聖夜が為にいざ参る
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『…ふー』
私は縁側に一人で膝を抱えて座っていた。日中は比較的暖かかったけど、やはり夜は冷え込む。冬特有の澄んだ夜空を見上げて一度息をはいた。白い息は闇に吸い込まれて消えた。
お酒を飲み始めた後(例の如く未成年である総悟も!)、私一人シラフの状態でいたんだけど……みんなに寝られてしまうとさすがに寂しい。押し入れから引っ張り出した毛布を全員に掛けて部屋を出た。
楽しかったよ、みんなでパーティーをしたのも。けどやっぱり、トシくんとも一緒にいたかった。そしてある期待もしていた。もしかしたら、パーティーが終わった後とかに一緒にいられるんじゃないか、と。でも私が毛布をみんなに掛けているとき既にトシくんはいなくなっていた。きっともう部屋に戻って寝たんだろうな。
滲んできた涙を右手で擦り、その手に握られている小さな箱に目を向けた。それにはシンプルなラッピングがされていて、10日ほど前から毎日のように眺めていたものだ。
バカだよね。プレゼントなんて買ってたって、トシくんはもう寝てるだろう。改めて明日渡すのも恥ずかしいし……どうしようかな、コレ。
ぐす、と音をたてて鼻をすすった。何やってるんだろう私。もう部屋に戻ろう。そして、明日の朝は何事もなかったかのように挨拶しよう。
再び溢れた涙に気付かないフリをして立ち上がり、右手のソレを袂にしまおうと左腕を少しあげると、その向こうにトシくんが見えた。え、何で?
『トシくん…』
「妃咲、お前何でそんなとこいるんだ?」
寒いだろ?と自分の半纏を脱いで私の肩に掛けてくれた。私はというと、完全に「トシくんは寝た」と思い込んでいたので突然の出来事についていけずポカンとしていた。
「…ん?おまっ、泣いてるのか!?どうした!!?」
トシくんは近付いて初めて私の涙に気付いたみたいで、着流しの袖で優しく拭いてくれた。
『トシくん、寝たんじゃ…?』
「あ?寝てねーよ」
コレ取りに行ってたんだ、と懐から取り出したのは、可愛くラッピングされた長細いもの。何だろう?と見ていたら、「受け取れよ!」と手に載せられた。
ゆっくりとリボンをほどいて丁寧に包装紙を開けると、真っ白な箱が出てきた。蓋を開けると、そこにはクローバーをモチーフにしたネックレス。キラキラした石が何個かついてるけど…これまさかダイヤモンドじゃないよね?
『これ…』
しばらくネックレスを見た後に顔をあげると、顔を真っ赤にしたトシくんはバツが悪そうに頭をガシガシかいていた。
「プレゼント、何がほしいかわかんなかったから…一番妃咲に似合いそうなやつ選んだんだけど……」
『トシくん、が…?』
「…何が流行ってんのかわかんなくてよ、気に入らなかっ………って何でまた!?」
私は箱を握りしめて泣いていた。それにギョッとしたトシくんは、慌てたようにまた袖で拭いてくれた。
『流行り物より何より、トシくんが選んでくれた物が一番嬉しい…!』
ありがとー…!とお礼を言うと、トシくんは照れたように頬をポリポリかいていた。
『私もプレゼント買ったんだよ』
「マジでか、別によかったのに」
でも嬉しい、ありがとな。と笑ってくれたトシくんに私からのプレゼントを渡した。気に入ってもらえなかったらどうしよう…。
「これ、腕時計…」
『…いっつもトシくんつけてないでしょう?見廻りの時とか不便かなぁと思って』
「でも高かったんじゃねーの?」
『まさか、安物で申し訳ないくらい!トシくんはこんなに素敵なものくれたのに……』
本当に申し訳なくてしょぼんとしていたら、トシくんは黙って時計を取り出して腕につけてくれた。
「すげ、ピッタリだ」
『ホント?よかった!』
「…ありがとな、スゲー嬉しい」
似合うか?と本当に嬉しそうに笑ってるトシくんを見ていて、すごく幸せな気分になった。人にプレゼントをあげてこんなに嬉しくなったのは初めてかもしれない。
『トシくん、これつけて!』
「俺が?」
ネックレスを箱から取り出して『お願い!』と頼むと、トシくんは「仕方ねーなー」とか言いつつ笑顔で受け取ってくれた。
丁寧にチェーンを外して、ゆっくりと私の首のあたりにネックレスがかかった。私の耳の横の方から首の後ろを覗き込んでつけている時は、ふんわりトシくんの匂いがしてドキリとした。自分から言い出したくせに、私は終始緊張しっぱなしだった。
『どう、かなぁ…?』
「…似合ってる、かわいい」
何だか目が合わせられなくて伏し目がちに問いかけると、トシくんは優しく微笑んでそう言ってくれた。
そのまま手がこちらに伸びてきて、ゆっくりとトシくんの方へ引き寄せられた。
結構外にいたせいか、冷えきっていた体がじんわり暖まっていくのを感じた。さっきまで寂しかった心も、今では満ち足りていた。
「妃咲…」
そう耳元で囁かれて、体がビクリと跳ねた。もう、何でこんなに反応しちゃうんだろ!
腕の中から顔を見上げると、トシくんはすごく真剣な表情でこちらを見ていた。でも顔は赤かった。
「…こないだの続き、していいか……?」
こないだの続き、そんなの何かなんて分かってる。心臓の音が聞こえちゃうんじゃないかってくらい激しく鼓動してたけど、キュッと口を結んで小さく頷いた。
するとトシくんは小さく笑って私の肩に両手を置いた。じわじわ近くなっていく距離に合わせてゆっくりと目を閉じ、それと同時にトシくんの着流しの胸元を握った。
唇に柔らかい感覚を感じて、それからどのくらいの時間が経ったのかわからない。もしかしたら一瞬だったかもしれないし、もう少し長かったかもしれない。
唇が離れていくにつれて徐々に目を開けると、なぜかトシくんは俯いていた。なんで?
『…トシくん?』
「ちょ、待って」
『え?』
少し顔をあげたトシくんは手で口元をおおっていて、キスをする前より真っ赤だった。
「その…妃咲の唇が……思ってたより柔らかかったから、驚いた」
『…もう、』
ふふっと笑うと「笑うなよ!」と恥ずかしそうに言ったトシくんと目が合って、二人で笑った。
『キスするの、トシくんが最初で最後がいいな』
「当たり前だろ、妃咲は誰にも渡さねーよ」
連載第二十二話。
やっとチューです。長かった…!(笑)
2008.12.24 春日愛紗