確信と本音



『も、もしもしっ?!』


呼び出し音が1回鳴り終わるかどうかの瞬間、慌てた[#dn=2#]の声が聞こえた。あぁ、俺からの電話をずっと待っていてくれたのだろうか?そんな期待のこもった予想をしながら、電話の向こうにいる[#dn=2#]の姿を思い浮かべて口角が上がった。


「もしもし、[#dn=2#]?」

『トシぃ…!』


俺の名前を呼ぶ[#dn=2#]の声は震え、その上若干隠っていた。この声は多分、泣いてる。
泣いてる理由はわかる。きっと電話が繋がった喜びだろう。でも、何で電話が繋がったくらいで泣くのか。普通の恋人同士なら疑問に思うところだ。答えは至極簡単……俺たちが普通の恋人同士ではないから。何で俺は、好きな女の一人も幸せにしてやれねぇんだろうか。
そんな自分への悔しさに下唇を噛みしめ、やっとのことで次の言葉を紡ぎ出した。


「泣いてんのか?[#dn=2#]のこと泣かせてばっかだな、俺」

『そ、んなこと…!』


受話器の向こうから鼻をすする音が聞こえ、俺はますます自分に嫌気が差した。


「ダメだな、俺ァ…[#dn=2#]の側に行って、涙を拭いてやることもできねェなんて…」

『何、言ってんの…バカトシ!』

「…は?」


いきなりのバカ呼ばわりにポカンとなっていると、[#dn=2#]は捲し立てるように言った。


『涙くらい自分で拭く!それでもトシが自分を責めるなら私、弱さを見せないようになる!だからダメだなんて言わないで……私は、トシの声が聞けるだけで十分なの!だから…』

「…俺は、やっぱダメだ」

『え…?』

「惚れた女にそこまで言わせるなんて…ダメな男だろ?やっぱ[#dn=2#]がいなきゃ、ダメなんだよ」


そう言うと[#dn=2#]はフッと笑って『そうだよ、トシは私がいないとダメなんだよ…!』と嬉しそうに言った。



『じゃあ、新月の夜ならどちらから電話をかけてもいいってことだよね?』

「多分な。だけどどっちからかけるか決めとかねーと、話し中になっちまう」

『じゃあ次は私からかけるよ!』

「いや、そしたら[#dn=2#]に電話代がかかるだろ。俺がかける」

『そ、そしたらトシに電話代がかかっちゃうじゃない!』

「俺は公務員だからいいんだ。お前まだ学生だろ?」

『うっ…で、でも私だってバイト…』

「頼む、[#dn=2#]…」


俺が力を込めてそう言うと、[#dn=2#]は『うう…』とたじろいだ。ほんとは“電話代”というのは理由のうちの単なる一つにすぎない。本当の、一番大きな理由は……


「[#dn=2#]……ちょっとは俺にもカッコつけさせてくれよ」

『え?』

「だってお前、涙くらい自分で拭く!って…俺なんの役にも立てねーじゃねーか。知ってるか?男は二本足と意地と見栄で立つもんなんだよ」

『なぁに、それ!』


そう言ってやると、[#dn=2#]はクスクスと笑って『じゃあ、トシにお願いしちゃおうかな』と言ってくれた。



「じゃ、そろそろ…」

『うん……あ、あのねトシ!』

「ん?」


長く続いた電話を切り上げようと声をかけると、突然[#dn=2#]は決心したかのように声を上げた。優しく訪ね返すと、しばし沈黙の後、[#dn=2#]は『あのね…』と語り出した。


『トシ、トシが言ってくれたから私も言うけど……本音』

「本音?」


語尾に近づくにつれ小さくなっていく声を一言も聞き漏らすまいと受話器に耳を寄せた。


「本音?」

『私ねっ、トシに心配かけたくなくて強がってたけど…ほんとうは、寂しいよ?トシに逢いたくて、でも逢えなくて……今日も、電話通じるかなって、不安で…』

「…[#dn=2#]…」

『だけどやっぱ、トシには本当の私を知ってほしくて…』


へへ、と力なく笑う[#dn=2#]の声を聞いて、俺は思ったことを自然と声に出していた。


「俺は、もっと強くなる」

『トシ…?』

「剣もだけど…精神的にも。だから、お前が頼れるような男になるから…!俺の前では、強がるな…」

『…うんっ!』


電話を切って、俺は立ち上がった。袴に着替えて向かったのは道場。身体もだが、精神的に自分を鍛え直すため。…形から入るタイプなんだ、俺は。とにかく夜中、星の明かりのみを頼りに無心で木刀を振った。時間はかかるかも知れねェが…絶対[#dn=2#]にふさわしい男になる!


<hr />な、なんだこれ…/(^o^)\
もっとラブラブな話にしたかった、な…!


2009.4.26 春日愛紗
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