たった2文字
トシの爆弾発言に、私は心臓が口から飛び出すかと思った。
え、アレ、ちょっと待て。今トシは「[#dn=2#]」って言ったよね?それって私…だよね?え、でもトシは「[#dn=2#]」に「好き」って言ったんだよね?んんんー!?
こんがらがる頭を一旦落ち着けて、よく考えてみた。
そうだ、もしかしたら私じゃなく…別に[#dn=2#]さんって人がいるのかもしれない。そう考えると、1人で盛り上がってたのがバカみたいに思えてきた。
『うん、早とちりはイカンよ。冷静になれ[#dn=2#]』
さっき床に落とした買い物袋を持って立ち上がり、中身を冷蔵庫に詰め込んだ。
その間指の震えが止まらなくて、それは私が心のどこかで期待しているということを示していた。
『どうしよ…』
だって、仕方ないじゃない。好きな人に名前呼ばれて、寝言だったけど好きって言われて……嬉しくない人なんていないでしょ?
真っ赤になった顔は相変わらずで、それを誤魔化すためにシャワーを浴びることにした。
お湯を頭から浴びながら、ずっとさっきの言葉のことを考えていた。
「…俺ァ、お前が…[#dn=2#]が、好きだ……」
あれがもし、万が一私に向けられた言葉だったとして……私はどう返事をしたらいいの?
そりゃあトシのことは好きだし、告白されるなんて願ってもないことだ。でも…この気持ちを素直に伝えてもいいの?
トシはいつか絶対、元の世界に帰ってしまうだろう。帰るか帰らないか、選べたとしても…帰るだろう。私の知ってる土方十四郎とはそういう男だ。
シャワーを止めてお風呂の戸を開ける。部屋の方から音がしないので、トシは大方まだ寝てるんだろう。
『…神様って、いるのかな』
いるならなんで、こんなことになったんだろう?
結ばれることが不可能ならば、ずっとトシとは逢わせずにいてくれればよかった。
出逢う運命だったなら、同じ世界に生まれさせてほしかった。
私はどうしたらいいの?
ずっと昔、絵本で読んだ人魚姫の気分だ。
まだ幼い頃にこの話を読んだ私には、疑問しか残らなかったように思える。
人魚姫はお姉さんたちに渡されたナイフを持って、王子様の寝室に行きました。
《これを王子様の胸に突き刺せば、私は人魚に戻ることができる》
しかし人魚姫は、王子様を殺すことができませんでした。王子様の寝顔を見ていると、なぜか思い出されるのは楽しかった思い出ばかり。
《私には、王子様を殺せない》
《お姉様、ごめんなさい。さようなら》
悪い魔女に声を奪われたはずの人魚姫でしたが、最期に一言だけ言い残すことができました。
「愛しています、王子様」
そうして人魚姫は、海の泡となって消えてゆきました。
人魚姫、なぜ王子を刺さなかったの?
今になって、やっとその理由が分かった気がする。人魚姫は本気で王子様に恋してたんだ。自分の命よりも、王子様の幸せを取ったんだ。
でも、私はそんなに強くない。トシのことが大事だからこそ、離したくないんだよ…。
sechs たった2文字