正直な気持ち



トシに食べさせるお粥を作っていた私には、ある野望があった。
それは、トシに『あーん』ってしてあげること…!

普通なら恋人同士しか出来ないような荒業だけど、風邪でまともな判断を下せるような状態じゃないトシになら、イケるかもしれない!!
私たちが生きてきたのは、全く違う世界。どうせ両想いになれない運命だろうし、このくらい神様だって大目に見てくれるはず。


ウキウキしながら小鉢にお粥をよそってトシの方に振り向けば、顔をひきつらせたトシの姿があった。




『トシ、あーんして?』

「…え?ちょ、待っ…!」

『口、開けて?』



そう言ったら、風邪で真っ赤だった顔をさらに赤くして、右手で顔を隠しながら、意を決したようにこう言った。





「俺、猫舌だからっ…その……」




…かわいい。クールなキャラぶっといて、実は猫舌?
トシの意外な一面を見れたのが嬉しくて、作ったお粥を十分に冷ましてから再びトシの口元に運んだ。


『ハイ、あーん!』

「…あー」



おとなしく口を開いたトシは、「美味しい」と言ってお粥を全部食べてくれた。
薬を飲ませて、またトシが眠っている間に流しで洗い物をした。


トシが毎日私の隣にいてくれる…こんな幸せがずっと続けばいいのに。無理な話だって、分かってるけど…でも、でも……!



『…っ』


私の目から、一筋の涙がこぼれた。
私、トシに帰ってほしくない…ずっと一緒にいてほしい……!
でも、こんなこと口にしたら…トシはどう思うかな。困る?迷惑?それを思うとやっぱり直接トシには言えなくて、静かに眠っている意識のないトシに背を向けて、小さな声で呟いた。




『トシぃ…帰らないで、ずっと私と一緒にいて……!』


届くことのないその言葉を発した後、どんどん涙が溢れてきて、肩を震わせて声を殺して泣いた。






やっと自分の気持ちに正直になったヒロインちゃん。

2008.3.27 愛紗
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