生きる世界、
ようやく意識を取り戻した時、目に飛び込んできた光景は信じ難いものだった。
トシが台所に立って、コンロをかまっているのだ!な、何で?
『ト、トシ…』
一生懸命声を振り絞れば、それに気付いたトシが飛んできてくれた。
「オイ、大丈夫か?」
『な、何とか…』
「だいぶ熱があるみたいだし、寝とけ。あ、体温計とか冷えピタとか薬とか…どこにある?さすがに女の部屋を勝手に漁るのは気が引けた」
『確か…あの棚の2番目の引き出し』
「2番目な、分かった」
マンガの土方十四郎からは想像も出来ないくらい、あれこれと世話を焼いてくれてるトシ。引き出しを探して、「あったあった」と嬉しそうに体温計やらを取り出した。
冷えピタを貼ろうとセロハンを剥がすも指にベタベタと引っ付いて、それがまた冷えピタにくっついて…いわゆる【可哀想な冷えピタ】が出来上がってしまった。
「…」
無言で【可哀想な冷えピタ】をゴミ箱に捨てて、再度チャレンジ!今度はさっきよりそっと剥がして、ゆっくりとおでこに貼ってくれた。お世辞にも器用とは言えないが、トシが一生懸命やってくれて嬉しかった。
「…あ、今な、粥を作ろうとしてんだ。食欲ねェかもしんねーが、何か食わんと薬のめねェからな」
『トシが、作るの…?』
「…アァ。俺でもそのくらい出来る……多分」
あ、いま最後に何か付け足した!逃げ道作った!
粥が出来るまで熱を計っとけ。と言われたので、おとなしく体温計を脇に挟む。
頭が冷えピタで冷やされているせいか、だいぶ気分がよくなってきた。(いや、体調悪いのはそんなに変わらないんだけどさ)
しばらくすると体温を計り終えた合図の音がしたので、取り出して見てみると38度ほどの熱があった。やっぱりか…。
「……出来た」
体温計をケースにしまうと、トシがヨロヨロしながらお鍋を持ってきた。心なしか、少しやつれているようだ。
『…トシ、大丈夫?』
「いやお前のが大丈夫?だから」
そう言いながらトシは、お鍋から小鉢に白い物体(恐らくお粥であろう)をよそってくれて、起きれるか?と聞いてきた。
それに応えるようにモゾモゾと動き出せば、トシが手を貸してくれて、腰を支えてくれた。受け取った小鉢に入ったお粥は…何だかよくわからない具がたくさん入っていて、よくわからない味だったけど…何となく優しい味だったような気がした。
「ど、どうだ…?」
恐らく料理をするのなんて滅多にないのだろう、下手したら初めてかもしれない。トシはその出来ばえを気にして、期待と不安に満ちた瞳でこちらを見つめていた。
『…美味しいよ、ありがとう……!』
そう言うとトシは、そっか。と言って照れ臭そうに微笑んだ。