親指と小指に



『私、トシの指輪を大事にする。だからトシも、この指輪を見て私を思い出して…?』

「…[#dn=2#]、だから俺のことは……っ」

『忘れない』

「[#dn=2#]…」

『トシ、私ね…トシの言うこと、ひとつだけ聞けないよ。この先こんなにも人を好きになることは、もうないと思うから』



ね?と言って、精一杯の勇気を振り絞って笑顔を作った。
そうしたらトシも笑ってくれて、薬指の指輪を外して私の方へ突き出した。





『ありゃ。トシの指輪、親指でもブカブカ…』

「[#dn=2#]の指輪だって、俺の小指でもギチギチだぞ…痛ェ」


お互いの指に合わない指輪をはめて文句を言う。それでも今この瞬間はとても幸せで、この時間がずっと続くんじゃないかという錯覚に捕われそうになった。




『あ、でもね…』

「ん?」



これだけは言っておかないといけないと思って、トシの服の裾をギュッと握って控え目にボソボソ言っておく。


『もしも戻った世界でトシに好きな人が出来たら、私のことなんて忘れてね?』


チラとトシの顔を見上げたら、驚いて目を丸くしていた。でもすぐに柔らかく微笑んで、私の頭をポンポンしてくれた。



「…俺だって[#dn=2#]と一緒だ。[#dn=2#]以上にいい女なんているはずねェだろ…」





そう言ったトシの顔が突然透け始めた。ああ、とうとう来てしまったのね。まだ触れている実感はあるけれど、もうすぐアナタの温もりも消えてなくなってしまうんだわ。
泣いたらダメ、トシに心配かけちゃう…絶対に泣くもんか……!

徐々に消えていくトシの体。それでも必死に私に言葉を伝えようとするトシを見ていたら、涙の勢いに負けそうになってしまう。
でもトシだってこんなに一生懸命頑張ってるんだよ、私だけ負けらんない…!!



「[#dn=2#]…俺たちはこの世界では結ばれねェ。だから…!」

『うん、うん…!!』


向こう側が見えるまで透けてしまったトシ。それでもまだトシはここにいる、笑って見送らなきゃ…。


「[#dn=2#]!」



大声で名前を呼んだトシは、そっと私にキスをした。トシからの最初で最後のキス。唇を通して伝わってくるトシの体温にほっとし、気が緩んでしまって再び涙がこぼれた。

唇が離されたのでゆっくりと目を開けると、そこには照れ臭そうに笑ったトシの顔。もうほとんど見えないけれど、まだトシはそこにいる。


涙を拭ってゆっくり微笑んで見せると、安心したのかトシは足の方からだんだんと見えなくなっていく。

そして最後に一言、私に声を掛けて消えていった。


トシが最後の力を振り絞って言った言葉は、私の心にしっかりと響いていた。






もしも生まれ変わって出会うことが出来たなら、絶対に[#dn=2#]を離さないから。







トシ、元気でやっていますか?漫画を見る限りは大丈夫そうだね。
私は今でもトシのことが忘れられません。この気持ちは、これからも変わらないでしょう。
やっぱトシが側にいないと不安になるときもあるけれど、そんなときは漫画の中でアナタを探します。
とても小さくて見にくいけれど…アナタの小指に光る指輪は、私に最大の元気をくれるものだから……。


もしもまた出会えたその時には、お互いの指にピッタリの指輪をはめましょう。





完結いたしました。
長い間のご愛読ありがとうございましたVv

愛を込めて!
2008.5.2 愛紗
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