマエ~、返事してやれー」
うるさい銀八!
3Zのみんなもニヤニヤしながらこっち見てるし、私の隣には真っ赤なゆでだこみたいな土方。
答えなんて当然決まってるじゃない。
『浮気したら、許さないから…』
「え、ってことは…」
『バカ、分かってよ!』
私は今日、高校と土方の「友達」から卒業しました。これはまさに…
逆転サヨナラホームラン
(ほ、本当か!?よっしゃぁあぁ!!)
(ちょ、こんなとこで抱きつかないで!苦しい!)
(おーおー、見せ付けてくれるねェ。キミタチ…)
ヘタレのくせに大胆トシくん目指したのに撃沈。
2008.2.26 愛紗