繋がる条件
『ト、シ?』
どきん、どきん。と大きな音で鳴り響く心臓の鼓動。胸に手を当てなくてもわかる。私は未だかつてないほど緊張していた。手は汗びっしょり、体はカタカタ震えていた。
「…あぁ、[#dn=2#]か?」
『…っ!』
やっぱ、聞き間違いじゃない。ずっと、アニメじゃなくて聞きたかった…トシの声。私は目頭が熱くなるのを感じたけど、ぐっと堪えて次の言葉を発した。
『うん、[#dn=2#]だよ…トシぃ……!私、ずっと…』
「…俺もずっと、[#dn=2#]のこと想ってた。元気でやってんのか?」
『ん、元気だよ!トシは?』
「俺も、元気だよ」
一瞬トシの声が遠退いた。きっとケータイを持つ手をかえたんだろうな。そんな何でもないような仕草にも、トシを感じた。
しばらくお互いをの身を気遣ったり、2人とも密かに期待して電話をかけていたことを話して笑いあった。しばらくして、私はふとあることを疑問に思った。
『ねぇ、そういえば何で今日は電話繋がったのかな?』
「あ、そう言えばそうだな…何か今日、特別なことしたか?」
『いや、別にいつも通りの日常だよ…トシも?』
「俺も特に変わったことはしてねェな…でも何かあるはずだ」
『だよね。トシが帰った直後数週間は当てはまらなくて、今日当てはまること…』
うーん…と考えながら手元にあった新聞を見ると、ふとある部分が目に入った。
『新月…』
「へ?」
『今日、新月だよ!もしかしたらこれが…』
「待ってろ!」
トシはそう言ってケータイを置いて(ゴトン、って音がした)何かをガサガサ漁っていた。何だろう?紙が擦れるような音だ。
「…パソコン探してた」
『何かに埋まってたの?』
「……まぁな」
受話器から、パソコンが起動するような音が聞こえた。そっか、たぶんトシが帰った直後の月齢を調べてるんだ。
『トシ、どうだった?』
「…やっぱり。俺が帰ったのが新月の日だから、その後しばらくは月が出てたはずだ」
『てことは、新月の晩に電話が繋がる…ってこと?』
「みたいだな。月の光からコソコソ隠れて言葉を交わすたァ、どこの世界の逢い引きだ」
そう言ってトシは笑っていた。電話が繋がる条件がわかった今、考えるのは【次にいつ電話できるか】ということ。次の新月…てことは約1ヶ月後、か。
『…また、話せるよね』
「あぁ…話せるはずだ。1ヶ月くらい間が開くが…寂しくねェか?」
『正直言うと、寂しいよ……でもこれからは、今までとは違うもん!』
「…そーだな」
今までは先の見えない暗い暗い道のりを歩いていたけど、これからは先に、希望の見える目標のある道を歩いていくんだ。
大丈夫、怖くなんかない。久しぶりにトシの声が聞けたし、気持ちも聞けた。1人きりでも大丈夫、もう涙は流さない!
『じゃあまた…』
「…ああ、月の出ない夜にな」
『……電話が繋がる条件ってほんとに、新月の晩なのかな?』
「お前、心配性だな」
『だってもし、次繋がらなかったら…』
「大丈夫だ、」
優しくそう言われた瞬間、私はトシが目の前で笑っているような錯覚にとらわれた。
「俺を信じろ」
トシだって不安なはずなのに、私を安心させるためにそう言ってくれるトシの本当の優しさを感じて、私は久しぶりに心が温かくなるのを感じた。
また会いましょう。目の前に現れることは出来ないけれど、月の出ない晩に。
1周年記念企画!
前々から多くの方から希望されていた続編です!
みなさまが期待していたような素敵な話は書けないかもしれませんが、温かく見守ってやってください!
2009.2.26 春日愛紗