ひな祭り大作戦!
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「あっ、妃咲!」
『あれ、総悟どうしたの?袴に着替えてる』
しばらく待っていると妃咲が帰ってきたので、俺は不自然にならないよう心がけながら声をかけた。
「今日の仕事はもう終わりでさァ。どうでェ妃咲、一緒に新しく出来た甘味処行きやせんか?」
『甘味処!…あ、でも……』
妃咲の顔は一瞬パアッと輝いたが、次の瞬間には少し曇った。妃咲の言葉はそこで終わったが、その続きには『2人で行くと、トシくんが嫌がるかも』が来るに違いない。別に自分がマイナス思考であると思ったことなんてないが、どう考えても妃咲は今土方さんのことを心配している。誰が見ても一目瞭然だ。わかりたくもないのにわかってしまった自分をふっと笑い、俺は笑顔を作って妃咲に言った。
「…土方さんのことなら、許可取りやしたぜ?」
『本当!?じゃあ行きたいっ!』
俺がそう言った途端、妃咲はニッコリと笑顔になった。大好きな妃咲の笑顔のはずなのに、俺の心はチクリと痛んだ。
『ねぇ総悟、早く行こうよ!』
「走ると転びやすぜ~」
『こ、転ばないわよ!』
むっと膨れてこちらを睨む妃咲。何て顔をするんでィ…そんな顔したって、ただの可愛い仕草にしか見えねーのによう。
俺って相当、妃咲に惚れ込んでんだなァ。客観的に見れば、ただの横恋慕にしかなんねーのに。愛し合っている男女の間に割り込むなんざ、ただの野暮ってもんでさァ。
『総悟、どした?』
「へ?」
『眉間に皺寄せて、怖い顔してたよ?どっか痛いとか?』
妃咲の声で我に返れば、妃咲は『甘味処、やめとく?』なんて心配そうに俺を気遣ってくれた。そんな妃咲の頭をポンと撫で「大丈夫でさァ、さっさと行きやしょう」と言えば『うん!』と満面の笑みで答える妃咲は、いつにも増して輝いていた。
やっぱアレだ、いい女は幸せになんなきゃいけねーんだ。俺の想いが叶うよりも、妃咲がいつも笑っていられる方がいい。
何かが吹っ切れた俺は、甘味処への道に歩を進めた。
『美味しいー!』
「よかったですねィ」
甘味処でかなり注文を迷った結果、あんみつを頼んだ妃咲はそれを口にして悶えていた。この顔が見れただけで、俺ァ幸せでさァ。
『総悟のわらび餅も美味しそうだね…1つちょうだい?』
「いいですぜ、ほら」
『わー!ありがとう!じゃあ私のあんみつも一口あげる』
わらび餅を1つつまんで口放り込んだ妃咲は、あろうことか自分のあんみつを俺に勧めた。俺がこのスプーン使ったら間接キスになるってのに、妃咲は何も考えていないのだろうか?それとも、俺は意識する対象ですらないということなのだろうか?
…さすがに後者だったら悲しすぎる。あんみつを目の前にして考え込んでいると、妃咲は頭の上にクエスチョンマークを浮かべて言った。
『前勲さんと来たときにも、私の抹茶プリンと勲さんの白玉、交換したんだよ!』
その言葉を聞いて、本気でズッコケそうになった。そうだ、妃咲はこんな奴だ。何も考えてなくて、ドジで危なっかしくてほっとけねェ。俺が知っている妃咲と、目の前の妃咲が変わりないことが嬉しかった。ま、当たり前のことだけど…。「じゃ、いただきやす」と言って一口貰った。あんみつは甘くて、優しい味がした。
『どう?』
「…旨いでさァ」
『よかった!』
このあんみつが今まで食べた中で一番美味しく感じたのは、きっと妃咲の笑顔付きだったからだと思う。
『そうだ!ここのお団子、みんなにお土産で持って帰らない?』
「お、いいですねィ」
しばらく他愛ない話をしていたが、急に妃咲がそう言った。店内の時計に目を向けると、まだ4時だった。6時まで帰るななんて、近藤さんも無理を言うよな~…などと愚痴混じりの感情が彷彿されたが、あることを思い付いた俺は「俺が頼んできまさァ」と妃咲を残して席を立った。
「あのー、すいやせーん」
「ご注文ですか?」
「団子40本くらい、2時間かけて作って下せェ」
「40本ならすぐご用意出来ますけど」
「…じゃあ100本くらい」
「100本なら30分でご用意出来ますよ」
「…2時間かかる量を下せェ」
「…はぁ?」
ノリで大量の団子を買っちまったが、これも近藤さんのせいでィ。真選組につけとこーっと。妃咲には「俺が金出しときやす」と言っておいて、残り2時間何をするか頭を捻った。
「どっか行きたいこととかありやすか?」
『んー…そうだなぁ、ここ!』
「へ?」
『こんなゆっくり総悟と過ごすの、久しぶりじゃない?おしゃべりしてようよ!』
そう言って笑い、メニューを眺めだす妃咲を見て、ポカンとしてた俺は「やっぱ妃咲には敵わねーなァ…」と小さな声で呟いた。妃咲は『何か言った?』と言っていたが「何でもありやせん」とだけ言って俺もメニューを眺めた。
最初は妃咲と2人でいられることが嬉しかったが、幸せそうに土方さんの話をする妃咲を見て「俺は何でこんな所にいるんだろう」と思った。同時に少し、近藤さんを恨んだ。近藤さんは俺が妃咲に惚れてるって知ってるから、いつも土方さんと一緒にいる妃咲との時間を持ってやろうとしてるんだろうが、これじゃヘビの生殺し状態だと思ってた。
でもやっぱり、妃咲の笑顔は好きだ。ちょっと、いやかなり悔しいけど…土方さんの話だろうとも、妃咲には笑っていてほしい。ったく、近藤さんもバカだが、俺も相当なバカでさァ。
『総悟、』
「何でィ」
『これからも仲良くしてね?』
「…当たり前でさァ」