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繋がる条件



トシが元の世界に帰ってから数ヵ月が経った。もう全く未練はない、と言ったら嘘になる。私はまだトシが好きだし、親指の指輪は外せずにいる。マンガを読むかぎり(色々大変そうだけど…)元気でやってるみたいだし、私は単行本やアニメでトシが観れるだけで、若干の強がりはあったけど十分だった。

でも最初の数週間は、ケータイの電話帳に登録されているトシの電話番号を眺めては発信ボタンを押して、機械的な「お掛けになった電話番号は…」という声に落胆しては静かに泣いていた。



『お疲れさまでしたー!』


いつものようにバイトを終えて帰路につく。途中にあるコンビニを通った時、ここでよくマヨネーズ買ったなぁ…なんて思い出しながら家に到着し、荷物をドサッと下ろした。今日は休日だから、バイトを終えて帰ったのは夕方。明日は学校もバイトもないので、今夜は夜更かししてやろうとサッサとお風呂に入ることにした。


お風呂に入りながらも思い出すのはトシのこと。忘れたことはなかったけど、何で今日はこんなに思い出すんだろう?
ぱんぱん!と両頬を叩いて気合いを入れた。トシのことをずっと好きでいるって決めたのは私だし、決めなくてもトシ以外を好きになれないとは思ってる。でもネガティブにずるずる引きずった感じで好きでいるんじゃなくて、もっと前向きに…!

ザパッと湯船からあがり、体を拭いて髪を乾かした。ここまでは別に、何て事ない日常。ふと気になった、テーブルの上に放置されたケータイを手に取り、無意識に電話帳で「ひ」の行を探した。たどり着いたのはもちろん「土方十四郎」。


『こんなことしても、もう通じないのにね…』


自分の考えをクスッと笑った。電話をかけようとも、もう私の声なんて届かない。トシの声を聞くことももう、できないんだ…。
何の気なしに発信ボタンを押した。そして、すぐに聞こえてくるであろう機械のお姉さんの声を待った。

この時からいつもとは少し違う…いや、そもそもはトシがこっちに来たときから全てが始まり、そして繋がっていたのかもしれない。


『…あれ?』


発信ボタンを押して数秒後、聞こえてきたのは呼び出しのコール音。いつもならこんな音、聞こえないはずなのに…。

いつもとは違う事態に心臓がドキドキと早く鼓動している。もしかしたらという思いが、心の中に浸透してきた。


プッ…とコール音が途切れ、電話口の向こう側からバサバサッ!と物音が聞こえた。私は緊張で乾ききった喉でゴクリと唾を飲み込んで、やっとの思いで声を出した。


『もし、もし…?』


その時の私の声は、自分でもわかるほど震えていた。



二夜*繋がる条件
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