青空【土方】
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むせかえるくらいの青空
あの時から何も変わっちゃいねぇ。
最後にお前と話したのは
どのくらい前だったのだろうか。
「トシ、」
「近藤さん、……今行く」
こんな形での再会なんて、
誰が望んだことだろう。
「土方ァ、とっとと行きますぜィ。チンタラしてんじゃねー。死ねよ土方」
「…」
「では姫様の警護、ヨロシクお願いします」
「えぇ、任せて下さい」
今日の俺たちの仕事は
上様に嫁ぐ姫の護衛。
その姫って言うのが…
「近藤さん、総悟、トシ…!」
「ナマエ、お久しぶりでさァ」
「コラ総悟、ナマエ様だろ」
「おっとコリャ失礼。ナマエ様、この度は…」
「いいんですよ、そんな畏まらなくても」
「そういう訳にはいかねェだろ、ナマエ様。仮にも上様に嫁ぐ身なんですから」
「トシ…」
「ナマエ様、なかなかやりますねィ。どうやって上様を落としたんでィ?」
「おま、総悟!失礼ぶっこいてんじゃねェ!!」
俺たちの幼馴染みで
良家のお嬢様で
今から上様に嫁ぐ
俺の初恋の女。
俺は意外と一途らしく
江戸に出た後も
忘れた事は一度もなかった。
近藤さんも総悟もその事に気づいてるみてェで、
今日も(彼らなりに)気を遣っていたらしい。
この結婚は上様の一目惚れ。
何かの会の場で、ナマエは見初められて
今日、上様の元へ…。
もう絶対手に入らないんだなって思うと、
理解しているはずなのに
やっぱり、辛い。
「土方、何ボーッとしてんでィ。キモっ」
「よォォオォし総悟、完璧喧嘩売ってんな!?今すぐ切り刻んでやる!」
「ふふっ…昔と全然変わってないのですね」
「ああ…アイツらもナマエ様が嫁いでくのが寂しいんですよ」
「あら、そうなのですか?それと近藤さん、敬語はやめてくださいません?」
「え、でも…」
「命令です」
「…ハハッ、ナマエ様には敵わねぇなあ。呼び捨ては勘弁してくださいますか?」
「ふふ、仕方ありませんわね」
「オーイ二人とも、そろそろ行くぜ!!」
本当は総悟の言葉にキレた訳じゃねぇ。
総悟とバカやってねーと
嫁いでくナマエを見て
平然としてられる程大人じゃねぇんだ。
今日ナマエが上様の所へ行くのは公には秘密。
というか嫁ぐこと自体秘密だ。
ご成婚パレードで初めて御披露目されるらしい。
というわけで、警護も俺たち三人とあと何人かの少数。
こんなんでいいのか?
とは思うが、まあナマエを狙う奴なんていねーだろ。
「あー暇でさァ。誰が襲いかかって来ねーかねィ?」
「…テメェ、ナマエの安全が第一だろ」
「分かってっけどよ、土方さん。…土方さんはそれで良いんですかィ?ナマエに気持ち伝えないままで」
「…今更、どーしろってんだよ」
「ハァ、ヘタレが!」
「んだとゴルァ!!」
そう、俺は未だかつて
ナマエに俺の気持ちを伝えたことがねぇ。
だってアイツは大富豪のナマエ家の一人娘だったし、
身分が違うと思ってたんだ。
…今から思えば、あの時の方が近い存在だったがな。
「城まであと少しだな…」
「無事に事足りて、よかっ……」
ザッ!
「どけエェエェェ!!」
「「!?」」
急に一人の男が飛び出してきて、ナマエの乗ってる籠に向かって走り出した。
「くっ!」
間に合え、間に合え間に合え!
ガキィィイン!
刀と刀のぶつかり合う音。
なんとか、間に合っ…
『え、何事ですか?』
「!」
近藤さんが、籠の脇に仕えていたナマエの世話係(名前は確か磯貝)に、籠と一緒に避難するよう誘導している時、
籠の窓からナマエがヒョッコリ身を乗り出した。
あのバカ!
その瞬間、男がニヤリと微笑んでからナマエが倒れるまでは
ほんの一瞬の出来事だった。
辺りに響く銃声に、
俺は周りがスローモーションで見えた。
全てのモノがゆっくり動くのに、俺はピクリとも動けねぇ。
総悟がナマエの盾になるべく横から飛び出したが、一歩間に合わず。
ナマエは籠からずるりと落ちた。
「ナマエ様!!!」
隙の出来た男の腹を殴り気絶させ、俺はナマエの元に走った。
『……ト…シ、?』
倒れたナマエを抱き上げて様子を見ると、まだかろうじで生きていたが、それも時間の問題。
綺麗な着物はナマエの血で真っ赤に染まっていった。
「ナマエ様、ナマエ様ナマエ様!お気を確かに!!」
息をするのも辛そうなナマエ。
俺は形振り構わず叫んだ。
『ト、シ…。磯…貝……を、』
「姫様!」
【磯貝】と聞いて飛び出してくる使用人。
『い、そがい…、分かって、いるとは…思い、ますが……真選組の、み、なさまは……何も、悪く、ありませ、ん…。ぜん、りょ、くを、尽くしてくだ…さったのに…、私が、不注意、だった、のです。…この事、を、上様や…お父様に、キチン…と、伝え…なさい。命令、です。真選組の…皆様が、責め、られる…ことの、ない、ように……』
「我々はどうでもいいですから!喋ると、傷口が…」
「姫様!」
その時ナマエはたくさんの血を吐いた。
『私は、良いのです……!ト、シ…。私はもう、助かりません。』
「そんな事!」
『最期が、貴方の、腕の中と、いうだけで…私は、幸せ、です』
「…っ」
最期とか言うなよ。
…本当にもう二度と、ナマエと会えなくなっちまうのかよ。
『上様の、元に、嫁ぐ、者が…こんな、ことは…言っては、いけないの、でしょうが……、私は、あなたが、トシがずっと、……好きだったの、です』
「そんな、俺だってナマエ様の…」
『…やめて、ください。昔みたいに……ナマエ、と、呼んで…ください』
「…っ、ナマエ……!」
『トシ…、ありがとう』
「、愛してる…!ナマエ、愛してるから…俺を置いていかないでくれ……」
『…っ、私は、幸せ…です』
力なくふにゃりと笑ったナマエは、そのまま息を引き取った。
ナマエが死んでから三ヶ月、俺は今日も生きている。
ナマエを想って
ナマエの分まで、人生を楽しんでやるさ。
「ナマエ、今日もあの日みたいな、青空だぜ」
俺たちがガキの頃、
故郷の川原で遊んでいる中に、
必死な顔をして仲間入りしてきたナマエに、初めてあった日のような…。
青空
(死ね、土方アァアァァ!)
(お前、人がしんみりしてる時に!)
2008.1.25 愛紗
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