一夢
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「買い主…って、」
手にグラスを持ったまま、信じられないといった表情をする近藤さんを尻目に、志村妙は淡々と語る。
「安寿ちゃんのお家、昔はかなり有力な家だったらしいんですよ。けど、8年ほど前にお父さんとお母さんが相次いで亡くなって……その後、多額の負債が発覚したみたいで、」
どうぞ、と空になったグラスに新しく酒を注ぎ、俺の方にスッと差し出した志村妙は、俯き気味に話を続ける。
「お金を借りてたのが、今安寿ちゃんを囲っている奴で…安寿ちゃんには弟さんがいるらしいんですけど、その子を守るために自ら買われていったみたいですよ。だから、ついた呼び名が安寿姫」
安寿姫と言やァ……山椒太夫伝説に出てくる女か。確か姉弟揃って山椒太夫に売られたが、弟だけを逃がして自分は拷問を受けて死んだんだっけか?
若ェのに苦労してんだなァ、と近藤さんがため息をつき、またチラリと娘を見た。
「あの子とお話しできないの?」
「…安寿ちゃんと30分お話しをするのに、いくらかかると思ってるんですか?」
「そんなにするのか?」
「きっと、あなたたちの半月分の給料は軽く吹っ飛びますよ」
やっぱり近藤さんは人が善すぎる。どーせあの娘の話を聞いて感動し、少しでも力になってやろうと思ったんだろう。
しかしながら半月分は痛い。それに近藤さんの場合、志村妙に貢がなきゃならねェからな。さすがに無理だと悟ったらしく、残念そうにシュンとしていた。
再びカラン、と氷を鳴らし、グラスを口に運んで娘に目を向けると、ニコリと微笑んだままでお偉いさんに酌をしていた。すると見つめているのに気付いたのか、娘がこちらを向いて目が合った。瞬間、娘が無表情になった。
俺は一瞬ピクリとたじろいだが、じっと目線を外さずにいると、娘はすぐ微笑みを浮かべお偉いさんの方に向き直り、話に耳を傾けていた。
俺も近藤さんの方に向き直ると、いつもの光景が広がっていた。大方肩でも抱いたんだろう、キレイなバックドロップが決まっていた。