親指と小指に
もしかしたらトシが突然戻ってしまうかもしれない、という不安でいっぱいになってしまった私を包み込んでくれたのは、他でもないトシ本人だった。
トシの向かい側で体育座りをしていた私の隣に移動して、横からギュウッと抱き締めてくれた。そんなトシの胸に寄りかかって顔を伏せ、涙でグズグズになってしまった顔を見られないように…そして泣かないようにするのに必死になっていた。
「[#dn=2#]…」
『…トシ』
愛しそうに私の名前を呼んでくれるトシ。私はそれに返事をするけれど、トシの顔が見れなかった。もしも目が合えば、我慢してきたものがあふれてしまいそうだったから。
「[#dn=2#]、こっち見ろ」
『…無理』
「何でだよ」
『無理だから』
「[#dn=2#]…」
ああ、耳元で囁くように名前を呼ぶなんて…反則じゃない?
私はそれに逆らえるはずもなく、そっと顔を上げた。
「やっと見れた…[#dn=2#]の顔。もっとよく見せてくれよ」
そう言って微笑むトシは、私よりもずっと…泣きそうな顔をしていた。
zehn 親指と小指に