親指と小指に
「[#dn=2#]のこと、忘れるわけねェ。忘れるわけねェんだが……不安なんだよ」
そう言ってトシは、私の髪を優しく撫でた。そっか、不安なのは私だけじゃなかったんだ。トシも私と同じくらい、不安に思っててくれたんだ…。
『例えトシが私のこと忘れてもね、私がずっと覚えてるから。だから…』
心配しないで。
そう言いたかった…。けれど言い終わる前に私の目から一筋の涙が流れ、続きを言うことは叶わなかった。
何で涙が出てきちゃうの?トシが変に心配しなくていいように、我慢するって決めたのに…!
「[#dn=2#]、泣かないでくれ」
『ごめっ…。すぐ、止めっ…!』
目をゴシゴシ擦って涙を拭こうとしたけれど、手首をトシに捕まれて止められてしまった。不思議に思ってトシの方に目を向けると、少し困ったように微笑んでいた。
「[#dn=2#]の涙を拭くのは、今は俺の役目だから」
『トシ…』
そう言って優しく、でも不器用な手つきで涙を掬ってくれた。
「だからもう泣くな。俺の他に涙を拭いてくれる奴が現れるまでは…」
『…うん』
「あと、戸締りはちゃんとしろ。俺ァもう、守ってやれねェから」
『うん…』
「それと……俺のことは忘れろ。[#dn=2#]ならきっと、俺よりも愛してくれる男が現れるはずだ」
『ねぇトシ、』
「…何だ?」
トシの一番最後の言葉には返事をせずに口を挟んだ。一瞬戸惑ったトシだったけど、ちゃんと返事をしてくれた。
『指輪、交換して』
「…指輪?」
頭の上にハテナマークを浮かべているトシを無視して、私は薬指の指輪を外した。